賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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最終章 Bottom Of My Heart

ディメンジョナル・パス

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 精神世界アストラルスフィアは通常の次元と違い、安定さというものに欠けている。
 距離や広さの概念はあるけれど、歪みやねじれが常に付きまとう。

 早い話が、迷いやすい。

「ちょっとリーイン、本当にこっちなの? さっき言ってたのと違うわよ」
「ううー、今度はたぶん間違いないのじゃ。だいたい来た時の目印が見つからんのじゃから、仕方なかろー!?」
「あんたねえ、次元の狭間こんなとこを風景で判断してたら、迷うに決まってるじゃない。魔力の分布を覚えながら移動するのよ」
「うええぇ? そんなこと、イングウェイは一言も教えてくれんかったぞ」
「ああ、彼は天才タイプだからねえ。意識なんてしてないと思うわ」

 リーインベッツィが紫の靄パープルヘイズを使って移動するのは初めてではない。ただ、どれもドロシーやイングウェイというガイド付きの旅だった。
 ドロシーには初めてのルートだが、彼女の頭の中には、アサルセニアのだいたいの一は入っている。自前で持っている地図とコンパスは、ドロシーのほうが正確だ。

「およ? ドロシー、今なにか聞こえんかったかの?」
「どっちよ?」
「あっちじゃ、あっち」

 ドロシーが振り向く。探知に魔力を集中させる。針で刺されたような高純度の魔力の塊が、すごい速さで近づいてくる。
「まずいわ、避けて!」

 二人が身をかわした次の瞬間、強大な氷柱が空から現れる。雑に狙いもつけずに放り投げられた氷柱は、闇から出て闇へと飲まれていく。

「なんじゃあれ?」
「テレビで見たわ。ヒッチハイカーをひき殺しかけるトレーラーね、フェニックスあたりじゃよくいるらしいわ」
「なんじゃそれは?」
 二人ともすでに走り出していた。軽い口調で冗談を言いつつも、災難に追われるのには慣れっこだったから。

 走りながらドロシーが振り向くと、青白く太い腕が空を割って押し広げようとしている。まったく、次元を掴むなんて非常識なやつだ。
 そこまでして自分たちの邪魔をしたいのだろうか、暇なクソ野郎め。


 とはいえ、巨人 (らしきもの)のその行為をみて、少しばかりの安心もあった。
「あの魔力の波動は、魔法生物かな。なるほど確かにそれなら、次元移動の制約も少ないわ」

 ドロシーには心当たりがあった。女神からの邪魔があるかもしれないという予感があった。
 あいつらはモルモットが箱庭から出ることを良しとしていないのだ。
 ドロシー自身はあんな錆びだらけの世界に閉じ込められるし、イングウェイの二度目の転生時のことだっていまだに恨んでいる。女神たちの邪魔のせいで、イングウェイはとんでもないアホ野郎イディオットとして転生するハメになったのだから。

 ただ、疑問もあった。なぜ女神たちは、直接手を出してこないのか? もしかして次元の壁を超えるという行為は、女神たちにとっても難しいこと――小さくない代償が必要だとか――なのではないかと思ったのだ。
 でなければわざわざ転生の時を、魂が次元を移動して女神たちの世界を訪れるのを待たずに、直接干渉すればいいだけだ。


「ちょちょ、ドロシー、早く何とかするのじゃーっ!」
「え?」
 気づくと霜の巨人フロストタイタンは完全に姿を現していた。やけに長い腕を使って四足でかけてくる。スキップを真似するゴリラがいたら、ちょうどこんな感じだろうか。

「まいったわね。この精神世界アストラルスフィアから出れば、追って来れなくなると思うんだけど」

 逃げることはできても、隠れることはできない。精神体であるドロシーとリーインベッツィは、肉体のあるアサルセニアまでどうにかたどりつかなくてはならないのだ。
 それでもドロシーたちに有利な点があるとするなら、

「≪炎の壁ウォールオブファイア≫!」
 鎖を解かれたドロシーの魔力が、戻りつつあるということだ。

 三重に現れた炎の壁に、霜の巨人フロストタイタンは派手に突っ込んだ。衝突音が響き、赤く焼けた岩石が破裂した。いかに巨人とはいえ、それに合わせて壁は高く作られていた。
 溶けた鉄が降り注がれる。壁が巨人に向かって倒れ込む。巨人が叫び、腹の底から響く。咆哮か悲鳴か判断はつかない。

「あ、あれ怒ってるわ」

 巨人は炎の壁を乗り越えて、ドロシーたちを追いかけてくる。
 腕から肩にかけてひび割れつつも、痛みなど感じていない様子だった。

「うう、もう少しでアサルセニアだと思うのじゃが」

 リーインベッツィの勘は正しい。
 そして、ぎりぎりだというなら、ドロシーに任せておけば何とかなるとも思っていた。
 今までだってそうだったから。

 必死で走ってはいたものの、両者の距離は少しずつ縮まり始めていた。
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