賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第八章 渦巻く嫉妬

私の心(胸)はここにある

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 ~ヒューラ・その2~

 古病院から逃げ出した私は、とりあえずあてもなく走った。あの巨乳幼女が追いかけてくるかもしれないし、結構大きな音を立ててしまったので、人が集まってくるかもしれない。

 どれくらい走っただろう。公園があったので、とりあえず水を飲み、ベンチに腰かけて息を整える。

「おい、あの女、見てみろよ。すっげー魔力だ」
「マジだ、でっけえ」

 私は慌てて胸元を隠す。
 うっかりしていた。その場から離れるのに夢中で、胸がはだけていることに気付かなかったとは。

「ん、お前は……。 ――びにゃああっっ!!!」
 私は隣を見て、思わず大声をあげてしまった。
 ベンチの横に座っていたのは、あのとき私の胸をこんな大きくしやがった男! 先日、愛しのトルピード様の礼拝をめちゃくちゃにした張本人の一人でもある。

「ん、なんだお前は。どこかで見たような見たことないような気がするが」
「こっ、このクソ野郎っ、てめえのせいで、私は、私はっ……!」

 ここで会ったが百年目。私は両手に魔力を集める。どうしてくれよう、今使える全力をぶっぱなしてもまだ足りない。
 男は落ち着いた声で話しかける。それがまた私の神経を逆なでする。

「思い出したぞ、お前は先日、魔力を増やしに来た暗殺者だな。テントの中でも殺気を発していたのは、一目でわかったぞ。一体誰に言われて俺を狙っている? 回答次第では命は助けてやる」

「何をふざけたことをっ! 許さんぞ、私の胸をこんな下品な大きさに膨らませやがってぇっ!」


 そうだ、麗しのトルピード様の礼拝をつぶしたこともクソくらいムカついているが、そんなことよりもこの胸だ。八つ裂きにしても収まらない。


 ~回想~

 あの日、私はこの男の施術で、魔力が格段に増えた。信者たちからウワサには聞いていたが、想像以上だった。
 着ていた服のボタンははじけ飛び、羽織った上着は不自然に盛り上がる。
 一番嬉しかったのは、階段を上るときだ。足元がまるで見えない。うわー、困っちゃうなー、こけたらどうすんだよもー。などとにやけていた自分を消し炭にしたい。

「トルピード様、ただいま帰りましたー」
「おおヒューラ、なんだか機嫌がいいな。どうした?」
「うふふ、見て、お気づきになりませんか?」
 微笑みながら振り返る私を見て、トルピード様の表情はみるみる曇り、まるで餌を取り上げられた熊のように吠えた。

「なんだ、その下品な胸は! キャンポーテラ様のような美しい胸は、どうした? ヒューラよ、貴様も魔力依存主義者どもになり果ててしまったのか! 見損なったぞ。いや、この俺に見る目がなかったということか。まったく、気分が悪い!」

 私は一瞬で地獄に叩き落された。
 いえ、トルピード様は何も悪くないの。男は皆、魔力がある女性を好むだろうという、私の浅はかな思い込み。憧れのトルピード様を誘惑してしまいたいという、悪魔のささやきに負けたこと。
 そしてなにより、トルピード様への理解が足りなかったこと。

 あんな熱心なキャンポーテラ様の信徒である彼が、教義に反する巨乳なんかに、惹かれるはずがない。ちょっと考えればわかることだったというのに。




「なるほどな、ようするに、胸を元に戻せばいいのだろう?」

 え? なにこの男、回想シーンに入ってくるだなんて……。
 戸惑う私の一瞬の隙を突き、男は間合いを詰め、ぐっと私の胸をわしづかみにした。

「すまなかったな、相手の事情も考えずに、とにかく魔力を高めればいいだろうという浅はかな考えでやってしまった」
 言いながら、優しく魔力袋をマッサージしていく男。
 粗野で乱暴な男かと思えば、間近で見る瞳は妖しい魅力に満ちている。整った顔立ちは、男というよりも男装の麗人。

 なにより、あんなに罵声を浴びせ、殺そうとも思った私に対し、素直に謝りマッサージを施すなんて。
 この手の柔らかな動きでわかる。この男は、心から私の体を気遣っているのだと。


 ああ、トルピード様。
 いえ、キャンポーテラ様、私の中のこのときめきを、お許しください。
 私はどうすればよいのでしょう。

 
 トルピード様は、大きな胸を許容していただけませんでした。
 しかし、このお方は、私の胸の大きさなんてまるで気にせず、モンキーレンチのように自らが合わせてくれるのです。
 胸の大きさなんて、まるで気にしない男性がいるだなんて、思わなかったのです。

 いえ、胸だけではありません。あのとき顔を隠していたのに、私だとすぐにわかってくれました。

 顔や胸などの見た目ではなく、本当の私を見てくれる。そして、そのうえで、私を女性として扱ってくれるのです。
 あんなひどいことをした、私を。
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