賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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最終章 Bottom Of My Heart

最後の見せ場はサクラさんへ

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「にゃー、冷たいにゃんーっ!」
「フィッツさん、無理せずもっと離れてっ!」
 
 霜の巨人フロストタイタンと相対するは、剣士サクラと格闘家グラップラーのフィッツだ。
 猫は寒さに弱い。当然猫蟻娘ウェアミルメコレオであるフィッツも同様だ。冷気攻撃は食らっていないが、早くもコタツが恋しくなってきている。

 サクラはがんばっていた。無理は良くない。無理をしてもいいことはない。
 自分が勝てないときは、時間を稼いで助けを待つのだ。そう、かつてはイングウェイを。そして今はドロシー・オーランドゥを。

 それまではできる限りのことをするだけだ。サクラが守るべきは、まず命。次に平和な暮らし。早い話が、家と街だ。
 ぼろっちい病院がつぶれるのは、百歩譲って仕方ない。建て替えるいい機会と考えよう。(もちろんレイチェルには言えないが)
 しかし、街が破壊されるのはひっじょーにまずい。
 ご近所づきあいは大変なのだ。ただでさえゾンビがいるだの夜中まで酔っ払いがうるさいなどストレス満載だというのに、ここで近所の皆さんに少しでも被害が出たら、サクラの胃がボロボロになってしまう。

 そしてそして、さらにまずいのが、マリアの工房アトリエである。
 工房がつぶれたら最後、お金を稼ぐ手が無くなってしまう。家を建て替えるにもご近所に菓子折り持って謝りに行くにも、何につけてもお金は必要。
 そうだ、今の彼女たちにとって最重要施設である。

 どがーん、がらがら。どごーん。

「ちょ、フィッツさーん、あんまり避けないで! モンスターが外にでちゃいますっ!」
「ムチャ言うにゃにゃーんっ」

 明らかに格上のモンスターだというのに、ぶんぶん振り回される剛腕にかすりもさせないのはさすがなのだが。
 ヘイムドッター医院の庭の広さにも限界を感じ始めたとき、やっとこさ助けが現れた。

「待たせたのう、お前たち! すぐにこのリーインベッツイ様が助けてやるぞ」

「はいはい、ちゃちゃっとやって、さっさと飲むわよ」

 炎の術はあまり得意ではないが、そんなことは言っていられない。ドロシーが呪文を唱えると、巨人の足元はマグマの海へと化した。
 ダメージがあるのかないのかわからないけれど、よろけて体勢を崩す。

「これで死んどけなのじゃっ!」
 リーインベッツイが渾身の力を込めて放った血の魔槍ブラッド・ランスが、樽のような腹を貫いた。
 貫いたものの、止まらない。そうだ、相手は酒瓶だ。一斗缶から生まれたミリリッ太同様、酒瓶は本来空っぽだ。心臓なんてどこにもない。

 うおおーん

 巨人の足元から凍てつく冷気が噴出し、足元の溶岩がカカオ色へと変色していく。
 ぱきぱきりと小気味よい音を立ててひび割れていく。これはもはやチョコレート。ウイスキーがあれば、つまみと間違えてかじってしまうところだ。

 霜の巨人フロストタイタンは怒り狂って突進してくる。いっちょ前に痛みは感じる造りなのだろうか。
 ドロシーの前に盾となり立ちふさがるリーインベッツイに向かい、猛吹雪を吹き付ける。
「うひゃあ、けっこう寒いぞ。ドロシー、早く何とかせんか。イングウェイの体なら魔力もたっぷりあるじゃろー!?」
 吸血鬼であるリーインベッツイに冷気は効果が薄い。とはいえまったく効かないわけではないし、周りへの余波だけでもけっこうなものだ。


 そんなドタバタを縁側で眺めるマリアとレイチェル。戦闘はハイレベル、二人が入る余地はない。
 とはいえ暢気に見物できるのは、みんなを信頼しているからこそなのだ。

「うわー、こりゃすごいや。みんな、いつもダンジョンでこんなのと戦ってたの?」
「いえいえ、こんなヤバいのはそうそうないですよ。そもそもお腹を串刺しにしたら、普通はそこで終わりですし」
「だよねえ。ねえレイチェル、あのごっつい巨人って、もしかして魔法生物なの?」
「え? ええ、たぶんそうだと思います。生物の魔力ではありませんし」
 さすがは死霊術師ネクロマンサー、生命エネルギーには敏感だ。
 腕を組み考えるマリア。ゾンビになってもその鋭い勘は失っていない。
「ねえ、ボクの作ったメイジキラーってさ、魔力を散らす働きがあるんだけど、もしかして魔法生物に効きやすいかな?」
「ふむう? あ、確かに、いけるかもしれませんね!」


 ドロシーは生粋の魔術師だ。特技も趣味も研究だ。イングウェイの腰に下がっている魔術師殺しメイジキラーは、ただの重りでしかない。

「ドロシーさんっ、その、腰のメイジキラーなら効くかもっ! それボクが作った剣で、魔力を散らすちからがあるんですっ!」

「え、この剣のこと? いやでも、ありがたいけどさ、無茶言わないでよ。こっちは剣どころか……」
 戸惑うドロシー。そこに助けを出すサクラ。
 イングウェイがいない今、一番主人公に近いのは、剣士サクラ・チュルージョをおいて他にない。
「ドロシーさん、貸してっ! 私が使いますっ!」

 言うが早いか名刀モモフクを鞘に納め、ドロシーの腰からメイジキラーを奪い取る。
 漆黒の刃が凍てつく魔力を散らしていく。

「くっ、重たいですね、この剣っ」
 そうだ、当てないことには仕方がない。
 打ち込む隙を探るサクラ。ドロシーは察して、すぐにサポートに回る。

 フィッツとリーインベッツィが合わせて巨人の足元を攻撃すると、巨体が大きく傾いた。
 ドロシーが≪束縛の光輪アレスティングヘロー≫を唱える。複数の光輪が巨人を拘束する。女神の魔力は大したもので、魔力の鎖を腕力で破ろうと強引にもがく。が、一瞬でも動きが止まれば十分だ。

「今よ、サクラちゃん!」
「はいっ! どっせぇぇぇいっっ!!」

 黒い刃が巨人の脳天を貫いた。

 と同時に、光があふれ、酒瓶にかけられた術が霧散していく。
 数秒後、霜の巨人フロストタイタンは、キンキンに冷えただけのビール瓶へと戻っていた。
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