賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第16章 聖なる戦い

幸せな酔い方

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「そもそもじゃが、おぬし、どこまで把握してるんじゃ? ”ジャック”はないようじゃが、ドロシーのことは覚えておらんのか?」

「”ジャック”か。詳しくはしらんが、胸クソ悪くなる言葉だってのは知ってるぜ。ドロシーって名前には、聞き覚えがないけどな」

 そこまで言って、俺はふと思いつく。

「いや、まてよ。ドロシーというのは、もしかして乳のバカでかい女魔術師か? 長い濡れたような黒髪で、首の後ろに”ジャック”があるやつか?」

 リーインベッツィは弾けるような笑顔を見せた。
「おおー、そうじゃそうじゃ、やっぱり思い出しとったか」

 首筋にうすら寒い感覚が襲った。あわてて俺も、自身の首筋を確かめた。

「思い出してねえよ。暗い部屋の中で、少し話しただけだ」
「あ、それなら私も知ってますよー。ドロシーさん、私のことも知っているみたいでしたけど」

「そうかそうか、ダイヴのせいかはわからんが、さみしーのう。よし、じゃあ最初からじゃな。このリーインベッツィ様が、昔話をしてやろう。昔、この地にの、ドロシー・オーランドゥという女魔術師が転生してきたんじゃ。そんなに強いわけでは無かったが、頭はアホみたいに良くてのう――」

 ◇◇◇

 魔術師ドロシーは、気づいたら森の奥にいた。あたりは真っ暗で、星が出ていた。

「あいたた、頭痛い……。なに、ここ。私、どうなったの?」

 自分が死んだことは覚えている。
 そしてそのあと、変な女神に転生させられたことも。

 ふらふらと立ち上がる。手足は動く。魔力の流れも、問題なさそうだ。

 ≪灯火ライティング≫と、ドロシーは唱えた。

 夜の森を、白い光が辺りを照らす。

「やだなあ、虫とか寄ってこないかしら」

 虫ならまだよかった。突如現れた魔力の光に偶然誘われてきたのは、近くにいた熊人間ウェアベアーだ。

 べ、ベァァ。 ベアァァァァッッ!

 熊は太い手を振り上げて、ドロシーの背後から襲い掛かる。

 次の瞬間、詠唱もなく唱えられた即死の掌握デス・グリップにより、熊は崩れ落ちた。
 魔法の主は、ドロシーではなかった。

「危ないのう、娘。偶然わしが通りかからんなら、死んでおったぞ」
 ドロシーが振り向くと、そこに建っていたのは金髪の幼女。リーインベッツィだった。

「平気よ、あの程度」
 ドロシーの右手には、白い蛇のようにうねる魔法金属が絡みついていた。
 
「なんじゃ、助けなくてもよかったかの」
「あら、ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの。手も汚れなかったから、助かったわ」

 素直に礼を言うドロシー。リーインベッツィに近寄った彼女は、すぐに目の前の少女の正体に気付いた。
「あなた、もしかして吸血鬼? めずらしいわね」

「おう、われの正体がわかるか。すごいのう、ぬしは。どこから来たんじゃ?」
「わからないわ、たぶん、こことは別の世界。転生ってわかる?」
「いや、知らんの。酒でも飲みながら、詳しくおしえてくりゃれ。わしは新たな寝床を探してふらついとったところでの。ようは暇しておったのじゃ」
「あら、奇遇ね。私も似たようなもんだわ」


 リーインベッツィは、血の苦手な吸血鬼だった。同族からはぐれ、決まった住処をもたず、ふらふらとさまよっていた。
 ドロシーとリーインベッツィは、ともに世界に嫌われた者だったのかもしれない。
 二人はすぐに打ち解けた。酒が好きだったからだ。

 血の代わりに飲むものを探していたリーインベッツィに対し、ドロシーは赤ワインを進めた。
 吸血鬼らしく、椅子にふんぞり返って偉そうに飲んでみたが、あまりの渋さにすぐ吐き出した。

「うえー、ぺっぺっ、どろしーよ、ぐぢ直しをくれー。 うん? おぬし、何を飲んどるんじゃ」
「ビールよ。あんたがたっかいワインを吐き出すから、私がガマンしてやっすいやつを飲んでやってんじゃない」

「すまんー、ゆるしてたもれ、ドロシー。……なあなあ、それもちょっと飲ましてくれや」
 無言でカップを差し出すドロシー。
 自身はつまみのチーズをほおばりながら、リーインベッツィのグラスに残ったワインを飲み干した。

「しぶいのはのー、どうもすかんのじゃー。……って、ぐええ、おぬし、ようこんな苦いのを飲むのう。しんじられんわ」

「お子様ねえ、まったく。ほれ」

 ドロシーはビールのグラスを指さし、軽く≪砕氷ロックアイス≫を唱えた。、カラン、という小気味よい音とともに、グラスの中に複数の氷が出現する。

「んー、なんか変わるのか? おお、飲みやすくなった! けど、もう少しなんかのー」

「あんた、ほんっとわがままねえ」

 そういうとドロシーは、ごそごそと魔道冷蔵庫をあさり、赤い野菜を取り出した。

「なんじゃそれ」
「トマトよ」

 ドロシーは魔法でトマトを液状化ジュースにすると、飲みかけのビールグラスに足してやった。

赤の瞳レッド・アイっていうの。飲んでみる?」

「ふむー。ごくごく。おお、うまい! すっきりしてさわやかじゃのー。これならもう一杯飲めるわい」
「へっへっへ、やーっとみつかったようね、お気に入りの酒が」
「いやー、これでもトマトとやらがうまいんであって、わし、ごまかされてやせんかのう?」

「文句言うなら飲むのやめなさいよ。ビールだって、美味しいじゃない」
「むー、そうかのう?」

 「ふふふ」「しっしっし」
 二人は顔を見合わせ、笑いあった。

 酔いがちょうどよく回り、とても良い気分だった。
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