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4 氷の世代~夢~
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「高橋さん、明日作業後、時間をください。今後についてお話しがあります」
渡辺支社長が声をかけてきたとき、俺はきたなと思った。
翌日、相変わらずミスを連発する佐々木さんに山崎さんは罵声を浴びせかけて本日の作業が終了した。
会議室には、山崎さんと俺、渡辺支社長と佐々木さんの四人が集まった。
渡辺支社長が口を開く。
「佐々木さんとの今後について、相談したいと思います」
きたっ! 怒鳴るのをずっと我慢して、全て山崎さんに押し付けてきた。今こそ、想いをぶちまける機会だ。
「佐々木さんとは、仕事をする自信がありません! 山崎さんの雇用継続は無理なんですか?」
「高橋……」
山崎さんがまんざらでもない顔でつぶやき、佐々木さんはうなだれた。当然だ、仕事の足を引っ張る佐々木さんに業務など任せられないというのは、俺の本音だった。
「それは無理です」
しかし、渡辺支社長が俺の言葉を即座に否定した。
「佐々木さんとやってもらうことは決定事項です」
佐々木さんは、さらにうなだれた。佐々木さん本人が限界きているんじゃないか? なぜ佐々木さんに会社はこだわるのだろうか?
「僕は、辞めるべきだと思いま……、僕はもらっている賃金の働きをしていない。アルバイトの山崎さんや高橋さんに全く追いついていない……」
小さな声で文末がはっきりしない。こんな奴、足手まといでしかないのに、なぜ会社はこだわるのか、俺にはわからなかった。
とはいえ、渡辺支社長に否定されて俺の出る幕ではないのはわかる。これ以上、口出しをできないのがアルバイトの身分なのだ。
「ニ、三週間、様子を見てもらいたい、山崎さんには申し訳ないがあと数週間勤務を延長してもらいたい」
佐々木さんの希望を無視して渡辺支社長が、俺と山崎さんに向かって頭を下げた。
空気を読むのがうまい山崎さんは、
「支社長に言われたら仕方ないですね、温泉にいく予定たてていたんですがね」
みえみえの嘘を山崎さんは言い放った。雇い止めは変わらないが契約期間を延長する、それを山崎さんはあっという間に受け入れた。
納得できないもやもやを抱え、辞めたいとまでいう佐々木さんをなぜ引き止めるのか? 俺には理解できないままだった。
給料日。またミスをした佐々木さんについに堪忍袋の緒が切れた。俺は佐々木さんに自分の給料明細を叩きつけた。
「たったこれっぽっちで! 何の保証もなく働いている俺の気持ち、わかりますか!」
佐々木さんは驚いた様子で、俺の顔を正視した。やがて俺から視線を外した佐々木さんが思いがけないことを呟いた。
「一定期間働けば、正社員になれる道があるはずです」
「えっ?」
「本社では正社員に移行した人、見てきました」
初耳だった。そんな制度があることを、支社の社員も山崎さんも一切、教えてくれたことはなかった。
「いや、僕も正確なこと、知らないんですけど……」
この年齢で正社員になる道があるのか? 俺は一瞬声を失う。俺のむくわれなかった人生に一抹の希望を持つ可能性を、この男から聞くとは思わなかった。
「失礼します」
佐々木さんは小さく言うと退社の準備を始めた。
「高橋さん」
佐々木さんの背中をぼうっと見送っていると、声をかけられた。この支社で佐々木さんの設計したとかいう製品のケアを担当している中途入社の林君だ。
「佐々木さん、多分、この会社に飼い殺しにされるんだと思いますよ」
「飼い殺し?」
「佐々木さんが設計外れてから新しい設計、誰もやっていないんですよ。ライバル会社も同様です」
「というと?」
「佐々木さんの設計をベースに他社も製品作っているだけだから。この製品は大きな市場にならないですしね。でも他社が、会社辞めた佐々木さんを利用して動き出したら話は違ってくる」
「秘密保持契約あるんでしょ」
「そんなもんどうとでもなるんじゃないですか?」
林君は鼻をならした。
「この会社は佐々木さんごと、この分野の製品を世の中から消し去るつもりなんですよ。ライバルにも当然美味しい思いをさせる気はない。そんな製品の担当にされた僕も、先が見えているってことですかね」
絶望的な話をお気楽そうに言って林君は口にする。転職を考えているのかもしれない。そういう世代だ。
「佐々木さんは、それを知っているの?」
「当然わかっていると思いますよ。でも佐々木さんはこの会社に夢を捨てきれてないんじゃないんですかね? 甘いんですよ、佐々木さんは」
林君は最後に佐々木をばっさり切り捨てる言葉を軽く吐いて、俺から離れて行った。
佐々木さんは叶わない夢を追っているバカなのだろうか?
