血濡れは絶景を求める、

出無川 でむこ

文字の大きさ
8 / 19
第一章

7ページ目 新たな旅路

しおりを挟む
あれから2週間。

シャルは、スピカと共に、村の人達の墓を作ってあげた。
墓は、分かりやすいよう村の真ん中に骨を埋めておいたのだった。
ミレイ先生、ピグレ、スモルなどの見知った人たちの名前が刻み込まれた墓石が並んでいた。

「魔王、すまないな、手伝わせてしまって」
「あぁ、他でもない境遇者の頼みだ。後、魔王はやめてくれ、今はスピカよ」
「あぁ、すまんな、スピカ」

最後のお墓を立てる為に、太陽のような花を持って、エルの一番好きな場所で安らかに眠ってもらう為にシャルは丘に登る。
花は少し焦げていた。他の花は、炎で焼けてダメになっていたが、しかし、この花だけは無事でだった。

丘の上には墓が建てられた、
墓の十字架には名前書いてある。


エル=ゾディエッタ 此処に眠る
サリア=クロエ 此処に眠る

シャルは、花を添えて手を合わせ祈る。
それを隣で見ていたスピカは、不思議そうにして、話しかける。

「何をやっているの?」
「ああ、ちゃんと天国に行けるように祈ってあげてるんだ。人の思いってのは、案外届くもんだぞ?」
「ふーん・・・」

そう言って、スピカはシャルの隣に達、同じように祈る。
すると、シャルはその光景をが何だか可笑しく感じた。
何たって、あの多くの人間を殺したあの魔王が、死んだ人間の為に祈ってあげているのだ。

気づけば夕暮れになっていた。
人間になった魔王は、魔王だという事を忘れ去る程、夕暮れに輝く姿は美しく感じた。
シャルはいつの間にか似ても似つかないスピカとエルを重なり合わせ見ていた。

魔王に見惚れるなんて、シャルの心は既に壊れているかもしれない。
でも、それでも良い、今はその美しい姿を見ていたいと思えたのだから。

シャルの視線に気づいたのか、スピカはにやつきながらシャルを見ていた。

「おやぁ?人間が我に見惚れているのか?」

スピカは冗談半分で言うが、シャルは静かに笑う。

「あぁ・・・そうだな、とても綺麗で見惚れていたよ」
「なッ・・・!?」

シャルは、正直な気持ちで、スピカに思っていることを伝える。
本当に今の姿は美しいと思えたのだから。
そんなスピカはシャルにストレートに言われた事で顔が赤くなる。
魔王は人間になったことで感情豊かになったかもしれない、スピカの照れている所は可愛らしいとシャルは思ってしまう。

スピカは何かに気づいたようだ、シャルの顔を見て言う。

「おい、境遇者よ・・・どうして泣いているのだ?」
「え?」

シャルは手で目を擦った。
手を見ると、スピカに言われた通りに涙で濡れていた。
涙がどんどん溢れてくる。
その姿にスピカは慌てふためく。

「あれ・・・なんでだろう、何故なんだ、何で涙が止まらないんだ・・・」

何度も拭っても、涙は止まらなかった、それどころか更に悪化する。
その様子を見たスピカはシャルに近づいて、そのまま優しく抱きしめる。
そんな、唐突な事で硬直する。

「境遇者よ・・・いやシャル、大丈夫だ」
「スピカ?」

抱きしめられたスピカの身体は暖かった。
最近、雨に濡れながら、不眠不休で墓を作り続けたせいなのかスピカの身体が物凄く暖かく感じた。
スピカが人間だからか、肌のぬくもりが久しぶりに感じた。
少し経ってから、シャルから離れる

「シャルよ、この先何があっても、我が一緒にいよう、その運命が自由になる時まで」
「スピカ・・・」

スピカの黄色の目はいつもの悪魔のような目と違って、優しく感じた。
その目を見ると不思議と安心できた、相手が魔王だと知っててもだ。

「人間の身体は少々不便だが、そう簡単には死なんよ」
「ハハ、でも慣れれば色々できるよ」
「そうかもね・・・」

スピカはクスリ笑い話す。

「なぁに、惚れた身だ、最後まで付き合うさ。だからシャル、今は安心して休んで」

そう言って、スピカは再びシャルに抱き着き、頭を優しく撫でる。
そして、心に溜まった水のダムが一気に壊れた。
シャルは大声で叫び、泣き続けた、今度は無音でなくスピカの心臓の音が答えるように、ぬくもりに包まれて。
その声は遠くへ遠くに響き渡ったのだった。

どれくらいたったのか、いつの間にか夕暮れでなく、夜になっていた。
その時にはシャルは落ち着いた。

「さぁ、シャル?落ち着いたか?」
「ああ、迷惑掛けたな」
「いや、いいよ、これも我の役目だ」

そう言って、再びいつもの悪い顔のスピカだった。
シャルはスピカを見て言う。

「しかし、スピカ・・・惚れたって、前世は男じゃなかったのかよ」
「え?我は前世も女だったぞ?」

衝撃の事実だった。いやあの凶悪な見た目で野太い声だったので、未だに信じられなかった。
そんなスピカはジト目で言う。

「何か、失礼な事考えているな?」
「い、いや・・・」
「まぁ、良い、あの姿だから間違えられても無理もない。まぁ今はこんなにも美少女になったのだからな!」
「それは自分で言う事なのか」

何故か自信満々に言うスピカであった。
本格的に暗くなってきたので、シャルの家に戻ることにした。
暗い道を二人で歩きながら話す。

「なぁ、スピカ」
「なんだい、シャル?」
「お前の力って、完全に引き継がれているのか?その魔王の力ってのは」

その話を聞いてスピカは詳しく説明する。

「あぁ、その事なのだが、我の力は完全じゃないぞ」
「そうか」
「あぁ、人間の器だとな、耐えられないんだな、これが」
「ちなみに前世と比べて今の力ってどのぐらいなんだ?」
「そうだなぁ、せいぜい10分1だな、この美少女の肉体と引き換えに大分弱体化したね!」

自分が弱くなったにも関わらず、自分の外見が良ければなんでも良いと感じだった。
余程、前の外見を気にしているようだった。

「そこまで外見をこだわるのか?」
「当たり前だろう?じゃないとシャルが振り向いてくれないだろう?」

そう言われて、改めてみれば同じ10歳にしては、雰囲気が大人っぽくて、スピカの綺麗な紅い髪に整った顔立ちは美少女と頷かせる。
たしかに同年代の男子に、攻められれば簡単に落ちるだろう。
だが、全てを思い出したシャルは精神年齢は上がっている。そのため、スピカはただの子供でしかなかったのだ。
ただ、元のシャルの人格が混ざってしまいスピカに、見惚れてしまうのは事実だった。
その事を考えると、何だか複雑に思うシャルだった。

久しぶりに家に戻ると、いつの間にか血でこびり付いていた部屋は、綺麗になっていた。

「あれ、何時の間に・・・」
「シャルがいない間に綺麗にしておいたわよ」

この魔王は見た目によらず、家庭的なようだ。
すると、何やら良い匂いがする。

「あぁ、そういやご飯も作ったんだった」
「え?スピカが作ったのか?」
「えぇ、そうだけど、食べるかい?」

そう言って、スピカが火をつけて料理を温め直す。
その火をつけるとぐつぐつと音を鳴らすと匂いがテーブルまで届く。
そして、スピカは火を止めて、お玉でお鍋の中にある料理をすくって、お皿の中に入れる。
スピカは二つのお皿を持って、テーブルに置いてシャルに差し出した。
シャルの前に出されたのは、ビーフシチューだった。

「いただきます」
「あ、あぁ、いただきます」

魔王の料理と思うとなんだか少し怖いと思ったのだが、しかし見た目は普通のビーフシチューで匂いも普通だった。
スピカの方を見ると、普通に食べていた。

「どうしたの?食べないの?」
「い、いや・・・」
「毒なんて入ってないわよー」

そう言って、スピカは食べ続けた。
シャルは意を決して、1週間ぶりに口の中に食べ物を入れた。

「美味しい・・・」
「ハハ、そう直接言われるとなんだか照れくさいものだな」

出されたビーフシチューは自然と口の中に次々と運び込まれた。
いつの間にか、お皿の中にあったビーフシチューはなくなっていた。

「スピカ、おかわり良いか?」
「あら、気に入ったの?」

お代わりを頼むと、スピカは嬉しそうに取りに行く。
そして、再びビーシチューが差し出される。
スピカは椅子に座り、シャルを見つめる。

「人間の身体が不便な代わりに、楽しい事が増えたわ。掃除に料理、娯楽とか、前世では我には必要なかったからな」
「なるほど・・・」

シャルは魔族の身体になれば何でもできる分、つまらなく感じていたのだろう。
それを少なからず8000年以上続けていたわけだ。
考えて見ると、なんだか拷問みたいで、嫌な感じがした。
魔王というだけで退治される、なんと不毛な事だ。
それで人間は普通に、楽しんでいるのだから、怒るのは無理もない。
まあ、人を殺すこと事態は間違えなんだけど。

「さて、シャルは今後どうするつもりなの?」
「あぁ、そうだな・・・俺は・・・」

シャルとスピカは今後のどうするかを二人で相談した。
お互いに何をしたいか、何を目的にして生きていくのか

そして翌朝。

「シャルー!起きなさい!!」

カンカンカン!!

鉄同士で叩く音が聞こえる、だけどその音は心地よい音になっていた。

「あぁ、今起きるよ」

昨日の倉庫に取り出した服を着る。
何時もの服と違って、黒コートに小さい鞄を背負う。
着替え終わって、下に降りるとそこには頬を膨らませたスピカが立っていた。

「遅いぞ、シャル」
「すまないな、スピカは準備は出来たか?」
「当たり前だろう?さぁ、行くわよ」

シャルとスピカは家から出た。
家から出れば村の景色が見えた。
もう誰もいない村の景色がただただ続いていた。

「さぁ、スピカ行こう」
「えぇ、行きましょう、シャル」

そうして、シャル達は村とは逆方向の道へ進んだ。
そして、シャルは振り向き言う。

「少しの間、留守にするよ、皆、母さん、そして・・・」

シャルは小さく息を吸って言う。

「エル、この世界を一緒に見ような」

そう、分厚い本を見つめながら呟く
遠くから、スピカの声が聞こえた。

「シャル!早くいかないと先に行くよ!」

そう言って、既に奥の方で手を振ってる"元"魔王がいた。

「ああ、今そっちに行くよ」

そう言って、二人のこの世界の景色を周る旅が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...