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マルクスとビターチョコレート
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初めて千夏と会ったのは、経済学のゼミだった。長い黒髪と透明感のある笑顔が印象的な彼女は、同じ学部の女子大生で、まるで美少女そのものだった。
「ねえ、マルクスの『資本論』って、クッキーみたいだと思わない?」
初対面でそんなことを言い出した彼女に、僕は目を丸くした。
「クッキー? どういう意味?」
「だってさ、表面は硬くて難しそうだけど、噛んでみると意外と甘い部分もあるじゃん。労働価値説とか、最初は頭痛いけど、慣れると面白いよ」
千夏はそう言って、鞄から手作りのクッキーを取り出した。少し不揃いで素朴な見た目だったけど、「食べてみて」と笑う彼女につられて、僕もつい手を伸ばした。一口かじると、バターの香りとほのかな甘さが広がった。確かに、硬い理論書とは全然違う味だった。
「次はビターチョコ入れるつもりなんだ」
彼女がそう言った瞬間、なぜか胸がドキッとした。
それから、僕と千夏はゼミの後に図書館で一緒に勉強するようになった。マルクスの分厚い本を挟んで、彼女はクッキーを差し入れながら「搾取ってさ、恋愛にもあるよね」と笑う。
「どういうこと?」
「例えば、私がクッキーあげて、見返りにちょっと優しくしてもらおうとするみたいな?」
「それなら僕、搾取されてる側でいいよ」
冗談っぽく返したら、千夏は目を細めて「じゃあ、次はビターチョコのやつね」と約束した。
ある晩、ゼミの発表が終わって疲れ果てた僕を、千夏が「ちょっと付き合って」と大学の裏庭に連れ出した。小さなベンチに腰を下ろすと、彼女は鞄からビターチョコレートのクッキーを取り出した。
「はい、約束のやつ」
一口食べると、甘さの後にほろ苦さが広がった。マルクスの理論みたいに、最初は取っつきにくいけど、奥深い。
「どう?」
「…苦いけど、嫌いじゃない」
「ふふ、それって私みたい?」
千夏はいたずらっぽく笑ったけど、その目は少し真剣だった。僕の胸が熱くなって、思わず言っていた。
「千夏のこと、嫌いになれるわけないだろ」
彼女は一瞬驚いた顔をして、それから頬を赤く染めた。
「真二君ってさ、搾取する側になっちゃうタイプかもね」
「え?」
「だって、私の心、盗んでくんだもん」
その夜から、僕らの距離は一気に縮まった。大学の講義が終わると、千夏は僕の手を握って「ねえ、どっか行こうよ」と笑う。
僕らはキャンパスの裏にある小さなカフェに通うようになった。彼女が注文するチョコレートケーキを、フォークを差し出しながら「一口あげる」と言うたび、僕の心臓は跳ねた。
「真二君ってさ、甘いもの苦手そうに見えて、意外と食べるよね」
「千夏がくれるからだよ」
そう返すと、彼女は立ち上がって僕の隣に移動してきた。そして、目を細めて僕の肩にそっと頭を預けてきた。その温もりに、僕は思わず彼女の手を握り返した。指が絡まる感触がたまらなくて、彼女の髪から漂うシャンプーの香りに頭がクラクラした。
ある雨の日、図書館でマルクスの本を読みながら、千夏が突然僕の膝に手を置いた。
「ねえ、真二君。私ってさ、マルクスより大事?」
その声が甘すぎて、僕は本を閉じて彼女を見つめた。
「比べものにならないよ。千夏の方がずっと大事」
彼女は満足そうに笑って、僕の頬に軽くキスしてきた。冷たい雨の音が窓の外で響く中、彼女の唇の柔らかさと温かさが僕の全身に染み渡った。
「真二君って、ほんとズルいよね。私、こんな気持ち初めてなんだから」
「僕だって同じだよ。千夏に会ってから、頭の中が千夏でいっぱいなんだ」
彼女は目を潤ませて、僕の胸に顔を埋めてきた。僕はその細い肩を抱き寄せて、そっと髪を撫でた。彼女の鼓動が伝わってくるたび、僕の心も同じリズムで高鳴った。
