賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第13章 闇のとばり

内なる逃走

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 一行は、森の中を逃げた。
 先頭は、レイチェルの術で生み出した骸骨スケルトン。剣を抜き、草や小枝を刈りながら進んでいく。後ろを歩くイングウェイが、術でその痕跡を消す。
 木々の合間を縫うように進み、斜面を駆け下り、崖は魔法でとび越えた。
 方向を念入りに確かめ、とにかく戦場から離れることを優先させる。
 幸いにも追手はなかった。

「はあはあ、あまり行くと、国境に、ぶつかっちゃうよ?」
「ぜえぜえ、今は、そんなこと、言ってらんない、でしょう?」
 息を詰まらせながらの会話。
「余裕だな、お前たち。しゃべっている暇があれば、走れ」

 声をかけあっている彼女ら自身も、とにかく逃げるしかないのはわかっている。
 感覚もぐちゃぐちゃで、距離も時間もわからない。皆、不安なのだ。無言になっても、足だけは止められなかった。


 さらに進んだところで、河原にぶつかる。ちょうど湾曲した位置に木々が茂っていた。これならもしも上空から見られても、うまく隠れられるだろう。
「ここまで来れば、しばらくは大丈夫だろう。少し休もう」
「はひー、もう、だめですー」

 既に皆、限界だった。レイチェルですら、言葉なくその場に座り込む。
 イングウェイは川の水を汲んでレイチェルに飲ませると、森に戻る。念のため、今来た道に幻術と結界をはっておくためだ。



 イングウェイは、そこで、紫の靄パープルヘイズを見た。
 記憶がフラッシュバックする。ただし、断片的に。
 蜥蜴リザード、サクラ、そして酒。

 頭の中を虫が動いているような、ひどい頭痛がした。
「くっ、これは……?」

 今なら、この靄が持っている魔力の異常さがわかる。
 魔力量そのものもだが、その波動は自然に淀んだ魔素の流れとは全く違う不気味さがあった。いくつもの魔術を知るイングウェイにとっても、今までに感じたことのないものだった。

 ――紫の靄パープルヘイズは脳みそを食うんだ。

 頭の中で声がした。聞き覚えの無い声だと思うが、わからない。頭痛がさらにひどくなった。

 ――ジャックを塞げ、ダイヴを使うな。

 もう一度。
 同じ声だった。
 イングウェイはうずくまる。無意識のうちに、首筋を押さえていた。何かを探すように、何度もそこらを撫でる。

「イングウェイさんっ」
 柔らかなぷよんとした感触が、イングウェイの肩に当たった。森の中から戻らない彼を心配して、レイチェルが様子を見に来たのだ。
 レイチェルはイングウェイに身を寄せ、心配そうに体を支える。

「レイチェル、君か。……あの霧が、見えるか?」
「え?」

 レイチェルはその言葉で初めて気付いた。イングウェイが指さした方向には、うっすらと発光する紫の靄があった。
 濃密な魔力の淀み。なぜ今まで気付かなかったのだろう。この距離で。
 まるでイングウェイの言葉を合図に、急に発生したかのようだった。

「あれは?」
「わからない、けれど、俺はあそこに行かなければいけない気がする」
「あそこ? いったいどこです。――私も、一緒に行きましょうか?」
「馬鹿な、どうなるかわからないんだぞ」

 レイチェルは、不思議そうな顔で言った。
「なら、なおさら一緒に行かないといけないんじゃないですか?」

 すごく不安そうな顔をしてますよ、という言葉が出てきかけて、レイチェルは慌てて口をつぐんだ。
 レイチェルはその靄がひどく不気味なものだとは感じていたが、まさか別世界への入り口だとは思っていなかった。
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