賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第15章 再びアサルセニア

酔っ払いたちのいるところ

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 ~レイチェルとマリア~


「まったくひどいです、イングウェイさん。この病院が調べられたら、一番困るのは私なんですよ! もっとまじめに考えてくれないと」
「それだったら僕だって、ゾンビだしさ。捕まっちゃうというか、むしろ火葬とかされないかな? それに、詐欺はしていないけど、洗濯機の開発者だからね。何言われるかわかんないよ」

 マリアは焼酎 (水割り)を、レイチェルはビールを飲みながら、愚痴をこぼしあっていた。
 冒険者稼業は基本的に自由人の根無し草。街から街へ移りわたるものも多いので、決まった家を持たずに宿が本拠地というギルドが普通。メンバーすら固定せず、単独ソロで稼ぐものも多い。
 『ミスフィッツ』のように、固定メンバーかつしっかりとした本拠地ホームがあるギルドのほうが、少数派なのである。
 そして他のメンバーとは違い、マリアとレイチェルの二人だけは、このホームと切っては切れない関係にある。
 レイチェルは、本職は医者だ。流行っていないだけで、病院自体はきちんと経営しているし、(これも冒険者にしては非常に珍しく)持ち家である。
 マリアは鍛冶師という仕事柄、決まった仕事場が必要だし、彼女の体はゾンビ―だ。体が腐るといけないので、焼酎を常飲して対策はしているものの、定期的にレイチェルの魔法治療が必要な身だ。

「だいたいですよ、イングウェイさんはデリカシーってやつがないんです。私が死療術ネクロマンシーについてコンプレックスを持ってるのを知らないわけじゃないでしょうに、よりにもよってあんな解決策を持ってくるなんて」
 レイチェルの言葉を聞いて、マリアのグラスを持つ手がぴたりと止まった。
「え?」

「もしかして、レイチェル、ボクを生き返らせたり、普段から治療したりとかするの、嫌だったりする……?」
 マリアは恐る恐る口にした。

 マリアの体はゾンビだ。以前王都が襲撃された時、マリアは一度死んだ。それを死療術ネクロマンシーでゾンビの体で復活させたのは、他ならぬレイチェルだった。

「あ、ごめんなさい、マリアさん。そういうつもりじゃないんです。というか、マリアさんにはむしろ感謝しかないんですよ。あのとき、私がただの医者だったら、何もできませんでした。死療術師ネクロマンサーだったからこそ、復活させられたんです。だから、」
「だから?」
「――えーとですねー、マリアさんのおかげで、少しだけ、自分に自信が持てました。死療術ネクロマンシーや死霊術ネクロマンシーを使うのも、好きになれたんです」
 レイチェルは頬を赤くして言った。マリアに気を遣っているわけではなく、本心からの言葉なのは明らかだった。

 マリアは熱くなる目頭を押さえながら言った。
「そういうの、もっと早く言ってくれればよかったのに。ボクだっていっつもレイチェルに悪いなって思ってたんだよ。疲れているときだってあるだろうに」
「言えるわけないですよ。復活したって言ったって、ゾンビの体なんて、嫌がるのが普通です。それなのに、本人の意思も聞かずにゾンビにしちゃったこと。私、わたし、ずっと気にしてて……うええ、ひっく、ひっく」

 それは酔っ払いのしゃっくりではない。レイチェルは、今にも涙があふれるのを我慢していた。

「レイチェル……。バカだなあ、嫌がるわけないじゃないか。ボクのことをこんなに考えてくれて。ありがとう。それと、ごめんね。……ぐすっ、君のこと、誤解してた。いつも酔っぱらってて、お金にもだらしなくて、でも、でもー」
 マリアも、最後は涙で声になっていない。

 二人は抱き合って涙を流す。美しい女性同士の友情がそこにあった。


 マリアは立ち上がり、宣言した。
「レイチェル、ホームの危機は、ボクたちが救おう」
「ええ。イングウェイさんにも、もう一度相談してみましょう」
「いや、それんだけどさー。インギーの解決案はひどかったけど、ボクらもインギーに頼りすぎてるところはあったんじゃないかな」
「それはー、そうですね。確かに。たまには私たちで頑張らないと」
「私たちにできることってなんだろう?」
 決まっている。酔っぱらうことと鍛冶と死療術だ。

「それもですけど、そもそもなんでこんなことになったのかしら?」
「決まってるでしょ、どっかから苦情が来たんじゃないの?」
「なるほど! 私たちをよく思わない敵が、役所を使って警告してきたんですね」

「いやー、普通にご近所さんじゃないかなあ……」
 マリアは言いづらそうに口を開く。

「ほら、もともとここって、静かな地域じゃない? でもインギーが来てからさあ、住人が増えて、ドタバタうるさいし。鍛冶も夜中までしてるから、ご近所迷惑になっちゃってるかもしれないけど。挙句にこないだのスライム騒ぎ、あれもインギーが魔法を庭でぶっとばしたりして、」

「……あ”ー」

 苦情が来るのも当然だった。

「と、とにかく、また苦情で誰かが文句を言いに来る前に、対策しないと!」
「そうですね」
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