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第六章 女神の洗濯
ショッピング・ロード
しおりを挟む宗教団体の潜入から抜け出した俺たちは、とりあえず商店街を歩いていた。
ちょっと考えたくらいでどうなるわけでもない。帰って皆に相談してみよう。
その前に、レイチェルの提案で商店街を歩きながら帰ることになった。たまには羽を伸ばしたいということだが、お前はいつも伸ばしっぱなしだろう。まあいいが。
考えてみれば、レイチェルと二人きりというのは久しぶりだな。
「えへへ、イングウェイさん、私もインギーって呼んでもいいですかー?」
「好きにしろ」
レイチェルはもたれかかるように腕を組んできた。足取りはしっかりしているようだが、まだ酔っているようだ。まったく、一人で歩けないほど飲むなと、いつも言っているのに。
歩くうちに道は白く整備された石畳に代わり、王城がずいぶん近くに見える。
食料品の並ぶ市場はよく見て回るけれど、よく考えたらこっちの通りは珍しい。
通りには服やアクセサリといった類の店が並んでいる。アクセサリといっても魔力のこもったやつではなく、ただの純粋な装飾品だ。
「まるでデートみたいですねー」
レイチェルはウキウキで、さらに腕に絡みついてくる。胸が当たって歩きにくいが、言わないでおこう。
なにせ、女性に胸の話は禁句なのだ。デリケートな話題である。
特にマリアあたりに魔力量の話なんて振った日には、夕食のスープの具に指がごろごろ入っているなんてことになりかねない。
「あ、インギーさん、あれ食べたいですー」
「ん。なんだこれ、焼き鳥か?」
どうやら鳥のひき肉を丸めて、焼いたものらしい。大きな串に、肉団子が三つほどついている。
「あ、カップルサービスがあるそうです、一つ肉団子プラスですって!」
ふむ、買ってみるか。
「へい旦那、べっぴんな嫁さん連れてるねえ。ちょっと待ってな、すぐ作るぜ」
渡された串には、確かに団子が四つついていた。ついてはいたのだが……
「ぐびり。うん、ぬるいビールはまずいですねー。まあ飲みますけど。 さて、これ、どうやって食べたらいいんでしょう……」
「うーむ、困ったな。 ぐびり。焼き鳥にはビールだと昔先輩に言われたのだが、やはり文化が違えば勝手も違うな」
紙袋で渡されたので気付かなかったが、四つの団子は串全体を覆い隠すように連なっており、持ち手もない。
「そうだ、こうすればいいんですよ!」
レイチェルはぱんと手を叩き、おもむろに団子にかぶりつく。そして少し行儀が悪いが、俺の方に団子を突き出してきた。
「あ、なるほど」
俺は逆側から団子をもぐもぐと食べていく。
レイチェルと目が合い、少し気まずい。顔が赤いのはきっとアルコールのせいだろう。
もぐもぐと食べ進めるうち、俺たちは二つ目の団子に入る。
二人の顔がさらに近づく。
「あー、あのおにーちゃんとおねーちゃん、ちゅーしようとしてるー!」
ごほ、むぐ、げほっ、ぐはっ。
唐突に幼女の声がして、驚いた俺たちは串で喉を突きかける。
「こら、アヤ、しーっ! 青春のじゃましちゃいけません!」
お母さんが幼女を手を引いて、小走りで去っていく。
ふと見回すと、幾人かがぱっとごまかすように不自然に目をそらす。
いかん、ムダに注目されてしまっていたようだ。
「……いんぎーさん、帰りましょっか」
「ああ、そうだな」
俺たちは小走りでその場を後にする。二人の手は、いつの間にかしっかりと握られていた。
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