僕らの間にはマルクスもビターチョコレートもあって、甘くて少し苦い恋が深まっていった。千夏が隣にいるだけで、どんな難しい理論だって乗り越えられる気がした。そして、彼女の笑顔を見ていると、僕の毎日は甘いだけじゃない、濃密な愛で溢れていた。
「ねえ、マルクスの『資本論』って、クッキーみたいだと思わない?」
初対面でそんなことを言い出した彼女に、僕は目を丸くした。
「クッキー? どういう意味?」
「だってさ、表面は硬くて難しそうだけど、噛んでみると意外と甘い部分もあるじゃん。労働価値説とか、最初は頭痛いけど、慣れると面白いよ」
千夏はそう言って、鞄から手作りのクッキーを取り出した。少し不揃いで素朴な見た目だったけど、「食べてみて」と笑う彼女につられて、僕もつい手を伸ばした。一口かじると、バターの香りとほのかな甘さが広がった。確かに、硬い理論書とは全然違う味だった。
「次はビターチョコ入れるつもりなんだ」
彼女がそう言った瞬間、なぜか胸がドキッとした。
それから、僕と千夏はゼミの後に図書館で一緒に勉強するようになった。マルクスの分厚い本を挟んで、彼女はクッキーを差し入れながら「搾取ってさ、恋愛にもあるよね」と笑う。
「どういうこと?」
「例えば、私がクッキーあげて、見返りにちょっと優しくしてもらおうとするみたいな?」
「それなら僕、搾取されてる側でいいよ」
冗談っぽく返したら、千夏は目を細めて「じゃあ、次はビターチョコのやつね」と約束した。
ある晩、ゼミの発表が終わって疲れ果てた僕を、千夏が「ちょっと付き合って」と大学の裏庭に連れ出した。小さなベンチに腰を下ろすと、彼女は鞄からビターチョコレートのクッキーを取り出した。
「はい、約束のやつ」
一口食べると、甘さの後にほろ苦さが広がった。マルクスの理論みたいに、最初は取っつきにくいけど、奥深い。
「どう?」
「…苦いけど、嫌いじゃない」
「ふふ、それって私みたい?」
千夏はいたずらっぽく笑ったけど、その目は少し真剣だった。僕の胸が熱くなって、思わず言っていた。
「千夏のこと、嫌いになれるわけないだろ」
彼女は一瞬驚いた顔をして、それから頬を赤く染めた。
「真二君ってさ、搾取する側になっちゃうタイプかもね」
「え?」
「だって、私の心、盗んでくんだもん」
その夜から、僕らの距離は一気に縮まった。大学の講義が終わると、千夏は僕の手を握って「ねえ、どっか行こうよ」と笑う。
僕らはキャンパスの裏にある小さなカフェに通うようになった。彼女が注文するチョコレートケーキを、フォークを差し出しながら「一口あげる」と言うたび、僕の心臓は跳ねた。
「真二君ってさ、甘いもの苦手そうに見えて、意外と食べるよね」
「千夏がくれるからだよ」
そう返すと、彼女は立ち上がって僕の隣に移動してきた。そして、目を細めて僕の肩にそっと頭を預けてきた。その温もりに、僕は思わず彼女の手を握り返した。指が絡まる感触がたまらなくて、彼女の髪から漂うシャンプーの香りに頭がクラクラした。
ある雨の日、図書館でマルクスの本を読みながら、千夏が突然僕の膝に手を置いた。
「ねえ、真二君。私ってさ、マルクスより大事?」
その声が甘すぎて、僕は本を閉じて彼女を見つめた。
「比べものにならないよ。千夏の方がずっと大事」
彼女は満足そうに笑って、僕の頬に軽くキスしてきた。冷たい雨の音が窓の外で響く中、彼女の唇の柔らかさと温かさが僕の全身に染み渡った。
「真二君って、ほんとズルいよね。私、こんな気持ち初めてなんだから」
「僕だって同じだよ。千夏に会ってから、頭の中が千夏でいっぱいなんだ」
彼女は目を潤ませて、僕の胸に顔を埋めてきた。僕はその細い肩を抱き寄せて、そっと髪を撫でた。彼女の鼓動が伝わってくるたび、僕の心も同じリズムで高鳴った。
僕らの間にはマルクスもビターチョコレートもあって、甘くて少し苦い恋が深まっていった。千夏が隣にいるだけで、どんな難しい理論だって乗り越えられる気がした。そして、彼女の笑顔を見ていると、僕の毎日は甘いだけじゃない、濃密な愛で溢れていた。
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