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第18章 サイレンス
ヴォミット・トイレット
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~前回までのあらすじニャン~
オーランドゥの魔術書を探し、冒険者ギルドを訪れた美猫のフィッツ。
ところがギルド長のジャニ・アランは、魔術書はトイレにあると適当な嘘で私たちを追い返そうとしたところニャン。
「もう行くにゃん、インギー。商店街の福引の景品にあったってほうが、まだ信じられるにゃん」
「いや待て、フィッツ。確かに意味がわからんが、最後まで聞いてやってもいいだろ」
「時間のムダにゃん」
フィッツは納得いってないようだ、当たり前だが。しかしこのギルド長、こんなクソ真面目な顔で冗談を言うような性格には思えないのだ。
そもそも嘘をつくなら、もっとましな嘘をつくはずだからな。
「はっはっは。知らないなら信じてもらえないのも無理はないさ。君たち、その様子なら、ドロシー・オーランドゥの二つ名をしらないようだね」
「二つ名? 魔女とか魔王とか、そんなやつか?」
「いやいや、『トイレの神様』だ」
はあ。
また何やら不名誉な単語が出てきたな。本人が聞いたらキレそうだ、秘密にしておこう。
「ええと確認させてくれ。ドロシーは天才魔術師で、数々の高度な理論の魔術書を複数残したと聞いているが」
「イングウェイ、君の言う天才魔術師とやらは、酒代の支払いごときに困るような人物なのか?
「そう……言われれば」
「彼女の昔話をしてやろう――
◇◇◇◇◇◇
昔々あるところに、お酒が好きな魔女がいました。
魔女は森の奥に住んでおり、夜になるとたびたび町の酒場まで飲みにやってきました。
魔女は酒癖が悪くたびたび失敗をしていましたが、そのたびに別のお店を変えていたので、大きな問題はありませんでした。
そんなある夜、町の酒場に一人の旅人が立ち寄りました。旅人は、一人で飲んでいた魔女を見つけると、寂しそうだなと思ってお酒に誘いました。
「おうねーちゃん、俺と飲まねえ?(乳でけーなー)」
魔女は言いました。
「ありがたいですが、遠慮しておきますわ。私、お酒に弱くて、そろそろ帰ろうかと思っていたところですの。(胸ガン見してんじゃねーよ、クソ男が!)」
お兄さんは食い下がりました。
「そんなこと言わず、ちょっとだけ。おごるからさあ。(お? こいついけるか? 押せばいけるのか!?)」
魔女は、おごるという言葉に強く惹かれました。
「えー、どうしよっかなー。ちょっとだけならいいかなー(タダ酒! タダ酒! タダ酒!!)」
魔女は悩んだあげく、ちょっとだけならと、少しだけお酒を飲むことにしました。
「あ、あれとあれお願い。そのあと向こうのも飲むわ。うん、ロックで。ねえ、あんた何飲んでるの? 私にも同じのね」
「え? ちょっと、あのー」
一杯、また一杯と飲むうちに、魔女はとうとう飲み過ぎて、トイレにこもってしまいました。
「うえ。おええーー。 うぷ、はー、きつー。 …う、また。ふー、ふー、うおおえええええ」
「大丈夫か? 水、いるか?」
「いやいい、いまのむと、はく、 おううえええ」
「飲まなくても吐いてんじゃねえか……」
その夜の魔女の酔い方は特にひどく、酒場のトイレを占領してしまった魔女は、他の客から『トイレの神様』というあだ名を付けられてしまいました。
翌日、酒場の店主はカンカンでした。
「ふざけんじゃねえ! 毎回毎回、酔うとすぐ調子に乗りやがって! 物は壊すわ、テーブルの上で踊るわ。今回は一晩中トイレを占領だあ? もう我慢ならねえ、二度と来んな!!」
魔女は大変反省した様子でいいました。
「本当にすみませんでしたー! これ、私が書いた魔術書です! 売れば金貨300枚にはなると思いますので、どうかこれで許してくださいー」
金貨300枚といえば、大金です。今のぼろい酒場を建て替えてもおつりが来ます。
店主は半信半疑でしたが、もしかしたらという思いが消えず、迷った挙句に受け取りました。
「今回は許すが、二度とうちに来るんじゃねえぞ!」
「はいー、すみませんでしたー!」
数日後、酒場に、旅の魔法使いが立ち寄りました。店主は先日の魔術書を見せて、本当に価値があるのか聞いてみました。
「おう、これが売ると金になるって聞いたんだがよう」
「ん、どれどれ? ふーむ……」
魔術師はぱらぱらとページをめくっていましたが、すぐに店主に言いました。
「店主さん、あんたいっぱいだまされたね。こんな嘘っぱちの魔術書つかまされるとは。次元魔術なんて、あるわけないじゃないか」
「なにい? やっぱりあいつ、だましやがったのか!」
店主はかんかんです。怒った店主は魔術書をちぎって、町の他の酒場に配りました。
「この魔術書を書いた魔女が来たら、教えてくれ。絶対許さねえ」
「いいけど、こんな紙切れ一枚もらってもなあ。カウンターにでも貼っておけばいいか?」
店主は少し考えて言いました。
「いや、トイレだな。あいつは絶対に吐くまで飲む。トイレに貼っておけば必ず見る!」
残念ながらその日を境に、町の酒場に魔女があらわれることはありませんでした。
ただ今でも町の酒場では、たちの悪い客を避けるおまじないとして、魔術書のページをトイレに貼る風習は残りましたとさ。
めでたしめでたし。
オーランドゥの魔術書を探し、冒険者ギルドを訪れた美猫のフィッツ。
ところがギルド長のジャニ・アランは、魔術書はトイレにあると適当な嘘で私たちを追い返そうとしたところニャン。
「もう行くにゃん、インギー。商店街の福引の景品にあったってほうが、まだ信じられるにゃん」
「いや待て、フィッツ。確かに意味がわからんが、最後まで聞いてやってもいいだろ」
「時間のムダにゃん」
フィッツは納得いってないようだ、当たり前だが。しかしこのギルド長、こんなクソ真面目な顔で冗談を言うような性格には思えないのだ。
そもそも嘘をつくなら、もっとましな嘘をつくはずだからな。
「はっはっは。知らないなら信じてもらえないのも無理はないさ。君たち、その様子なら、ドロシー・オーランドゥの二つ名をしらないようだね」
「二つ名? 魔女とか魔王とか、そんなやつか?」
「いやいや、『トイレの神様』だ」
はあ。
また何やら不名誉な単語が出てきたな。本人が聞いたらキレそうだ、秘密にしておこう。
「ええと確認させてくれ。ドロシーは天才魔術師で、数々の高度な理論の魔術書を複数残したと聞いているが」
「イングウェイ、君の言う天才魔術師とやらは、酒代の支払いごときに困るような人物なのか?
