賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第八章 渦巻く嫉妬

始まりと終わり

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 レノンフィールド領のずっと先。人の手の及ばぬ深い森の奥、魔族が支配する地に、とある古城があった。
 現在の城の主は、とある転生者。彼は周辺に住んでいた魔族をいびり、手下にし、この城を拠点として居座っていた。
 そして今、彼の前に、一つの金属製の缶がいた。

「で、手前ぇの名はなんてぇんだ?」
 玉座に腰かけた男は、めんどくさそうに聞いた。

「ミリリッ太と申します、旦那」
「こいつは傑作だ、本当に喋るんだなあ、クソ缶のくせに!」
 彼はひっひっひと下卑た笑いを見せた。どうやらミリリッ太は、彼の興味を引くことに成功したようだ。

「実はあっしには復讐したい男と、手に入れたい女がいるんです。そのためなら、悪魔にでも命をささげる心意気でさあ」

「へえ。あなたは、魔王様が悪魔ごときと同レベルだと?」
 くすりと微笑んだのは、キョニー。先日王都を襲撃し、イングウェイと戦った魔族だ。

「え、いや、滅相もないっす! そんなことはみじんも思っていないでやんす。あっしは、そう、さっきのは物の例えというやつで!」
 ミリリッ太は慌てて言い訳をする。
 魔王はそれを聞き流した。どうでもいいと思っているのだろう。そんなことより、聞きたいのは復讐相手とやらのことだ。

 彼は、男の魔術師がいると聞き、すぐに興味を持った。
 もしかして、自分と同じ転生者ではなかろうかと疑ったのだ。
 戦って勝つ自信はあったが、転生者の強さを甘く見るのも危険だ。情報が欲しい。

「なかなか面白ぇやつみたいだな、その魔術師は。どんなやつだぁ? 強さはもちろんだが、そうだな、得意呪文や戦闘方法スタイルも教えろよ」

 ミリリッ太はうろたえる。なんせ、主人の戦いのことなど、ろくに知らないのだから。
 知っているのは、どちらかというと性格や考え方の方で。しかし、それで魔王が許してくれるだろうか? 自分のことを道に落ちている空き缶を見るような目で見てくる。ただでさえ氷のような、この男が。
 それでも嘘をつき怒りを買うことを恐れ、ミリリッ太は正直に知っている限りを話した。

 結果的に、それは正解だったようだ。
 ミリリッ太が生まれ、サクラという女剣士と冒険をしたこと。
 魔術師からはぞんざいな扱いを受け、勇気を出して立ち向かったこと。そして、友のゾンビ化。死。
 ゲルゲルユシの惚れ薬については、黙っていた。


 一通り聞くと、魔王はミリリッ太を下がらせた。


「くっくっく。なるほど、面白い話だったな。やはりやつも、この世界に……」

「何か知っているのですか、魔王様」

 キョニーの質問に、魔王は答えない。無言でワイングラスを傾けた。
 少し考えた後、魔王は言った。

「キョニー、お前は奴と実際に戦ってるだろう? 俺とどっちが強ぇと思うんだ?」

「え? そんな、魔王様より強い人間など、いるはずがありませんっ!」

「ふん、そういう御託はいいんだよ、正直に答えろ」

 魔王はぎらりと黄金色の瞳でキョニーを見つめた。

「はい……。正直なところ、相手は全然本気ではないようでした。戦いながらも余裕がありましたし、魔法もろくに使ってきませんでした。でも、それでもやはり、魔王様のほうが強いと信じています」

「そうか」

 たいしてあてにもならない答えだったが、魔王はどこか楽しそうだった。
 魔界と言われる地にやってきたものの、自分の相手になりそうなやつはいなかった。恐ろしい容姿や巨大な体躯はしていても、それだけ。見掛け倒しだ。

 昔の仲間のことなど、すでにどうでも良かった。
 今はとにかく、暴れたい。本気を出したギリギリの戦いをして、そして気持ちよく勝ちたい。
 そんなささやかな願いが、ついに叶うかもしれないのだ。

 まだ見ぬ謎の魔術師に対して、魔王の期待は膨らんでいた。
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