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第二章 学園の章
7ページ目 ヒストリア天武祭
しおりを挟むあれから3ヶ月、スピカと一緒に学校生活を過ごしていた時のある日の事だった。
サカイ先生が授業の終わりに、生徒を見渡して教壇に立つ。
そのまま、一枚の紙を取り出して、黒板に張った。
そこに書かれていたのが。
「ヒストリア天武祭?」
「シャルくんは知らないのかな?」
隣席のニーアが話しかける。
「ああ、此処に来るのは初めてだからな」
「んふふー、では、私が教えて上げましょう!」
そう言って、何処からともなく眼鏡を取り出す、ニーア。
若干、賢く見えるのが、またシュールに感じる。
「ヒストリア天武祭というのはですね。簡単に説明しますと、腕自慢大会みたいなものです!」
「腕自慢大会か・・・」
シャルは昔、レイルとまだ敵対していた時の事を思いだす。
その度に何処かで、互いに力を競い合った時のことが懐かしく感じる。
「(また、アイツと戦いたいな・・・)」
そう言って、隣のニーアを見る。
急に見つめられたのが、恥ずかしかったのかニーアは顔が赤くなる。
「ど、どうしたの?シャルくん?」
「あ、いや、昔の友人に似ててな」
「あはは!昔って、まだそんな年じゃないのに、シャルくんはたまにおじさんみたいなこと言うんだね」
「お、おじさん・・・」
ニーアの言葉が胸に突き刺さる。
その一言で一気に方が重くなる。
「(前世では20代後半まで、生きてたけど・・・おじさんじゃないよな?そうじゃないと、信じたい)」
すると、先生が黒板をノックするように叩き、皆を注目させる。
「というわけで、お前たちにとっては初めての天武祭だ。基本的には1対1の個人競技になる。優勝とか問わずにこの大会で実力を示すことが出来るなら、学校に通いながらになるが、冒険者になる資格を与えられることが出来る。他にも卒業後ならヒストリア精鋭騎士団の所属、王宮専属の近衛騎士団の推薦が可能だ。そして優勝者には、賞金100万ゼニーが送られる。」
生徒たちは一斉に歓声をあげる。賞金100万や騎士団の所属。どれも待遇がよさそうな言葉がズラズラと出てくる。
しかし、シャルはそんなのには興味がなく、冒険者の資格という言葉に反応する。
本来の自分の目的がこの大会にあったのだ。
「冒険者・・・」
「シャルくんは冒険者になりたいの?」
シャルの呟きに反応するニーアはすかさず聞いてくる。
「ああ、俺は冒険者になる為に来たんだ」
「へー!そうなんだね!じゃあ、尚更気合を入れないと駄目だね!この大会は各国の王様たちとギルドマスター、騎士団長が見に来るんだよ!だから、皆はこの時期には気合が入ってるんだよー」
「ほお・・・」
最近、クラスメイトの皆がピリピリしているのはそう言う事なのか、各国から王族やギルドマスターとか来るとなると、自分の良い所を見せたくなるのは当然な事だ。
「とりあえず、参加したい奴は俺の所まで来い、以上だ」
そう言って、いつも通りにサカイ先生はトボトボと歩いて出ていく。
クラスメイトたちも授業が終わったと言って、教室から出ていく。
ある程度、人がいなくなるとスピカはシャルに駆け寄ってくる。
「シャル!冒険者の資格のチャンスが!」
「ああ、そうだな」
そう言って、スピカは嬉しそうに話す。
若干、視線が痛いが、それよりもスピカの嬉しそうな姿につい自分も微笑んでしまう。
しかし、それは一瞬のことだった。
「っけ、冒険者がどこがいいんだか」
クラスメイトの一人が吐き捨てるように言う。
入学当初に先生に突っかかってきた、大柄な剣士の生徒だった。
たしか・・・
シャルは男の名前を思い出そうとして、考えた結果。
「ゴリラ・バナナダイスキさんでしたっけ・・・」
「ちげえよ!?ゴイラ・バナード・イスラだよ!?この野郎!!」
「ああ、そうだった、ごめんごめん」
ゴリラと名乗る男は、シャルを小馬鹿にしたかのように言う。
「騎士団の方が約束された未来と安定があるのに、それ比べて、冒険者は危険な事ばかりだし、何なら命を投げ捨てるもんだぜ、なぜわざわざ死にに行くのか俺には分からんな」
そういうと、隣にいたスピカはゴリラに今でも攻撃しそうにしていたが、目でやめるように合図を送る。
