賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第12章 魔獣討伐

遅れてきたビホルダー

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 二日後、早朝。アサルセニア正門前。

 朝早くから旅の準備をした冒険者たちが行きかう隣で、苛つきながらぶつぶつと文句を言い合う集団がある。
 俺たちだ。

 俺たち4パーティー、20人ほどのメンバーは、城から派遣される予定の同伴者を待っていた。
「まったく、今何時だと思ってやがるんだ、あのバカは」
「ふざけんなよ、はした金で戦わせておいて」
 彼らが怒るのも当然だ。我々冒険者は、常に死と隣り合わせにいる。情報と時間は、武器や金以上に大切なものなのだ。
 ここで数時間出発が遅れたからと言って、どうということはない。しかし、戦場で同じことをやられたらどうする?
 遅刻者には信用も慈悲も無いのだ。

 そして、一番苛ついているやつが、俺のパーティー内にいる。
「ちょっとインギー、私たちだけでも先に出発しませんこと?」
 キャスリーは鼻息を荒くしてぷんぷんと怒っている。まあまあとなだめるレイチェル。
 気持ちはわかるが、焦って単独で出発するわけにもいかない。

「おい、あんたイングウェイさんとか言ったよな。よろしく、頼りにしてるぜ」
 離れて酒を飲んでいた俺に、一人の男が右手を差し出してくる。アサルセニアでは珍しい、黒い肌に黒髪の男だった。
 俺は微笑んで握手を返す。
「君は?」
「Cランパーティー、フロイドのリーダーさ。ホルシュタインっていうんだが、みんなホルスって言ってる」
「イングウェイ・リヒテンシュタインだ、よろしく」
 ホルスは笑いながら言った。
「知ってるさ、あんたらはランクのわりに強いからな。けっこう目立ってんだぜ? まあ俺の場合は、名前が似ているから気になったってだけだが」
 なるほど。
 人懐っこい笑みを浮かべるホルス。腰のごつい大剣を見るに肉体派かと思ったが、情報面でもなかなかやり手のようだ。

「ホルス、君はあまり苛ついてないようだが、待たされるのに慣れているのか?」
「戦場に行くんだぜ、出遅れて戦わずに済むなら、けっこうなことじゃねえか。まあ、苛ついてるやつってのは、時間の大切さを知ってるってことだろ? それはそれで良いことだと思うぜ」
 再び笑ったあと、「まあ、役人に対しては少しだけムカついてるがな」と小さく付け加える。
 戦闘面で安心して任せられるのはBランク冒険者からだと思っていたが、この男は信用できそうだ。
 いざという時にはよろしく頼むぞ。そう言って酒を差し出すと、さっと逃げられた。宗教上の理由で酒は飲めないらしい。


 そうこうしているうちに、メガネをかけたずいぶんと若い男がやってくる。誰かを探すようにきょろきょろすると、こちらに気付き、ひょこひょこと頼りない足取りで近づいてくる。
「やあやあ、お待たせしました、みなさん」
 今回の担当役人、カインというらしい。
 ひょろひょろしていて、戦いどころかそもそも遠出自体が大丈夫なのかと心配になる。

「おそい」「おそいわ」「ふざけるなよ」「どれだけ待たせるんですの!」
「いやー、ごめんなさい。ちょっと朝は苦手なんですよー。じゃあ、確認事項だけちゃちゃっとすませて、さっさと出発しましょうか。あ、その馬車って乗り心地良さそうですね。端っこに乗せてもらっても良いです?」
 ……殺気立った低ランク冒険者にすごまれても、ちっとも態度を変えずにサラッと流す。とりあえず、度胸だけはあるようだ。


 用意していた馬車は3台。小さなものなので、荷物を積んだらほぼ終わりだ。緊急用に馬も連れていくものの、全員分用意されているわけでもない。結局は歩きでの旅となる。
 冒険者にとっては普通のことだし、そもそも荷物を馬車に詰めるだけ贅沢というものだ。これならモンスターの襲撃でもない限り、朝の遅れは余裕で取り返せるだろう。
 カインは荷馬車のすみで、何やら書類を広げていた。


 広く見通しの良い野原。モンスターどころかウサギ一匹見えやしない。
 少々退屈であくびを噛み殺していると、ホルスが話しかけてきた。
「なあイングウェイ、どう思う?」
「ん、なにがだ?」
「なにがって、今回の遠征さ。魔獣が集団で襲ってくるなんざ、魔族あたりが裏で動いてるに決まってる。だから俺たちが呼ばれたんだろ? その割には王国軍は何も説明しねえしよ。
 ……お前さん、こないだの襲撃について何か知ってるか? 何でも一人の女冒険者が追い払ったらしいが」
「知らんよ、軍にもなにか都合があるんだろう? いいことじゃないか。情報統制は軍の基本だ」
「ふーん、まあいいけど」
 こないだの戦いのことは、あまり触れられたくない。一応謎の魔法使いが頑張ったことになっているのだ。
 ホルスも、別に本気の議論を望んでいるわけでは無かろう。彼もまた、退屈を持て余していた。

 それよりも心配なのが、キャスリーだ。
 出発してからは黙々と前を見据えて歩いているが、黙っている今も、頭の中で色々と考えているに違いない。
 変に暴走しなければよいのだが。
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