「そう……言われれば」
「彼女の昔話をしてやろう――
◇◇◇◇◇◇
昔々あるところに、お酒が好きな魔女がいました。
魔女は森の奥に住んでおり、夜になるとたびたび町の酒場まで飲みにやってきました。
魔女は酒癖が悪くたびたび失敗をしていましたが、そのたびに別のお店を変えていたので、大きな問題はありませんでした。
そんなある夜、町の酒場に一人の旅人が立ち寄りました。旅人は、一人で飲んでいた魔女を見つけると、寂しそうだなと思ってお酒に誘いました。
「おうねーちゃん、俺と飲まねえ?(乳でけーなー)」
魔女は言いました。
「ありがたいですが、遠慮しておきますわ。私、お酒に弱くて、そろそろ帰ろうかと思っていたところですの。(胸ガン見してんじゃねーよ、クソ男が!)」
お兄さんは食い下がりました。
「そんなこと言わず、ちょっとだけ。おごるからさあ。(お? こいついけるか? 押せばいけるのか!?)」
魔女は、おごるという言葉に強く惹かれました。
「えー、どうしよっかなー。ちょっとだけならいいかなー(タダ酒! タダ酒! タダ酒!!)」
魔女は悩んだあげく、ちょっとだけならと、少しだけお酒を飲むことにしました。
「あ、あれとあれお願い。そのあと向こうのも飲むわ。うん、ロックで。ねえ、あんた何飲んでるの? 私にも同じのね」
「え? ちょっと、あのー」
一杯、また一杯と飲むうちに、魔女はとうとう飲み過ぎて、トイレにこもってしまいました。
「うえ。おええーー。 うぷ、はー、きつー。 …う、また。ふー、ふー、うおおえええええ」
「大丈夫か? 水、いるか?」
「いやいい、いまのむと、はく、 おううえええ」
「飲まなくても吐いてんじゃねえか……」
その夜の魔女の酔い方は特にひどく、酒場のトイレを占領してしまった魔女は、他の客から『トイレの神様』というあだ名を付けられてしまいました。
翌日、酒場の店主はカンカンでした。
「ふざけんじゃねえ! 毎回毎回、酔うとすぐ調子に乗りやがって! 物は壊すわ、テーブルの上で踊るわ。今回は一晩中トイレを占領だあ? もう我慢ならねえ、二度と来んな!!」
魔女は大変反省した様子でいいました。
「本当にすみませんでしたー! これ、私が書いた魔術書です! 売れば金貨300枚にはなると思いますので、どうかこれで許してくださいー」
金貨300枚といえば、大金です。今のぼろい酒場を建て替えてもおつりが来ます。
店主は半信半疑でしたが、もしかしたらという思いが消えず、迷った挙句に受け取りました。
「今回は許すが、二度とうちに来るんじゃねえぞ!」
「はいー、すみませんでしたー!」
数日後、酒場に、旅の魔法使いが立ち寄りました。店主は先日の魔術書を見せて、本当に価値があるのか聞いてみました。
「おう、これが売ると金になるって聞いたんだがよう」
「ん、どれどれ? ふーむ……」
魔術師はぱらぱらとページをめくっていましたが、すぐに店主に言いました。
「店主さん、あんたいっぱいだまされたね。こんな嘘っぱちの魔術書つかまされるとは。次元魔術なんて、あるわけないじゃないか」
「なにい? やっぱりあいつ、だましやがったのか!」
店主はかんかんです。怒った店主は魔術書をちぎって、町の他の酒場に配りました。
「この魔術書を書いた魔女が来たら、教えてくれ。絶対許さねえ」
「いいけど、こんな紙切れ一枚もらってもなあ。カウンターにでも貼っておけばいいか?」
店主は少し考えて言いました。
「いや、トイレだな。あいつは絶対に吐くまで飲む。トイレに貼っておけば必ず見る!」
残念ながらその日を境に、町の酒場に魔女があらわれることはありませんでした。
ただ今でも町の酒場では、たちの悪い客を避けるおまじないとして、魔術書のページをトイレに貼る風習は残りましたとさ。
めでたしめでたし。
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