不満げだったが、この場一帯を吹き飛ぶ未来を避けることは出来た。
すると、ニーアが。
「ゴリラくん!そんなこと言っちゃだめだよ!」
「そうだよ、バナナダイスキ、別に俺が何になろうと勝手じゃないか」
「てめえら!俺を怒らせてるのか!?ゴイラだといってるだろうが!!」
ゴリラは顔が真っ赤になり、今でも殴りかかってきそうだ。
それを見た、スピカは後ろでうずくまって身体を震えていた。
どうやら、ニーアが天然なのか、そのおかげで機嫌は少し良くなったようだ。
「シャル!てめえ、馬鹿にしやがって!表に出やがれ!」
「そんな傲慢な・・・そもそも、ゴリラが最初に突っかかって来たじゃないか、俺が喧嘩を売ったわけでもないのに」
「だから、ゴリラじゃねぇっていってんだろ!?この野郎!!」
そう言って、ゴイラは背中に背負っていた剣を取り出し構える。
沸点がこうも低すぎると、誰かとパーティーを組むときに、悪影響を及ぼしかねない。
そう考えていると、叫びながら攻撃しようとした。
「大賢者様に好かれているからって、調子に乗るんじゃねえぞ!」
「結局、逆恨みかよ・・・」
そう言って、攻撃しようとした瞬間に、シャルと目が合う。
目が合った瞬間、正面ギリギリで攻撃が止まる。
一歩間違えれば、大惨事になりかねなかったが、シャルはそれが分かってたかのように涼しい顔をする。
「う、うごけない・・!?な・・ぜだ!!」
「シャルくん、何したの?」
動けないゴイラを見て、ニーアは何が起こったのか分からなかったようだ。
ゴイラは必死に動こうとしているが、それともビクともしなかった。
「ああ、ちょっとな」
「ちょっとってなんだよ!早く何とかしやがれ・・・!」
「ったく・・・本当にゴリタは傲慢だなあ」
「もっと名前の面影なくなってるじゃねえか!?」
シャルは攻撃が当たらない位置に動く。
そのままゴイラの視線を外すと、勢いよく空振って転がり、壁に激突する。
「シャル!てめぇ!何しやがった!」
「わかった、わかった!そんな興奮しないでくれ、ちゃんと説明するから剣を納めてくれないか?そんな状態で、剣を向けられても説明できないじゃないか」
「・・・わかった」
ゴイラは少し不満げな顔だったか、説明すると言えば剣を納めてくれた。
ニーアはその光景に少しホッとし、スピカは未だに「ゴリラが転がった・・・ククク」と良いなら隠れて笑っていた。スピカ・・・悪化させないでくれ・・・。
「んで、何したんだよ」
「神経を麻痺させた」
「は?どうやってだよ!」
「俺と目が合っただろ?あの時だよ。麻痺させるというよりも、無意識に恐怖を与えたといったほうが良いかな?」
これはシャルの架空技能の『蛇ノ眼≪アング・フルガ・オクル≫』。
前提条件として、シャルと目が合うのが必須だ。
相手の眼に向けて、微調整された殺意に魔力を乗せて放つことによって、眼の神経から殺意を通らせる。
その結果、神経は無意識に恐怖して硬直させ、相手の動きを止めることが出来る。
ただし、どちらかが目を逸らせば、その時点で効果は無くなる。
その事をゴイラに説明すると。
「なんだよ!そんなのシーフの技じゃねえぞ!」
と言う。
そりゃあ、本来は殺人鬼だし・・・とは言えない。
だから、適当に誤魔化すことにした。
「まあ、"昔"色々あったんだよ」
隣でスピカは頷く。
嘘は言ってない、前世で覚えた技を使っただけである。
「というわけだ。もういいだろう?それにそろそろやめにしないと、お前の命が危ないことになるぞ」
「あ?なんでだ?」
シャルは後ろに立っていた、スピカを指した。
すると、苛立っているのか、彼女の身体から赤い魔力が徐々に滲み出てきている。
それを見たのゴイラは流石にやばいと思ったのか、後退して教室から出ようとする。
「く、くそ!!この仕返しは天武祭で返してやるからな!覚えとけよ!」
そう言って、教室から逃げていく。
「まったく、自分から絡みに来たというのに、我が"ほんのちょっと"だけ魔力を出しただけでビビりおって、情けない男だな。シャルぐらいに骨があるやつに来てほしいものだ」
スピカは邪魔がいなくなったと確認すると腕を組んでくる。
若干、柔らかいものが当たっているが気づかない振りをしておく、なんせ何時もの事だからだ。
「スピカちゃんは本当にシャルくんの事が好きなんだねー」
「うむ、我とシャルは似たな者同士だからな!」
「似た者同士?どういうこと?」
とニーアが聞いてくる。
めんどくさくなりそうだから、違う話題して、気を逸らすことにした。
「しかし、天武祭か・・・」
「そうだ!シャルは出るのか!」
スピカは天武祭の言葉に食いついてくる。
そう、むしろ天武祭に参加しない理由とがない、これ以上にない近道だった。
机の中から一冊の本を取り出し見つめる。
「シャルくん、その本は何?」
「ああ・・・これは、友人から貰った日記帳だよ」
「へー!結構分厚いね、何に使うの?」
そう言って、興味津々に聞いてくるニーア。
その姿が、再びエルの面影を重なりわせてしまう。
シャルはつい微笑んでしまう。スピカはそんなシャルの姿を静かに見守っていた。
「本当に似てるな・・・」
「え?なにが?」
「いや、なんでもない。その友人との約束でこの日記帳に世界を旅して、その景色を書くことが目的なんだ」
「へえ!とても素敵だね。きっと、シャルくんが書いてくれたなら、喜んでくれるよ!」
ニーアの笑顔は純粋だった。
それは裏表も何もない、何も知らない、ただただ綺麗な笑顔だ。
何人のも人の顔を見てきたシャルにとっては、眩しすぎたのだ。
「ああ、そうだな、そうだといいな」
そう、ぼーっとしてると、スピカが割り込む。
「シャルは結局でるのか?天武祭とやらに」
「ああ、出るつもりだよ」
「そうか!そうだよな!うんうん!」
その話を聞いた、スピカは嬉しそうにする。
なにか、企んでいるのか?いや、元魔王だし、企むのが必然だろう。
「んで?何を企んでいるのか?」
「企むも何も、シャルが出るなら、我も出るに決まっているだろう」
「え!スピカちゃんも出るの!」
「当たり前じゃろ?シャルが冒険者になるんだから、我もなるに決まっておる!」
スピカは胸を張り、言い切る。
「それに本気のシャルと戦ってみたいのだ!」
「ああ、なるほどね」
彼女の本来の目的はそこにあったようだ。
思えば、今の姿の魔王と本気で戦ったことはなかった。
まあ、旅仲間だからでもあって、余程の修業バカか腕試しのやつしか戦わないだろう。
「そういや、シャルくんとスピカちゃんって、結局の所はどっちつよいの?」
「「スピカだ(シャルよ)」」
お互いの回答がすれ違う。
すると、スピカが反論する。
「何を言っておる!実力ならシャルの方が上でしょ!!」
「バカ言うな、大賢者に勝てるわけないだろ、そもそも合成魔法を使っている時点で規格外だよ」
「え、合成魔法も使えるんですか!?」
かくして、互いがどっちが強いかという話が、2時間も続いたが、結論はどっちもどっちで収まる。
「ったく・・・馬鹿にしやがって!」
ゴイラは寮に戻る道中、寄り道をして、川を眺めていた。
今日の出来事を思い出すだけで、腹が立ち、川に向けて石をぶん投げる。
「くそ・・・!冒険者が何が良いんだ!どうせどいつもこいつすぐに死ぬくせに・・・!」
ゴイラは懐から、一つの短剣を取り出す。
「なんで、死んじまうんだよ・・・父さんの馬鹿野郎・・・」
涙を拭き立ち上がる。
帰ろうとして、後ろを振り向くと、黒いローブを着た男が立っていた。
そんな異様な雰囲気をだしていたのか、ゴイラは背中に付けていた剣を抜こうとする。
ローブの男は逃げ出す事もなく、そのまま、話し続ける。
「やあ、そこの君、力が欲しくないかね?」
最初の一言がそれだった。
だが、ゴイラはそんなの無視して、何処かへ行こうとする。
あまりのも胡散臭かったから。
「君のお父さんみたいになりたいのかい?」
「・・・!?」
振り返ると黒ローブの男はいなかった。
前を見ると、いつの間にかそこに立っていた。
「い、何時の間に・・・!」
「君はお父さんみたいになりたいのかい?」
「う、うるせえ!お前には関係ないだろ!」
剣を抜き、そのまま素早く斬ろうとする。
しかし、その剣撃は片手で止められる。
「やだな、力を貸そうって言ってるだけじゃないか」
「っぐ・・・なんだこの化け物は!」
そして、剣を掴んだ手から、”闇”が出てくる。
その闇は次第にゴイラを握るように取り込んでいく
「くそ!なんだこれは!」
「さあ、ちょっとした、プレゼントだよ」
ゴイラは抗えない力で意識が途絶えた。
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