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最終章 Bottom Of My Heart
キャッスル・ルーインズ
しおりを挟むイングウェイが戻ってきたのは、戦いから丸一日経ってからのことだった。
ヘイムドッター医院は静寂に包まれていた。東の空がやっと白み始めたころだ、こんな時間に起きている酔っ払いなどいない。
ぎしぎしと硬くなった体に鞭打って裏庭に出ると、惨澹たる光景が広がっていた。
砕かれた石壁、えぐれた地面。寝転んでいる仲間たち。……と酒瓶。
「何だこれは、まったく、ただでさえ頭が痛いというのに」
頭を抱えるイングウェイ。そこへ、サクラが声をかけた。
「あ、イングウェイさん! 起きたんですね。お帰りなさい、待ってましたよ」
サクラはいつもの稽古着に、木刀を持って立っていた。
見たところいつもの早朝稽古に起きてきたようなのだが。
「おい、サクラ、説明してくれ。これは一体なにがあった?」
「あ、はい。実はかくかくしかじか」
◇◇◇◇◇◇
「のー、本当によかったのか? ちょっとくらい抱き合ってから行けばよいではないか」
「冗談でしょ、あんな若い子たちと比べられるなんてごめんだわ! 一目でも見せたら負けなのよ!」
「ドロシーも美人だと思うんじゃがのう」
「美人とかの問題じゃないわよ。肌よ、肌! 化粧しても間近で見られたら意味ないし、手だって全然違うのよ? あんた、ずー――っと若いんだから、わかんないのよ。ちょっとその体貸しなさいよ!」
「むー」
ドロシーとリーインベッツイの二人は、酒盛りを途中で抜け出し、夜のうちにアサルセニアを去っていた。
レイチェルらには当然引き留められたのだが、ドロシーの決意は固かった。
「本当にありがとう、みんなにはずいぶんお世話になったわね。いつか必ずお礼をするから」
そう言って身一つで旅立ったのだった。
二人の行く先はもちろん、かつての故郷である、例の城跡だ。
「さっさと行くわよ。イングウェイがいつ戻ってくるかわかんないんだから、急がなきゃ」
「ん、何を急ぐのじゃ?」
ドロシーは鈍いリーインベッツイに呆れる。
「決まってんじゃない。若返りの術を完成させるのよ」
「はあ? なんじゃそれ、聞いとらんぞ」
そりゃそうだ、一言もそんな話はしていない。
「あんた、ばっかねえ。イングウェイのことわかってないわ。優しい彼は、絶対私のことを心配して、追っかけてくるのよ! 色々探したあとで、やっとあの思い出の城で再会するの。盛り上がるわー」
「いやでも、そもそも探さないでみたいなことを自分で言ってたではないか」
「女が探すなっつったら、早く迎えに来いってことでしょうが! 彼ならわかるわ、絶対!」
「そうかのう?」
「はー、待ち遠しいわ。あれだけ待たせたんだもん、一年くらい引きこもってイチャついたっていいわよね? ねえ、どう思う? どんな服で待ってようかなー。えへへー。あ、向こうの世界はそういうのすごかったわよ。逆バニーとかいうのどうかしら? 激しいかなあ?」
「俗っぽいのー」
「何とでも言いなさい!」
◇◇◇◇◇◇
「……という話を、おそらくしているのだろうな」
「ふむふむ、なるほど」
サクラから事情を聞いた俺は、その後、みんなにドロシーの行先を説明していた。
ドロシーはなかなか繊細なところがあるからな。きっと若返りの術を使う前の姿を見せたくなかったのだろう。
「で、どうするんですか? 帰ってくるのを待ってるんです?」
「ふん、決まっているさ」
かつての姿のイングウェイならば暢気に待っていただろう。そして数か月後、忘れたころにドロシーが「なんで早く追っかけてこないのよ!」なんてキレながら言ってくるのだ。目に見えている。
だが、今の俺は違う。ドロシーとの付き合っていた時の記憶も思い出したしな。彼女の考えていることくらいはすぐにわかる。
「少し、一人で出てきてもいいか?」
「いいですよ。それが一番です」
「まだうちの医院、空き部屋ありますから。リーインちゃんにもよろしく言っておいてください」
「早く行ってきたら? 壁なら、ボクが直しておくから大丈夫」
「ありがとう」
みんなの温かい言葉に送られながら、俺は旅立った。
フィッツだけはまだ寝ていた。猫だから仕方ない。
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