「まぁ、俺には関係ない話だ」
俺は、佐々木さんの言う正社員の道を探っていくだけだ。佐々木さんのいう道がもし本当にあるのなら、俺は現実を手繰り寄せるのみだ。
「人はいつか死ぬのだから今は生きる」
正社員の道が細くても見えているなら、そのささやかな夢を持って生きていくだけだ、俺は帰宅の途についた。
(おわり)
渡辺支社長が声をかけてきたとき、俺はきたなと思った。
翌日、相変わらずミスを連発する佐々木さんに山崎さんは罵声を浴びせかけて本日の作業が終了した。
会議室には、山崎さんと俺、渡辺支社長と佐々木さんの四人が集まった。
渡辺支社長が口を開く。
「佐々木さんとの今後について、相談したいと思います」
きたっ! 怒鳴るのをずっと我慢して、全て山崎さんに押し付けてきた。今こそ、想いをぶちまける機会だ。
「佐々木さんとは、仕事をする自信がありません! 山崎さんの雇用継続は無理なんですか?」
「高橋……」
山崎さんがまんざらでもない顔でつぶやき、佐々木さんはうなだれた。当然だ、仕事の足を引っ張る佐々木さんに業務など任せられないというのは、俺の本音だった。
「それは無理です」
しかし、渡辺支社長が俺の言葉を即座に否定した。
「佐々木さんとやってもらうことは決定事項です」
佐々木さんは、さらにうなだれた。佐々木さん本人が限界きているんじゃないか? なぜ佐々木さんに会社はこだわるのだろうか?
「僕は、辞めるべきだと思いま……、僕はもらっている賃金の働きをしていない。アルバイトの山崎さんや高橋さんに全く追いついていない……」
小さな声で文末がはっきりしない。こんな奴、足手まといでしかないのに、なぜ会社はこだわるのか、俺にはわからなかった。
とはいえ、渡辺支社長に否定されて俺の出る幕ではないのはわかる。これ以上、口出しをできないのがアルバイトの身分なのだ。
「ニ、三週間、様子を見てもらいたい、山崎さんには申し訳ないがあと数週間勤務を延長してもらいたい」
佐々木さんの希望を無視して渡辺支社長が、俺と山崎さんに向かって頭を下げた。
空気を読むのがうまい山崎さんは、
「支社長に言われたら仕方ないですね、温泉にいく予定たてていたんですがね」
みえみえの嘘を山崎さんは言い放った。雇い止めは変わらないが契約期間を延長する、それを山崎さんはあっという間に受け入れた。
納得できないもやもやを抱え、辞めたいとまでいう佐々木さんをなぜ引き止めるのか? 俺には理解できないままだった。
給料日。またミスをした佐々木さんについに堪忍袋の緒が切れた。俺は佐々木さんに自分の給料明細を叩きつけた。
「たったこれっぽっちで! 何の保証もなく働いている俺の気持ち、わかりますか!」
佐々木さんは驚いた様子で、俺の顔を正視した。やがて俺から視線を外した佐々木さんが思いがけないことを呟いた。
「一定期間働けば、正社員になれる道があるはずです」
「えっ?」
「本社では正社員に移行した人、見てきました」
初耳だった。そんな制度があることを、支社の社員も山崎さんも一切、教えてくれたことはなかった。
「いや、僕も正確なこと、知らないんですけど……」
この年齢で正社員になる道があるのか? 俺は一瞬声を失う。俺のむくわれなかった人生に一抹の希望を持つ可能性を、この男から聞くとは思わなかった。
「失礼します」
佐々木さんは小さく言うと退社の準備を始めた。
「高橋さん」
佐々木さんの背中をぼうっと見送っていると、声をかけられた。この支社で佐々木さんの設計したとかいう製品のケアを担当している中途入社の林君だ。
「佐々木さん、多分、この会社に飼い殺しにされるんだと思いますよ」
「飼い殺し?」
「佐々木さんが設計外れてから新しい設計、誰もやっていないんですよ。ライバル会社も同様です」
「というと?」
「佐々木さんの設計をベースに他社も製品作っているだけだから。この製品は大きな市場にならないですしね。でも他社が、会社辞めた佐々木さんを利用して動き出したら話は違ってくる」
「秘密保持契約あるんでしょ」
「そんなもんどうとでもなるんじゃないですか?」
林君は鼻をならした。
「この会社は佐々木さんごと、この分野の製品を世の中から消し去るつもりなんですよ。ライバルにも当然美味しい思いをさせる気はない。そんな製品の担当にされた僕も、先が見えているってことですかね」
絶望的な話をお気楽そうに言って林君は口にする。転職を考えているのかもしれない。そういう世代だ。
「佐々木さんは、それを知っているの?」
「当然わかっていると思いますよ。でも佐々木さんはこの会社に夢を捨てきれてないんじゃないんですかね? 甘いんですよ、佐々木さんは」
林君は最後に佐々木をばっさり切り捨てる言葉を軽く吐いて、俺から離れて行った。
佐々木さんは叶わない夢を追っているバカなのだろうか?
「まぁ、俺には関係ない話だ」
俺は、佐々木さんの言う正社員の道を探っていくだけだ。佐々木さんのいう道がもし本当にあるのなら、俺は現実を手繰り寄せるのみだ。
「人はいつか死ぬのだから今は生きる」
正社員の道が細くても見えているなら、そのささやかな夢を持って生きていくだけだ、俺は帰宅の途についた。
(おわり)
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