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第18章 サイレンス
ギルド・イン・ラウドネス
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~場面 (と時間)は戻って、アサルセニア冒険者ギルド支所~
『オーランドゥの魔術書』を探してギルド長に会いに来た俺たちは、受付のアリサ嬢に門前払いされかけていた。
「ギルド長に合わせろにゃー」
「え、無理ですよ。あの人、超忙しいんですよ。紹介状もなしにほいほい案内してたら、受付の私が超怒られます」
冒険者ギルドのカウンターで粘ごねているのは、亜人種の猫蟻娘、フィッツ・マクバーニィだ。
「だからー、アントニーの紹介があるって言ってるにゃーん!」
「だーかーら、紹介状を出せっつってんでしょうが、この牝猫!」
おお怖い。普段温厚なアリサ嬢がここまでぶち切れている理由はただ一つ。
フィッツがしつこい。あまりにも。飲んでないのにこの絡み方は、一種の才能と言ってもよかろう。
俺はその様子を、酒を飲みながら見ていた。
最近あまり飲むタイミングが無かったので、この機会に飲めるだけ飲んでおこうと思ったのである。そう、朝からだ。
もちろん仕事前なので、節度を保ち、飲むのはビール2杯まで。うるさいサクラやレイチェルはおいてきたので、俺を止めるものは誰もいない。
フィッツとアリサの喧嘩をつまみに、飲む。とことん飲む。
飲んでいないのにからむフィッツと、飲んでいるのにからまない俺。バランスはとれている。
だがいけない、ビールは炭酸ガスのせいで、腹が膨れやすいのだ。やはり何か食べ物のつまみが欲しいな。
そう思い、俺はフィッツに声をかける。
「おい、あまりアリサ嬢を困らせるな。食事にいくぞ」
「イ、イングウェイさーん、もっと早く助けてくださいよ……。この人、いや、この猫、しつこすぎて……」
いつもの笑顔はどこへやら、アリサ嬢はぐったりと疲れ果てていた。
「すまない、少々考えごとをしていたのでな。それはそうと、アントニーは自分の名前を出せば取り次いでくれると言っていたのだが、違ったか?」
「え? そうなんですか。いやでも、お手紙とか証明できるようなものは、何ももらっていないんですよね?」
「いくら強いとはいえ、彼も冒険者という現場の人間だ。おそらく手続き的なことには疎いのではないか? 特に勇者パーティーとして普段からギルド長との距離が近いなら、なおさら勘違いしていても仕方ない。どうだろう、ダメもとでギルド長に声だけでもかけてみては?」
「えー、うーん、どうしましょーか」
よし、ここであと一押しだ。
「アントニーから『オーランドゥの魔術所』についての話を聞くように言われた。そう伝えてもらえるかい?」
「あ、はいっ、それじゃあ聞いてみますっ」
ありさ嬢はぱたぱたとかわいらしい足音をたてながら、奥へと引っ込んだ。
「ぎにゃあーーっ、ずるいにゃあ。なんでいんぎーが言うと素直に聞くんだにゃん!」
「まあ、一つの交渉術だな。飴と鞭、ドアインザフェイスなどと言われる技術だ。これも、フィッツがごねてくれたおかげでうまくいったのだ。ほぼフィッツの手柄と言っていいだろうな」
「え、そ、そうなのかにゃん? にゃへへー、嬉しいにゃん」
「ふっふっふ、ご苦労だった。よし、お前も待っている間に飲むがいい」
などと言っていると、奥から鋭い目つきの男性が歩いてきた。必要な筋肉だけを残して絞り切ったように見えるその肉体には、大小さまざまな傷跡が刻まれていた。
おそらく、引退した冒険者なのだろう。直感でわかる、どんな問題も知恵と経験と暴力で解決するタイプだと。
体力バカのジャミルとはまた違うタイプだな。
「ギルド長、こちらがギルド『ミスフィッツ』のリーダー、イングウェイさんです。隣の牝猫は、ペットのフィッツ」
「イングウェイだ。よろしく」「ぶにゃあっ? ぺっとにゃん!?」
「私はこのギルドの長、ジャニ・アランというものだ。君のことは知っているよ。裏ではなかなか有名なのでね」
以前何度か、王の秘密の依頼を解決したことを思い出した。ギルド長のいう「裏では有名」というのはそのことだろう。
「ではさっそく本題に入るが、『オーランドゥの魔術書』を知っているか? できれば次元魔術に関する記述があるものが欲しいのだが」
「もちろん知っているさ。だいぶまえだが、隣国との戦争があったのは知っているだろう? あれも元をたどれば、魔術書の奪い合いだ」
「ならば話が早い。魔術書の中でも、特に次元魔術に関する記述について調べたいのだが」
「ほう、次元魔術とはまた妙なものを欲しがるな。あれは理論の飛躍が過ぎて、偽物ではないかと言われていると聞いたぞ」
ジニーという魔法使いが言っていた内容と違うが、特に驚きはない。
人間、自分の理解を超えた理論は、なかなか信じられないものだ。おそらく並みの魔術師には理解できないほど、内容が高度だったのだろう。
