賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第13章 闇のとばり

weight of the world on ur shoulders

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 沈黙の時間が過ぎ、イングウェイは闇の中へと問いかける。
「デカルトとは誰だ。魔族か? 俺の敵なのか?」
 彼の最後の問いは、デカルトについてだった。
 『我思う、ゆえに我あり』という言葉がある。その言葉は、正しく今の君のためにある。届くことを祈っている。
「意味はわからんが、お前が敵でないことは伝わった。……ありがとう」

 イングウェイは瞳を開ける。中断された戦闘が、その時のままに続いていた。
 切りかかってくる爪を避けると、右手でガーゴイルの腹に触れる。冷たい硬質の皮膚。しかし彼にとっては、蛙の腹と変わりない。
 小さく術を唱えた直後、真空の渦が腹の中から内臓を切り裂く。
 ガーゴイルは血を吐きながら絶命する。

 いつの間にか、グレイ・オーガが近寄ってきていた。
 レイチェルは、別の横たわるガーゴイルへと走り寄り、呪文を唱える。焦点の定まらぬ目で立ち上がる悪魔。吠える間もなく、その口にオーガのこん棒が突っ込まれる。
 紫色の血が、噴水のように宙を舞った。
 動くはずのない腕が、オーガの脚を掴む。ギチギチと嫌な音をたて、ゆっくりと肉に爪が食い込んでいく。

 レイチェルは冷たい瞳のままで、部下の女性に指示をした。
 炎が、オーガの顔面を正確に貫いた。

 死の匂いがした。戦闘は、いつもの調子を取り戻していた。これが、これこそが、イングウェイの知っている戦闘だ。

「俺はなぜ忘れていた? いや、違う。一体何を忘れていたんだ?」

 混じりけのない悪夢が良かった。それなら、覚めることを望んだだろう。たちの悪いことに、彼が見た夢は甘い毒気を含んでいた。
 他人が見ている悪夢を覗き見ていたような気もする。
 今、自分は目覚めているのか。イングウェイにはまだ確信が持てなかった。

「ああっ、誰かっ!」
 元・フロイド三人娘のうちの一人が叫んだ。
 振り向いて心配をする前に、思わず毒のある言葉が口をつく。
「まったく、ゆっくり考える時間ももらえないとはな」

 まったく、どこから湧いたのか。
 大蛇がうねりながら首を持ち上げる。シューシューという吐息が聞こえた。カスタード・スネークだ。
「メタ梨花、行けるか?」
 答えを聞く前に、メタ梨花は白銀の鞭となっていた。とびかかる大蛇の頭を受け止める。
 かちりと、固い音がした。骨が刃にぶつかる音が。


 兵士たちのどよめき。
 本陣がある方向から、炎が上がっていた。
 レイチェルは言う。
「これって相当ヤバくないですか? 逃げるなら今のうちかもしれませんよ」
 イングウェイも同意する。
「ああ、同感だ。死ぬまで付き合う義理もない」

 義理はないと言いつつも、イングウェイの頭の大半は、三人娘に占められていた。
 半ば押し付けられたとはいえ、一応はパーティーメンバーだ。捨てていく気など毛頭ない。とはいえ、この状況で戦い慣れていない女を三人も抱えているのだ、取れる選択肢は多くない。

「レイチェル、撤退するぞ。適当なモンスターに死霊術ネクロマンシーで操り、先頭を行かせろ。後ろは俺が防ぐ」
「はいっ!」
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