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№9 Bloody Hammer
Swordlash
しおりを挟む靄から這い出てきた蜥蜴は、ゆっくりと二本足で立ち上がる。前傾姿勢を保ったまま、のそのそと歩く。
武器は持っていない。
歩くたびに、ぎらぎらとした鱗が月明りを反射する。
似たようなモンスターは多過ぎて特定はできないが、見る限りでは、低級モンスターだろう。まさかブレスは吐くまい。
イングウェイと向かい合うと、蜥蜴は四つ足になり、尾を振りながら突進してきた。
自分よりも一回り小さいことを確認し、ほっと胸をなでおろす。
汗で滑る鉈を構え、蜥蜴がとびかかる瞬間を狙い、ぶんと力任せに振り下ろした。
固いタイヤにでも打ち込んだような衝撃。弾かれたのは、イングウェイの方だった。
蜥蜴は勢いそのままにイングウェイにのしかかろうとする。
冷たい爬虫類の肌がおぞましかった。無理やり押しのけようとして腕を突き出すと、腹に当たる。思ったよりも柔らかく、形を変える。ぐにりとした感触が手のひらにこびりつく。
腰に手をやり、息を止めて銃口を腹に付け、引き金を引いた。
声も出さず、蜥蜴が飛びのいた。
イングウェイは無様に這いずり、距離を取ろうとする。
――鉈は? どこだ?
探している暇はなかった。というより、怖くて蜥蜴から目を離すことができなかった。息を荒く吐きながら、わずかに目を泳がせるのが精いっぱいだ。
蜥蜴はこちらを見ている。動こうとはしない。
傷があるかもわからない。ただ、動かない。
イングウェイはリヴォルヴァーを掲げていた。十字架を掲げるように。
後ずさる。ゆっくりと。
ずぶりと、肉が避ける音がした。
蜥蜴は一度だけ天を仰ぎ、そのままばたりと頭を地につけた。
蜥蜴の背には、白く輝くカタナが刺さっていた。
「何をしているのです、こんなところで」
いつの間に現れたのだろうか。サクラ・チュルージョが、立っていた。
彼女は蜥蜴の横に立ち、カタナを腹に突き立てた。一撃で屠った。
イングウェイはだらりと腕の力を抜き、目を閉じた。
そして、深く、深く安堵した。
イングウェイは言った。
「またお前か」
その言葉にサクラは答えなかった。代わりに、質問をぶつけてきた。
「それは、もしかしてコルトですか? ええと、ピースメーカーとかいう」
イングウェイは手に持っていた銃を見る。
「お前、それがどんな銃か知ってんのか?」
「ええ、友人が使っていました。もっとも本来のものとは違い、改造してあるそうなのですが。……少し違う形ですけど、あなたの持っているものととてもよく似ている」
「そうか、コルトか」
イングウェイのつぶやきに、サクラは根気よく、じっと次の言葉を待った。
完全に警戒が消えたわけではないけれど、少しは薄くなっていたようだ。
数分の後、沈黙を続けるイングウェイをに対し、待つのをあきらめたサクラは言った。
「どうしたんです、こんなところで」
イングウェイは答えた。
「家をゴブリンに襲われた」
「ゴブリンごときに? 倒せばいいでしょう」
「焼かれたんだ、全部」
ああ、とサクラはつぶやき、そして小さな声で言った。
「ごめんなさい」
やめてくれ、同情なんて御免だ。
しかし、このあとどうするのかという現実は消えるわけではない。
現実が、消える? イングウェイは思わず笑いだしそうになる。
笑ったのは、自分自身だ。ダイヴにはまっておきながら、今更現実が消えることに不安になる自分を。
「お前は何のためにここにいる? 追ってきた竜は倒したんだろう?」
サクラは、ほっぺたを膨らませて言った。
「だから、帰り道がわかんなくなったって言ったじゃないですか」
恥ずかしそうに言うサクラ。イングウェイはその時初めて、彼女を可愛いと思った。
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