欲しがる人が少ないなら、むしろ好都合ともいえる。
「で、今どこにあるか知っているか?」
「ああ、知っている、トイレだな」
「はあ? インギー、やっぱりこいつらダメにゃん、答える気がないにゃん」
『オーランドゥの魔術書』を探してギルド長に会いに来た俺たちは、受付のアリサ嬢に門前払いされかけていた。
「ギルド長に合わせろにゃー」
「え、無理ですよ。あの人、超忙しいんですよ。紹介状もなしにほいほい案内してたら、受付の私が超怒られます」
冒険者ギルドのカウンターで粘ごねているのは、亜人種の猫蟻娘、フィッツ・マクバーニィだ。
「だからー、アントニーの紹介があるって言ってるにゃーん!」
「だーかーら、紹介状を出せっつってんでしょうが、この牝猫!」
おお怖い。普段温厚なアリサ嬢がここまでぶち切れている理由はただ一つ。
フィッツがしつこい。あまりにも。飲んでないのにこの絡み方は、一種の才能と言ってもよかろう。
俺はその様子を、酒を飲みながら見ていた。
最近あまり飲むタイミングが無かったので、この機会に飲めるだけ飲んでおこうと思ったのである。そう、朝からだ。
もちろん仕事前なので、節度を保ち、飲むのはビール2杯まで。うるさいサクラやレイチェルはおいてきたので、俺を止めるものは誰もいない。
フィッツとアリサの喧嘩をつまみに、飲む。とことん飲む。
飲んでいないのにからむフィッツと、飲んでいるのにからまない俺。バランスはとれている。
だがいけない、ビールは炭酸ガスのせいで、腹が膨れやすいのだ。やはり何か食べ物のつまみが欲しいな。
そう思い、俺はフィッツに声をかける。
「おい、あまりアリサ嬢を困らせるな。食事にいくぞ」
「イ、イングウェイさーん、もっと早く助けてくださいよ……。この人、いや、この猫、しつこすぎて……」
いつもの笑顔はどこへやら、アリサ嬢はぐったりと疲れ果てていた。
「すまない、少々考えごとをしていたのでな。それはそうと、アントニーは自分の名前を出せば取り次いでくれると言っていたのだが、違ったか?」
「え? そうなんですか。いやでも、お手紙とか証明できるようなものは、何ももらっていないんですよね?」
「いくら強いとはいえ、彼も冒険者という現場の人間だ。おそらく手続き的なことには疎いのではないか? 特に勇者パーティーとして普段からギルド長との距離が近いなら、なおさら勘違いしていても仕方ない。どうだろう、ダメもとでギルド長に声だけでもかけてみては?」
「えー、うーん、どうしましょーか」
よし、ここであと一押しだ。
「アントニーから『オーランドゥの魔術所』についての話を聞くように言われた。そう伝えてもらえるかい?」
「あ、はいっ、それじゃあ聞いてみますっ」
ありさ嬢はぱたぱたとかわいらしい足音をたてながら、奥へと引っ込んだ。
「ぎにゃあーーっ、ずるいにゃあ。なんでいんぎーが言うと素直に聞くんだにゃん!」
「まあ、一つの交渉術だな。飴と鞭、ドアインザフェイスなどと言われる技術だ。これも、フィッツがごねてくれたおかげでうまくいったのだ。ほぼフィッツの手柄と言っていいだろうな」
「え、そ、そうなのかにゃん? にゃへへー、嬉しいにゃん」
「ふっふっふ、ご苦労だった。よし、お前も待っている間に飲むがいい」
などと言っていると、奥から鋭い目つきの男性が歩いてきた。必要な筋肉だけを残して絞り切ったように見えるその肉体には、大小さまざまな傷跡が刻まれていた。
おそらく、引退した冒険者なのだろう。直感でわかる、どんな問題も知恵と経験と暴力で解決するタイプだと。
体力バカのジャミルとはまた違うタイプだな。
「ギルド長、こちらがギルド『ミスフィッツ』のリーダー、イングウェイさんです。隣の牝猫は、ペットのフィッツ」
「イングウェイだ。よろしく」「ぶにゃあっ? ぺっとにゃん!?」
「私はこのギルドの長、ジャニ・アランというものだ。君のことは知っているよ。裏ではなかなか有名なのでね」
以前何度か、王の秘密の依頼を解決したことを思い出した。ギルド長のいう「裏では有名」というのはそのことだろう。
「ではさっそく本題に入るが、『オーランドゥの魔術書』を知っているか? できれば次元魔術に関する記述があるものが欲しいのだが」
「もちろん知っているさ。だいぶまえだが、隣国との戦争があったのは知っているだろう? あれも元をたどれば、魔術書の奪い合いだ」
「ならば話が早い。魔術書の中でも、特に次元魔術に関する記述について調べたいのだが」
「ほう、次元魔術とはまた妙なものを欲しがるな。あれは理論の飛躍が過ぎて、偽物ではないかと言われていると聞いたぞ」
ジニーという魔法使いが言っていた内容と違うが、特に驚きはない。
人間、自分の理解を超えた理論は、なかなか信じられないものだ。おそらく並みの魔術師には理解できないほど、内容が高度だったのだろう。
欲しがる人が少ないなら、むしろ好都合ともいえる。
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