賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第15章 再びアサルセニア

疑惑の種

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 翌日。やってくる役所の職員、立ち向かうレイチェルとマリア。

「「ごめんくださいーい」」

「はーい、何でしょう?」
 レイチェルは珍しく白衣の医療スタイルで、来客を迎えた。

 扉を開けるとそこにいたのは2人の中年男性。メガネで性格がきつそうな男と、小柄で細身の神経質そうな男だ。
 先日来たジャミルとは違い、いかにもなお役人という風体だった。
 レイチェルは相手を見て、作戦Bね、と心の中で確認する。

 いかにも何も事情を知らないかのように、背の高い男性に話しかける。
「おやぁ、どうしたんですかぁ? まだ診察はやってませんけど、具合でも悪くなりましたかあ?」

 背伸びをして男性の額に手を当てて、熱を確認するそぶりをする。その後、顔色をうかがうふりをしつつ、さりげなく前かがみになるのも忘れない。
 胸元のボタンは、一つ余計に外してある。

「あっ、いえっ、そのー」
 女性慣れしていないのだろうか、男性は顔を赤くしてどぎまぎと答えた。いや、全然答えにはなっていないけど。

 眼鏡の男性の目線も胸元に注がれているのを、レイチェルはしっかりと確認していた。心の中で軽くガッツポーズをしたあと、しなりと身体をくねらせて言った。
「何の御用ですかぁ?」

「ええと、役所の生活安全課から来たものですが、ここで動く死体ゾンビー骸骨スケルトンの目撃があったということで、その、ええと、確認しにきたのですが」
 男性の目線は明らかに泳いでいる。
「あらー、そうなんですかぁ? まあ病院ですからねぇ、ケガしたり包帯している人もいますから。見間違えたんでわぁ?」

 左で聞いていた眼鏡の男性が、硬い口調で否定する。
「いえ。この家の裏口などから日常的に出入りいしていると、具体的な目撃例もあります。あとは、鍛冶屋の看板を掲げておいて、変な機械を売っていたとかいう話も。ま、これは別件ですがね。ということで、」
 ジロリと、眼鏡の奥の男性の目線が鋭くなる。

「まさかとは思いますが、ゾンビ―を使役する術など――、つまり死霊術師ネクロマンサーがこの病院にいるんじゃないかという調査です。死霊術ネクロマンシーが禁術なのは、もちろんご存じでしょう?」

「まあ怖い。うちは病院ですよ、そんな人いるわけないじゃないですか。おほほほほ」

「では、中を確かめさせていただいても?」
「えーっとぉ、でもぉ、ちょっと今、散らかってましてー。お恥ずかしいんですが、片付ける時間はいただけません?」
 もじもじしつつ困った様子で家の奥をちらちら見るレイチェル。頬を染めつつ、上目遣いでお願いをする。
 それを見て、眼鏡男はにやりと何かを確信したように、にやりとした。

「ダメですね、怪しいものを隠されては困りますから」

「えぇぇ、でもぉ」

(ふん、やはり素人だな。この怪しい態度、それでごまかしているつもりか。我々プロの目にかかれば、何かを隠していることなど一目瞭然だ!)
 ここで引くわけにはいかない、証拠を隠されてしまうからだ。
 眼鏡男は踏み込むなら今だと確信し、書類を取り出してレイチェルの鼻先に突きつける。

「それでは、失礼。令状はありますから、拒否するとあなたも捕まりますよ」
「あんっ、ちょっとぉ」
「では私も失礼します」

 眼鏡男はずんずんと奥へ、小柄男もその後ろをついて行く。単に歩いているように見えて、廊下や家具などにも怪しいものがないか、目を光らせながら。

「あのっ!本当に恥ずかしいから、やめてくださいぃぃ」
 レイチェルが後ろを行く小柄男性の腕に、しゃなりともたれかかる。もちろん魔力がたっぷりつまっているものを、腕に押し付けている。柔らかな魔力が形を変えて、男性の腕を挟み込んだ。誘惑は魔術師のたしなみ、魔力の詰まったものを直接体に触れさせることで、誘惑テンプテーションの術にかけるのだ!
 魔力は腕から即座に男の脳髄に流れ込み、顔を紅潮させた。
「あ、あのっ、む、むねがっ!」
「あん、失礼しました。思わず。 ……おいやでしたか?」
「い、いえ、別に、大丈夫ですっ」

 そんなこんなを繰り広げているうち、眼鏡男は一番奥の扉を開ける。
「ここだな。がちゃり。 ……なっ、これは!?」
 奥の部屋には、白、ブルー、ピンク。色とりどりの呪符が! いや、よく見ると、それは布製。そう、下着だ! 下着がたっぷりと干してあったのだ。

 ぼっと顔を真っ赤にするレイチェル。これは演技でない、素だ。
 覚悟していても、作戦でも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

「あーん、だからやめてっていったのにー」

「こ、これを隠していたんですか」
「はいぃ、ひどいですう、あんまり見ないでくださいぃ」
「あ、いえ、これは失敬」

 眼鏡男のほうが真面目なようだ。目のやり場に困った様子で、視線は床を泳いでいた。
 対する小柄男は、ぽかんと大口をあけたままで、部屋の様子を眺めている。

 空気を換えようとして、眼鏡男は言った。
「いや、まだだ。そうだ、ゾンビだ。鍛冶をするゾンビがいるとか。ここの病院の近くに、工房がありますか?」
「ああ、もしかしてマリアさんのことですね。工房はすぐ隣ですよ、会ってみます?」

 マリアに関しては、本人を隠して替え玉を用意する方が簡単かもしれない。しかしそれは一時しのぎだ。
 マリアはこれからもここで暮らしていく。ならば、あえてここは姿を見せ、疑いを晴らす作戦を立てるべきだ。それが二人の結論だった。
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