賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
167 / 200
第17章 イクリプス

Replica

しおりを挟む

「ジャックに、ダイヴマシン。聞くのは二回目だな。変な話だ、夢くらい、まどろめばゴブリンでも見るだろう?」
「ただの夢ならね」
「違うのか?」

 科学を知らない人間に、それを説明するのは難しい。だがドロシーは、彼の賢しさを信用した。

「魔術とは別の技術で、無理やり見せるレプリカよ。そう思っておいて」
「オーケーイだ、ダーリン。そう思っておく」

「お酒をいただいていいかしら?」
 薄汚れたテーブルに酒瓶が置かれる。彼女の瞳にはすでに魔力が宿っている。力強い魔力が。
 グラスに濃い飴色の液体が注がれた。瓶の中身はブランデーだった。イングウェイが一級魔術師に昇格したときにもらったものだった。
 何かの記念にと飲む機会をうかがっていたら、ついに飲まないまま死んでしまったのだ。

 こんなところで披露するようなものか? 自問するのもばからしい。今出さなければ、いつ出すというのだ。

 ドロシーは優しく『砕氷ロックアイス』の魔術を使用する。小気味よい音を立て、いくつかの氷が現れる。
「酒は神の飲み物なのよ」
「ああ、同感だな」
「比喩じゃないわ。でも、まだ仮説なの。確かめるにはあなたが必要だった。魔術を使える、この世界に汚染されていない存在が」

「それが、俺のことか?」

 ドロシーは頷いた。
 俺はなにをすればいい? 君は何を求めている。胸に押し寄せる疑問を押さえつけ、イングウェイは女魔術師の言葉を待った。

「あなた、精神系の術は得意かしら? 『夢操りドリーム・シアター』の術は使える? わからないなら教えるわ」
「できなくはないが、得意ではないぞ」
「かまわないわ。ある程度はこちらで合わせてあげる。それで、私の夢に接続リンクしてほしいの」

 こいつは正気なのか?
 決まっている、正気だ。正気でこんなことを言うくらい、追い詰められているのだ。

 夢は裸の精神そのものだ。魔術師である彼女が知らないはずがない。
 この女は自分の首吊り紐ギャロウブレイドを、イングウェイに預けると言っているのだ。

 大きく長いため息。了解のサインだった。
 覚悟ができている人間に、あらためて聞き直すようなマネはしたくなかった。

 発した言葉は、一言だけ。

「その後は、どうするんだ?」

「向こうで話すわ」

 彼女はいつの間にかベッドの脇に落ちていた太いコードを拾い上げると、先ほどと同じように長い髪の毛をかきあげる。
 うなじにあるジャックを手で探ると、鈍色の端子プラグを差し込んだ。
 パネルを慣れた手つきで操作すると、ベッドに力無く横たわる。

「先に待ってるわね。早く来てね」

 それだけ言うと、彼女は意識を手放した。
 ドロシーは思った。こんなに安らかな気分で眠れるのは、何年ぶりだろうと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...