174 / 200
第17章 イクリプス
ジャミル・ソール
しおりを挟む「ちょおっと待つにゃあああーん!」
その場を去ろうとした俺たちだったが、急にフィッツが大声を上げて引き留めた。
「まだ、みーは何も活躍してないにゃん! ジャミル、ここで決着つけるにゃん!」
フィッツのターゲットとなったのは、ジャミル・ソール。勇者パーティーの前衛である、斧使いの戦士だ。
フィッツとは街で会うたびに拳を交えあうという、不良マンガのような関係である。
が、結果は今のところフィッツの全敗。
当然だが仕方ない。スピードではわずかに上回るフィッツだったが、歴戦の戦士であるジャミルには、それだけでは通用しない。
どんなにスピードがあっても直接的なフィッツの攻撃は読まれやすく、逆にうまくフェイントを入れてくるジャミルにぼこぼこにされてしまうのだった。
止めようとする俺に、フィッツは瞳をきらりと輝かせ、宣言した。
「インギー、勝機がみえたにゃ、やらせてくれにゃん」
「どういうことだ?」
「やつはケガをしているにゃ、そこをつけば! このチャンスを逃すわけにはいかないにゃん!」
よく見ると、確かに奴は腕と足をかばっている。疲れも取れていないようだ。
どうやら昨日の戦いはよほど激しかったようだな。
しかし、なあ……。
「さすがに、それは卑怯じゃないか?」
「何を言うにゃん、いんぎー! いんぎーは言ったにゃん、冒険者ならチームでの勝利を目指せと!」
「まあ、確かに言ったが、こういうことじゃないだろう?」
「こういうことにゃん! みーもあいつらも、同じところまでやってきた。片方は無傷、片方はケガをしている。これはチームリーダーの指揮の差とみて、何か問題あるかにゃん? にゃあ? アントニーぃ?」
「いやー、まあ、そう言われたら返す言葉もないね」
苦笑するアントニー。
フィッツめ、本人ではなくリーダーを煽りにいくとは。なかなか狡猾になったものだ。一体誰に習ったんだ?
「はー、仕方ねえな、やってやるよ」
「ジャミル、無理しなくてもいいんだよ」
「なあに、リーダーを侮辱されて黙ってるわけにもいかんだろ。お前さんは見物しててくれ」
まあ、いいか。やりあうといっても、殺しあうわけでなし。
それがわかっているから、アントニーも強く止めようとしないのだろう。
「仕方ないな。好きにしろ。ただし、お互い素手だぞ。フィッツも爪はなしだ」
「おう!」「にゃあ!」
俺の言葉を合図にとびかかるフィッツ。ジャミルは動かずに構えをとった。やはり足のケガが響いているのだろう。
にゃあっ! ふにゃあっ! おらっ! くそっ!
二人がやるときは互いに素手らしいのだが、ケガをしているジャミルにとって、普段以上のハンデのはずだ。にもかかわらず、フィッツの猫ぱんちをよくさばいている。
普段なら力任せに叩き落しているのだろうが、今はいなすように動き、隙あらば腕ごと掴み、関節をきめようとすらしていた。
「うまいな、ごつい筋肉にたよらず、経験を活かした強かな戦い方もできるのか」
「そりゃあ、僕のパーティーの壁だからね。簡単には倒れないさ」
アントニ―は自慢そうに言った。彼をどれほど信頼しているかがよくわかる。
だが、フィッツのことも、甘く見てもらっては困る。
フィッツはジャミルの蹴りの力を利用して高くジャンプすると、しなやかな体のバネを最大限に生かし、三角蹴りからの体当たりをしかけた。
「くらえにゃあああっ!」
おう、これは躱しづらい。
「ぐぅううっ、こいつ!」
普段のジャミルなら、なんてことはないだろう。が、今の彼は手負いだ。
フィッツが体当たりを仕掛けたのは、負傷しているジャミルの右肩方向からだ。
ダメージというより、負傷した肩をさらに痛めつける狙いだ。
「あいつ、実はけっこう卑怯なんだよなあ」
彼女は幼いころからマンティコア世界で生きてきた。野生の世界において、相手の弱みを見つけて狙うのは当然のこと。
体当たりの勢いそのままに、ジャミルの腕にしがみつくフィッツ。
ジャミルは何とか耐えているが、あれは、絶対に激痛のはずだ。
「うっとおしいんだよっ! くそっ!」
無理やり腕を振り回し、フィッツを引きはがす。が、それこそフィッツの思うつぼだ。
「ここだにゃん!!」
フィッツは片腕を床につき、そのままジャミルの脚に蹴りを放つ。読んでいたジャミル。
フィッツはブロックされた足を支点に体を起こすと、腕を振った。 空振りか? いや、違う。
目つぶしだ!
「いってえええ!」
フィッツは倒れた拍子に床の砂を掴んでおり、ジャミルの顔に投げつけたのだ。
「いけ、フィッツ!!」
「にゃあああっ!!」
どすっ
渾身のねこぱんちが、ジャミルの鳩尾にしっかりと入った。
ジャミルはうめきながら、膝をついた。勝負あったな。
戦いは終わり、治療はニーナという僧侶がしてくれた。
「くっそお、ついに負けたかあ」
「ふっ、ジャミル、お前もなかなか強かったにゃん」
やれやれ。あとはこのまま勝ち逃げするだけか。
「じゃあな、今度こそ俺たちはいくぞ」
「ああ。君たちのことは忘れないよ。機会があればまた会おう」
俺たちは魔王城を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる