【R15】汚気に堕ちていく

ぽんたしろお

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後編

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 収監部屋に入って三百夜を越え、和馬を見た魔莉音は叫んだ。
「陽菜は黙って! 私は和馬と話したい」
 再び、和馬が魔莉音に顔を向けた。好意のかけらもない視線だった。
「君の魔力に騙されていたんだな」
 和馬の声は魔莉音の気持ちを凍らせるに十分だった。
「魔力を使うのは卑怯だ!」
「卑怯って……。だって、私は魔女だから! 卑怯って言われても、魔女だったんだから!」
  
 魔法使いも人間も、区別なく共同生活を送っている。たまたま、和馬と同じ高校に入学し、魔莉音は和馬を意識し始めた、それだけのことだった。魔女であることは和馬も承知していたことだ。
 振り向いて欲しい、そう願うと同時に無自覚に魔力を行使していた。魔莉音に魔力をコントロールする能力はない、それを卑怯だと言われても。好きになることが卑怯だと言われても!

 「僕には陽菜だけだ、今も昔もこれからも」
 和馬が絞り出すように言うと、陽菜が和馬の握りこぶしをそっと両手で包んだ。魔莉音に見えるように。
「私を捨てる、と?」
 すでに、魔莉音は湧き上がる怒りを抑えようとはしなかった。身体の中に残っていた魔力が覚醒していく。
「あなたといっしょになるために、魔力を削ぐ苦しみを選んだ。その結果がこれなの?」
 魔莉音の目からボロリと黒い涙が一粒、こぼれて落ちた。

 「ここから消えて!」
 叫ぶと同時に、魔莉音の魔力の残り火が再発現した。その力は「魔力」ではなく変質した影の力シャドウインフルエンスであった。
 影の力を発動した魔莉音は、和馬と陽菜を目の前からかき消した。

 涙とともにグズグズと魔莉音の右半分が実体を失いつつあった。
「壊れていく……、どうでもいい」
 崩壊する魔莉音は、気が遠のく中で抱きかかえられる感覚に残っている左目を向けた。
「汚気《おぎ》、どこへ?」
「堕ちてくるのを待っていたぞ、魔莉音……」
 
 
 陽菜が気が付いて上半身を起こした。和馬の部屋だ。陽菜の横に和馬が倒れている。
咄嗟に和馬の口元に耳を寄せ、息があるのを確認する。
「和馬……」
 陽菜は意識のない和馬の唇に己のそれをそっと合わせた。ぼんやりしていた記憶が戻ってくる。
 魔莉音の怒りが暴発して、収監部屋から二人はふき飛ばされたのだ。
 
 魔莉音が和馬を奪い返しにこないだろうか? 魔莉音は力を取り戻した。このまま黙って引き下がる、とは思えない。
「でも、あたしと和馬を二度と引き裂く真似は、許さない」
 陽菜が、ギリリと歯をくいしばった。

 和馬が気が付いた。魔力に支配された感情から脱出したことがわかった。
「悪夢から脱出した、のかな?」
 上体を起こした和馬が陽菜を抱きよせた。
「すまなかった……」
 言いながら和馬は陽菜の唇を塞いだ。和馬のキスを受け入れながら陽菜は思う。結局、魔莉音は魔力に頼ってるだけの女なのだ。


 汚気は、影の支配する空間領域の中に魔莉音を抱いた状態で降り立った。魔莉音の右半分が実体を失いつつあって、グズグズと揺れている。
 汚気は、左手で魔莉音の頭を撫でながら宣言した。
「パーティーを始めよう」
 汚気の左手には底なしの黒い穴が開いている。魔莉音の頭を撫でていた、その左手を魔莉音の右目があった部分にかざした。
 魔莉音の右目の穴から、黒い醜気が汚気の左手にズルズルと吸い取られていく。
「美味い……」
 汚気が感嘆する。

 愛を信じて裏切られた、その気持ちが純粋であればあるほど、堕ちた憎悪という感情は影の力シャドウインフルエンスとなり、汚気の極上の栄養になる。
 魔莉音から生まれる醜い感情を、汚気はずっとずっと待っていた。魔莉音が透明だった頃から、ずっと待っていたのだ。

 汚気に醜悪な感情を啜り取られて、魔莉音は気持ちが軽くなった。
「感謝すべき?」
 魔莉音が汚気にとがめるような口ぶりで尋ねた。汚気がゲタゲタと笑い出した。
「何を言ってるんだ。感謝するのは俺だろうよ。また極上の憎悪を食わせてくれよ」
 あの二人を憎めば憎むほど、汚気が喜ぶのだという、その言葉に魔莉音は小さく眉をしかめた。もしかして汚気は回りくどく魔莉音を慰めてるのではないか? しかし、疑問が頭をかすめた瞬間、汚気が声をかぶせてきた。
「お前が憎み、俺が食らう。ギブアンドテイク、それだけだ」
 
 グズグズと揺れる右半身を揺らしながら、魔莉音は魔女にも戻れず、人間にもなれない状態になったことを自覚した。
 和馬と陽菜に対する憎悪を募らせては影の力シャドウインフルエンスを汚気に啜られる――汚気に抱かれながら、魔莉音は堕ちていく感情に身を任せることにした。
「パーティのご馳走は、すぐに用意できると思うわ」


(おわり)

 
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