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第七章 製造と販売
発想の転換
しおりを挟む洗濯機の製作は困難を極めた。
まずは鍋で実験をした。鍋の底にプロペラを付けてみたのだ。いわゆるミキサー方式。
結果はすぐに出た。
マリアの下着は、細かく切り刻まれた。
当たり前だ、ジューサーと同じ構造なのだ、こうなるに決まっている。気付かなかった俺が悪い。
へこむ俺。慰めるマリア。
「一回目からそんなにへこんでたら、何も作れないよ。だいたいボクなんて、いつも失敗ばかりで素材をダメにしてるんだし……。 ・・・・・・お い イ ン グ ウ ェ イ 、 き み は い っ た い 何 を 鍋 に 入 れ た ん だ い ?」
「ああ、君の下着(パンツ)だが、それが何か? 鍋が小さくて、それくらいしか手ごろな布切れがなかったのだ」
ぎろりとこちらを睨むマリア。鍋の中の細切れになった布切れを見て、ぷるぷると震えている。
しまった、お気に入りの服だったか。申し訳ない。
俺は素直に謝罪する。マリアからは冷たい魔力の流れを感じた。おお、戦闘の修行も行っているようだな。なかなか良い魔力流だぞ。
二度目の実験は、鍋の底に網を付けた。プロペラ部分に直接服が当たらないようにしたのだ。
だが水流がうまく発生せず、失敗に終わる。汚れはまったく取れない。
三度目。マリアが「ねえ、鍋を傾けてみたらどうかな」と言ってきた。
ついでにプロペラも改良した、逆に大きくしてみたのだ。発想の転換だ。水流で洗うのではない。まるで水汲み用の水車のように、服を持ち上げて叩きつけ、直接かき混ぜるようにして洗う。
なるほど、知っている洗濯機のイメージにこだわり過ぎていたかもしれない。洗濯槽を傾けることについても、ドラム式洗濯機という例もある。
「でかしたぞ、マリア」
「えへへー、元のアイデアはインギーからじゃないか。それに、一緒に色々考えてくれたしね」
マリアは照れたように顔を赤くする。
謙遜するな。ぼんやりとした知識だけで語った俺に比べ、マリアは自分自身の頭でしっかりと考えて答えを出したのだ。誇っていい。
実際に作り上げた洗濯機は、性能的には申し分ない。
だが――
「ちょっと、大きすぎるね」
「ああ、そうだな」
「あれ? これは、 ……これは ・・・・・・ イ ン グ ウ ェ イ 、 き み は ま た や ら か し た な !!」
「ああ、前回は君のお気に入りを切り刻んでしまい、申し訳なかった。今回は地味で問題なさそうな色の下着を使わせてもらった」
今回は無事洗濯できたので、被害はなかったはずなのだが。
マリアは一体何を怒っているのだろう?
まあいい、今回の問題はその大きさだ。水車をモデルに、横ではなく縦方向に回転の向きを変えた。
そのせいで、車軸やそれを支える土台まで必要になってしまい、洗濯容量のわりに機械自体が大きくなりすぎてしまったのだ。
「ふむ、方向性はいいのだが、もう少し改良が必要か。っておい、マリア、なんだそのハンマーは!」
「うるっさい! 死ね! そんなに金が欲しいなら、死んで骸骨になってしまえ! 地味で悪かったなぁ、勝手に下着を見ただけじゃなくて、地味とか文句まで言う? はぁ!?」
ちょ、まて、何を怒っているのだ。
マリアは俺にぽいぽいと金槌や鋸を投げつけると、泣きながらどこかへ行ってしまった。
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