111 / 200
第12章 魔獣討伐
遅れてきたビホルダー
しおりを挟む二日後、早朝。アサルセニア正門前。
朝早くから旅の準備をした冒険者たちが行きかう隣で、苛つきながらぶつぶつと文句を言い合う集団がある。
俺たちだ。
俺たち4パーティー、20人ほどのメンバーは、城から派遣される予定の同伴者を待っていた。
「まったく、今何時だと思ってやがるんだ、あのバカは」
「ふざけんなよ、はした金で戦わせておいて」
彼らが怒るのも当然だ。我々冒険者は、常に死と隣り合わせにいる。情報と時間は、武器や金以上に大切なものなのだ。
ここで数時間出発が遅れたからと言って、どうということはない。しかし、戦場で同じことをやられたらどうする?
遅刻者には信用も慈悲も無いのだ。
そして、一番苛ついているやつが、俺のパーティー内にいる。
「ちょっとインギー、私たちだけでも先に出発しませんこと?」
キャスリーは鼻息を荒くしてぷんぷんと怒っている。まあまあとなだめるレイチェル。
気持ちはわかるが、焦って単独で出発するわけにもいかない。
「おい、あんたイングウェイさんとか言ったよな。よろしく、頼りにしてるぜ」
離れて酒を飲んでいた俺に、一人の男が右手を差し出してくる。アサルセニアでは珍しい、黒い肌に黒髪の男だった。
俺は微笑んで握手を返す。
「君は?」
「Cランパーティー、フロイドのリーダーさ。ホルシュタインっていうんだが、みんなホルスって言ってる」
「イングウェイ・リヒテンシュタインだ、よろしく」
ホルスは笑いながら言った。
「知ってるさ、あんたらはランクのわりに強いからな。けっこう目立ってんだぜ? まあ俺の場合は、名前が似ているから気になったってだけだが」
なるほど。
人懐っこい笑みを浮かべるホルス。腰のごつい大剣を見るに肉体派かと思ったが、情報面でもなかなかやり手のようだ。
「ホルス、君はあまり苛ついてないようだが、待たされるのに慣れているのか?」
「戦場に行くんだぜ、出遅れて戦わずに済むなら、けっこうなことじゃねえか。まあ、苛ついてるやつってのは、時間の大切さを知ってるってことだろ? それはそれで良いことだと思うぜ」
再び笑ったあと、「まあ、役人に対しては少しだけムカついてるがな」と小さく付け加える。
戦闘面で安心して任せられるのはBランク冒険者からだと思っていたが、この男は信用できそうだ。
いざという時にはよろしく頼むぞ。そう言って酒を差し出すと、さっと逃げられた。宗教上の理由で酒は飲めないらしい。
そうこうしているうちに、メガネをかけたずいぶんと若い男がやってくる。誰かを探すようにきょろきょろすると、こちらに気付き、ひょこひょこと頼りない足取りで近づいてくる。
「やあやあ、お待たせしました、みなさん」
今回の担当役人、カインというらしい。
ひょろひょろしていて、戦いどころかそもそも遠出自体が大丈夫なのかと心配になる。
「おそい」「おそいわ」「ふざけるなよ」「どれだけ待たせるんですの!」
「いやー、ごめんなさい。ちょっと朝は苦手なんですよー。じゃあ、確認事項だけちゃちゃっとすませて、さっさと出発しましょうか。あ、その馬車って乗り心地良さそうですね。端っこに乗せてもらっても良いです?」
……殺気立った低ランク冒険者にすごまれても、ちっとも態度を変えずにサラッと流す。とりあえず、度胸だけはあるようだ。
用意していた馬車は3台。小さなものなので、荷物を積んだらほぼ終わりだ。緊急用に馬も連れていくものの、全員分用意されているわけでもない。結局は歩きでの旅となる。
冒険者にとっては普通のことだし、そもそも荷物を馬車に詰めるだけ贅沢というものだ。これならモンスターの襲撃でもない限り、朝の遅れは余裕で取り返せるだろう。
カインは荷馬車のすみで、何やら書類を広げていた。
広く見通しの良い野原。モンスターどころかウサギ一匹見えやしない。
少々退屈であくびを噛み殺していると、ホルスが話しかけてきた。
「なあイングウェイ、どう思う?」
「ん、なにがだ?」
「なにがって、今回の遠征さ。魔獣が集団で襲ってくるなんざ、魔族あたりが裏で動いてるに決まってる。だから俺たちが呼ばれたんだろ? その割には王国軍は何も説明しねえしよ。
……お前さん、こないだの襲撃について何か知ってるか? 何でも一人の女冒険者が追い払ったらしいが」
「知らんよ、軍にもなにか都合があるんだろう? いいことじゃないか。情報統制は軍の基本だ」
「ふーん、まあいいけど」
こないだの戦いのことは、あまり触れられたくない。一応謎の魔法使いが頑張ったことになっているのだ。
ホルスも、別に本気の議論を望んでいるわけでは無かろう。彼もまた、退屈を持て余していた。
それよりも心配なのが、キャスリーだ。
出発してからは黙々と前を見据えて歩いているが、黙っている今も、頭の中で色々と考えているに違いない。
変に暴走しなければよいのだが。
0
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる