転移先がかご中の飼われインコ⁉。中味は人間、どうすんの⁉

ぽんたしろお

文字の大きさ
6 / 16
第6章

私がインコになる前の話

しおりを挟む
 半額になったクリスマスケーキを見つけてつい買ってしまった。これから夜行バスに乗るのに、明日までバスの中で腐らないかな? ショーウインドウに目を向けると、ケーキをぶら下げショルダーバックを背負った自分の姿が映っていた。あまりにもかっこ悪くてがっくりしてしまう。
 一人暮しにもうちょっと憧れがあったけれど、現実とのギャップはやっぱり大きかったよ。田舎から都会に出てきて、隙を見せないように失敗しないようにボロが出ないように……って気を付けて生きてきた。
 でもいつから歯車が狂ったのだろう? 気が付く余裕なんてなかったもの、私は一生懸命生きてきただけなのに。

 いっしょにクリスマスを過ごすはずだった彼氏は、クリスマスイブイブに他の子が好きになったからと私に別れ話を一方的に言って去っていった。クリスマスイブを新しい彼女と過ごすギリギリのタイミングで!
 別れ際の言葉が浮気をして別れ話をした立場とは思えないものだった。身勝手すぎるよ!
「涼子といても、楽しくなかった」
 つまんない人間で悪かったわね!最初に好きだと言ってきたのは、あんたの方だったのよ?
「私もちっとも楽しくなかったわよ!」
 脊髄反射で言ってしまった。
 ほんとは楽しかったのに。別れたくなんかなかったのに。泣いて捨てないで!とすがりつきたい本心は、口が避けても言えなかった。
「涼子なら、そう言うと思ってたよ」
 彼の捨て台詞に心が凍り付いた。彼の思う私ってどんな人間だったのだろう?

 彼氏から捨てられた翌日、つまりクリスマスイブに失恋の傷をかかえながらも出勤したアルバイト先で、店長から
「山瀬さん、もうちょっと優しく新人に教えてやってよ。みんな、あなたのこと怖いって言っているんだ……」
 追い討ちとしか思えない。楽しくない人間の次は、怖い人間だとよ。
 あっちからもこっちからも、否定される言葉かけられたら、哀しさを通りすぎて笑うしかない、あははははは!
ここまで否定されなきゃいけないほど、私はひどい人間なのか?
「優しく、と言われても……。駄目なものは駄目って言っただけですよ? 納得いきません。新人への指導を私に任せたのは店長ですよね? 店長が私に指導を任せた責任は感じない、とでも?」
 正直、自暴自棄になっていた。短絡的で思ったことを言う前に一服おいて言葉にする余裕を失っていた。
 確かに店長に意見した私の言葉は感情的だったが、私は見通しを誤っていた。人手不足に加えこの年末の忙しい時期だ、これぐらいの失言は見過ごしてもらえると高をくくっていたのだ。私は最高の脅し文句を店長に言い放ってしまった。
「だったら辞めましょうか?」
 と。私が甘かった。店長は待ってましたとばかりに
「納得いかないなら、辞めていただいてかまいません」
 と言いやがったのだ。これから猫の手も借りたい年末繁忙期って時期なのに、だよ? それでも辞めさせたかったってこと? 渡りに船だったってこと? 私のかわりなんかいくらでもいる存在だってこと? 私がいるより人手不足になった方がマシだということ?
 私はその場でアルバイトを辞めた。

 立て続けだった。自分に関わる全ての人間が私をよってたかって否定してきたら、どうしていいかわからなくなった。
 私の何が悪くてこうなったのだろう? 
「一旦実家に帰ろうかな?」
 そうだ 家に帰ろう。深夜バスに乗って。家族団欒や、故郷の友達が急になつかしくなった。

 手荷物をまとめて 街に出て来た。
「そっか、今日クリスマス・イブなのか」
 深夜バスの発車まで時間、街の中をぶらついた。クリスマス用に飾りつけたイルミネーションが光輝く街の中、たった一人で歩き回る自分が寂しかった。こんなかっこ悪い姿で故郷に帰るんだ、と思うとますますみじめな気持ちになっていった。バスに乗るのやめようかな? そんな気持ちが頭をもたげそうになってくるのを振り払うのに必死だった。

「あ、ペットショップだ、なつかしいなぁ」
 以前、インコを飼っていた時、餌を買いによく来ていたお店だった。実家から上京する時、二羽のセキセイインコのカップルを連れてきたから。
「もう年とってるから 家に置いていけば?」
 と母は言ったけど、どうしても置いいく気になれなくて連れてきたのだ。あいつらだけは、どんな私でもクリクリした目で見つめて受け入れてくれた。
 毎日、部屋で二羽で仲良く留守番をして、私が学校やバイトから帰宅すると大喜びで飛び回っていた。そのセキセイは今回はいっしょに帰ることはない。
 上京して一年後、あいつらは続けざまに静かに私のところから旅立って逝ったから。十年のつきあいだった。

 気持ちを紛らわせるにはもってこいの場所である。私はペットショップに入って行った。犬や猫にはほとんど目もくれず、鳥のコーナーを目掛けてスタスタ歩く。インコのヒナは、今日は売り場にはいなかった。
インコの雛はかわいいから見たかったので、ちょっと残念だったけれど、なつかい気持ちでゆっくり売り場を見て回る。
 看板インコのモモイロインコの桃ちゃんも相変わらず元気そうだ。
「いや~、久ぶりだねぇ」
 桃ちゃんのかごの前の非売品と書いたプライスカードだけは、最近変えたらしくやけに白くて綺麗だった。

 セキセイの雛はいなかったが、青い色の若いセキセイが、かごに一羽ポツンといるのに目がいった。雛成分が抜けた売れ残りである。
「おまえも、クリスマスなのに寂しそうだねぇ」
 とついつい自分と重ねて見てしまう。
 が。このセキセイ
「別に寂しくないけど?何勘違いしているの?」
 とでも言いたげに、話しかけた私に対し、頭を脚でカキカキして、猛烈にフケを飛び散らせやがった。あたりの空気がもうもうと煙くなる。むぅ、非常にセキセイらしい強気の性格のようである。そうそう セキセイはこうでなくっちゃ!
「いいなぁ 私もいんこになってしまいたいよ…」
 ピタッと頭かきを止めてセキセイがまじまじ私を凝視したような気がした。気がしたんだけど……そこから記憶が砂嵐になってしまったんだわ。

 ……で。今、インコになった私が飼われインコとして、住所は知らないが「ここ」にいるわけで。
 ショップで眺めていたのが青いセキセイインコで、今の私がやっぱり青いセキセイインコである――ってこと考えれば、事のなりゆきは、だいたい想像できる。
 今、私の意識がインコの中にいるってことは、バスに乗りそこねた私の人間のからだはどうなったのか? とか、帰るからねと連絡した家族が心配しているのではなかろうか? とか半額のクリスマスケーキは腐ってしまったのか? とかそれならいっそ、歩きながら食べてしまえば良かったとか、そういう諸々の重大な疑問からくだらない後悔まで、ないわけではなかったけれど。
 今やインコになってしまった私には、わずらわしい人間だった頃の問題を解決する術なんてないんだからしょうがないと開き直るしかない。
 投げやりと指摘されそうだが、これが本音である。人間としての存在を否定されたのだから、何日たってもインコのままな状況から、元に戻りたいと思うほど、私は強くない。
 今はインコとして対処するのが精いっぱいなのだ。
 ただひとつ。青いセキセイの意識はどこにいるのだろう? とそれだけは気がかりであった。



(つづく)

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...