196 / 200
最終章 Bottom Of My Heart
ディメンジョナル・パス
しおりを挟む精神世界は通常の次元と違い、安定さというものに欠けている。
距離や広さの概念はあるけれど、歪みやねじれが常に付きまとう。
早い話が、迷いやすい。
「ちょっとリーイン、本当にこっちなの? さっき言ってたのと違うわよ」
「ううー、今度はたぶん間違いないのじゃ。だいたい来た時の目印が見つからんのじゃから、仕方なかろー!?」
「あんたねえ、次元の狭間を風景で判断してたら、迷うに決まってるじゃない。魔力の分布を覚えながら移動するのよ」
「うええぇ? そんなこと、イングウェイは一言も教えてくれんかったぞ」
「ああ、彼は天才タイプだからねえ。意識なんてしてないと思うわ」
リーインベッツィが紫の靄を使って移動するのは初めてではない。ただ、どれもドロシーやイングウェイというガイド付きの旅だった。
ドロシーには初めてのルートだが、彼女の頭の中には、アサルセニアのだいたいの一は入っている。自前で持っている地図とコンパスは、ドロシーのほうが正確だ。
「およ? ドロシー、今なにか聞こえんかったかの?」
「どっちよ?」
「あっちじゃ、あっち」
ドロシーが振り向く。探知に魔力を集中させる。針で刺されたような高純度の魔力の塊が、すごい速さで近づいてくる。
「まずいわ、避けて!」
二人が身をかわした次の瞬間、強大な氷柱が空から現れる。雑に狙いもつけずに放り投げられた氷柱は、闇から出て闇へと飲まれていく。
「なんじゃあれ?」
「テレビで見たわ。ヒッチハイカーをひき殺しかけるトレーラーね、フェニックスあたりじゃよくいるらしいわ」
「なんじゃそれは?」
二人ともすでに走り出していた。軽い口調で冗談を言いつつも、災難に追われるのには慣れっこだったから。
走りながらドロシーが振り向くと、青白く太い腕が空を割って押し広げようとしている。まったく、次元を掴むなんて非常識なやつだ。
そこまでして自分たちの邪魔をしたいのだろうか、暇なクソ野郎め。
とはいえ、巨人 (らしきもの)のその行為をみて、少しばかりの安心もあった。
「あの魔力の波動は、魔法生物かな。なるほど確かにそれなら、次元移動の制約も少ないわ」
ドロシーには心当たりがあった。女神からの邪魔があるかもしれないという予感があった。
あいつらはモルモットが箱庭から出ることを良しとしていないのだ。
ドロシー自身はあんな錆びだらけの世界に閉じ込められるし、イングウェイの二度目の転生時のことだっていまだに恨んでいる。女神たちの邪魔のせいで、イングウェイはとんでもないアホ野郎として転生するハメになったのだから。
ただ、疑問もあった。なぜ女神たちは、直接手を出してこないのか? もしかして次元の壁を超えるという行為は、女神たちにとっても難しいこと――小さくない代償が必要だとか――なのではないかと思ったのだ。
でなければわざわざ転生の時を、魂が次元を移動して女神たちの世界を訪れるのを待たずに、直接干渉すればいいだけだ。
「ちょちょ、ドロシー、早く何とかするのじゃーっ!」
「え?」
気づくと霜の巨人は完全に姿を現していた。やけに長い腕を使って四足でかけてくる。スキップを真似するゴリラがいたら、ちょうどこんな感じだろうか。
「まいったわね。この精神世界から出れば、追って来れなくなると思うんだけど」
逃げることはできても、隠れることはできない。精神体であるドロシーとリーインベッツィは、肉体のあるアサルセニアまでどうにかたどりつかなくてはならないのだ。
それでもドロシーたちに有利な点があるとするなら、
「≪炎の壁≫!」
鎖を解かれたドロシーの魔力が、戻りつつあるということだ。
三重に現れた炎の壁に、霜の巨人は派手に突っ込んだ。衝突音が響き、赤く焼けた岩石が破裂した。いかに巨人とはいえ、それに合わせて壁は高く作られていた。
溶けた鉄が降り注がれる。壁が巨人に向かって倒れ込む。巨人が叫び、腹の底から響く。咆哮か悲鳴か判断はつかない。
「あ、あれ怒ってるわ」
巨人は炎の壁を乗り越えて、ドロシーたちを追いかけてくる。
腕から肩にかけてひび割れつつも、痛みなど感じていない様子だった。
「うう、もう少しでアサルセニアだと思うのじゃが」
リーインベッツィの勘は正しい。
そして、ぎりぎりだというなら、ドロシーに任せておけば何とかなるとも思っていた。
今までだってそうだったから。
必死で走ってはいたものの、両者の距離は少しずつ縮まり始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる