賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
161 / 200
第16章 聖なる戦い

琥珀色の眠り

しおりを挟む

 はるか昔、船乗りたちは、船に水の代わりに酒を積み込んだという。

 長期の航海でも腐りにくいようにらしい。まさに生活の知恵と言えよう。

 そしてその知恵は、今、俺たちに受け継がれている。

「酒とは、うまいものだ! そうは思わないか、フィッツよ!」
「いんぎー、お前、飲みすぎにゃん」
 お前は飲まずに冒険をするというのか。
 俺はこのメンバー選出の過ちに気付いてしまった。

 それは、飲むメンバーが俺しかいないこと。

「ほらほら、イングウェイさん、肩を貸しますからしっかり歩きましょ」

 剣士であるサクラ・チュルージョは、しっかりとした体幹で俺を支える。
 支えてくれるのはいいが、肩どころか、過保護なくらい俺の体全体を支えてくる。歩きづらいことこの上なしだ。

「おい、そこまでしっかり支えなくても、歩けるぞ。俺は酔っていないからな」
「はいはい、いいから私にしっかり捕まってくださいねー」

「サクラ、顔がにやけすぎにゃん。」

「えー、そうですかー? うひひ。フィッツさん、あとで写真とってくださいね」

「しゃしん? ってなんだにゃん?」
「えー? なんでしょうねー。うへへー」

「おいサクラ、胸をそんなに押し付けるな。うっぷ、圧迫されて苦しい」
「えー、ごめんなさーい。そんなつもりないんだけどなー、こまっちゃうなー(棒)」

 とそこに迫りくるはガリガリ色白女。

「ふひー、ふひー、はあ、はあ、ふー、ここまで逃げればー」
 えらく息が上がっている。飲んだ後にこれだけ走ると、そろそろ吐くぞ。吐いている女など、敵ではない。

 おっと、言い忘れていたが、ここはもう魔王城内。どうせ勇者パーティーの行く先はここなのだ。
 寄り道などせず、まっすぐここへ向かった方が早いに決まっている。

 どうでもいいが、こいつの服装はいただけないな。酒はいただくが。ぐびり。ごくり。

 薄暗い廊下でもはっきり目立つ真っ白いローブ。目立ちすぎてモンスターに襲ってくれと言っているようなものだ。
 どうせ冷気属性だからと、安直にコーディネートを決めたのだろう。


「おい貴様、ここで何をしている」

「ふぎゃあああっっ!

 ガリガリ女は天井に頭をぶつけんばかりにとびあがった。とビアーがった。ビールっぽくなったということか。
 うむうむ、いいことだ。うっぷ。

「なんだにゃあ、うるさい女だにゃあ」
「むむ、あなた、魔族ですね! さては魔王ー、ではなさそうですねえ」

 サクラは蛆虫マゴットを見るような目で魔族の胸をみた。
 女は胸元を抑えてのけぞった。
「ひいいっ!」

 うむうむ、サクラもなかなか精神攻撃がうまくなったものだ。


「くっ、私は氷結のクマー。魔王ロック様の一番のしもべ!」

 なんだか似たような名前のやつを倒した気がするが、酔った頭では覚えていない。

「で、その雷撃のボアーが何の用だ?」

「氷結のクマーだ! くそ、貴様もあの吸血鬼の仲間か?」

 うん? なんのことだ。
「吸血鬼に知り合いなど――」
「ふひいいーー! きゅ、きゅうけつきー!」

 氷結のクマーは突然俺の後ろにいる何かに気付くと、叫びながらどこかへ走って逃げていった。

 振り返るとそこには、トマトのような瞳をした金髪の幼女。

「おおー、ひさしぶりじゃのう、インギー。あのあとどうなったかの? お、その子はサクラの嬢ちゃんか? いい顔しとるのう、良きかな良きかな。はっはっは」

 幼女は俺の名を呼ぶと、親しげに手を振りながら近づいてきた。
 待てよ、今こいつ、サクラの名前も呼ばなかったか?

「おいサクラ、お前の知り合いか?」
「いいえ、知りませんけど。……ねえお嬢ちゃん、あなたどこから来たの? ここは危ないよ。もんすたーががおーっ! ってくるんだよ。お姉ちゃんが一緒にいてあげるから、おうちに帰ろ?」

「サクラ、ばか、離れるにゃんっ! そいつ、人間じゃないにゃん!」

 油断するサクラ(と酔っ払いの俺)を慌てて止めるフィッツ。

 フィッツは鋼の鍛爪ホイスト・クローを出すと、俺たちの間に割り込み、身を丸めて戦闘態勢を取った。
 ただならぬ様子に、俺も少し警戒する。

 フィッツの背を見ていてすぐにわかった。
 幼女に対して向けているのは明らかな殺意であるのに、フィッツが感じているのは、恐怖だ。

 対する金髪幼女は、困惑の表情を浮かべていた。

「むー、猫娘よ、その爪をしまってくれんかのう? インギーの友達なら、仲良くしてほしいんじゃー」
「うっ、うるさいにゃん! 貴様なにものにゃん! いんぎー、サクラをつれて早くにげるにゃんっ!」
「逃げられるのも困るんじゃがのう。しょうがないの。ちょっと寝ててもらうか」

 幼女は細く白い腕を前に伸ばし、フィッツに告げた。

琥珀の眠りディープ・スリープ
 フィッツは大きくふらつき、倒れ込む。「い、いんぎい、にげ・・・」

「フィッツ!」「フィッツさん!」

「すまんの。しかし、あれに抵抗しようとするとは。この娘、思っていたよりずっと根性があるのう」
 幼女の声から敵意は感じられず、むしろフィッツを本気で気遣っているようだった。

「敵ではないんだな?」
 俺は確認した。

 幼女は答えた。
「なんじゃ、覚えてないのか? 寂しいのう。わしの名は、リーインベッツィという吸血鬼じゃ。好きな酒はレッドアイ、血は少々ニガテじゃな」
「俺のことを知っているのか?」

「もちろんじゃ、おぬしの名はイングウェイ・リヒテンシュタインじゃろう。この城の主、ドロシー・オーランドゥのことも知っておるし、横にいるサクラ嬢ちゃんとも会ったことがあるぞ」
「ふえ? 私のことも知ってるんですかあ?」

 隣で驚くサクラ。サクラは嘘をつけるような性格ではない。おそらく本当に知らないのだろう。
 いや、記憶を操作されている可能性あるか。

「少し話を聞かせろ」
「ようやくその気になってくれたか。よしよし、なんでも話してやるぞ」

 リーインベッツィと名乗る吸血鬼の目が、怪しく光った。
 が、相変わらず敵意は感じられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...