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君とともに歩む未来(ヤマト編)

22話 世界を救おう

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 ヤマトは熟睡していた。ともに寝ていたベッドから静かにアデルは滑り出す。
一昨日の事故から、ヤマトを振りまわしているという自覚がアデルにはあった。
「ごめんね」
 アデルは静かにベッドルームのドアを閉じた。

 リビングルームで栄養食を飲み込むとアデルは独り言を洩らした。
「まず、自分の後始末」
 前日、やり残したレポートを全力で仕上げる。実習の課題を放り投げては次に進めない。反省すべきは反省し、今後の対策案を出した。
 自分は駄目だと言っているだけでは、結局何も解決しない。
 手順どおり行わないと電流が流れない部品を作業開始前に設置することを今後の対策とする旨でレポートを〆た。

 ふう。一息つくとアデルは言葉に出す。
「さて、世界を動かせるか?」
 現在の人口、世代別人口と今後の人口予測、分散型居住区の今後について、密集型コロニーの現状と今後の建設予定……。
 ヒントがどこかにあるはずだ、とアデルは頭を抱えて考える。
 データをネットで漁っていると、
「手伝いますよ」
 アデルが顔をあげると、仮想空間にパマがいた。
「パマ!」
「データの収集なら私の方が早い」
 パマは続けて言った。
「何のデータが必要で、それをいかに分析することこそが、人の役割ではないですか?」
 パマに同意しながら、アデルはその考えとやらを模索する。パマはアデルの思考を静かに見守っているとアデルは感じた。
 そういえば、「食いっぱぐれないから」と専門選択の理由を言って、えらくパマに怒られたっけな、とアデルは思い出す。

 「今、食いっぱぐれるほど人の余裕はありません!」
 パマの言葉だ。食いっぱぐれるほど人の余裕はないけど? ん? その食料ってどこで作ってるんだっけ?
途端にパマからデータがアデルに流入してくる。
「パマはやっぱり凄いよ」
 アデルはつぶやき、手掛かりになるデータを探し始める。
「パマ、食料生産の出荷元は?」
「生産依存比率」
「生産量推移」
「生産効率」
「故障比率」
 アデルの考察による指示でパマがデータを即時に出してくる。夢中になってアデルはデータを紐解いていった。
「これって、誰も気が付いていないの?」
 アデルの問いにパマが答える。
「データをこの視点から分析して読み解いた跡は、どこにもないですね」
「まずいじゃん……世界、まずいじゃん!」

 「寝坊した!」
 ヤマトがリビングルームに転がり出てきた。
「あれ、起きていたの? おはようというか、起こして欲しかった。作業がまた遅れる!」
 バタバタと準備を始めるヤマトにアデルが言う。
「今日、作業中止にして欲しい」
「え、いやいや、これ以上は」
 アデルが真剣な顔をヤマトに向けた。
「世界を救おう」
 二人の間に空気の流れが止まった。

 「今、なんて言った?」
 ヤマトが思考停止の後、ようやく聞き返した。アデルは大真面目な顔を崩さず繰り返した。
「世界を救おう、ともに!」
 え、僕も仲間なの? とヤマトの顔が引きつった。アバターを壊してから、ニーナと接触した上、僕とセックスして相当疲れているのだろうか? ヤマトはアデルの顔色をまじまじ探る。
 紅潮している、熱でもあるのかもしれない、やはり休ませなくちゃダメだ、とヤマトがアデルの腕を掴んだ。
「君は、自覚ないけど疲れて思考がぶっ壊れているようだ。休もう、な?」
「アデルの体調は正常範囲です」
 仮想空間から降ってきたその声をヤマトは初めてきいた。
「アデル担当のパマです、初めまして。アデルの腕を離してあげてください」
「え? は、はい」
 ヤマトが言われた通りにアデルの腕を離すとアデルが言った。
「今から、世界の危機について話すね」
 パマの補足を交えながら、アデルの示すデータと見解をきくうちに、ヤマトも前のめりになって引き込まれていく。
「この予測、起こりうる事態ってこと?」
「可能性は高い。このまま放置すれば、ね」
 ヤマトはしばし沈黙して考える。そして言った。
「世界を救おう……」
 ヤマトがついに陥落した。アデルとともに世界を救う決心を固めた。しかし、である。
「具体的な行動をどうするか?」
 ヤマトがつぶやくと、アデルが申し訳なさそうに言った。
「リリカさんのご両親と話して欲しい」

 ヤマトが一気に凍り付いた。
「そ、それ本気で言っているのか?」
 アデルもわかっている、でも考えうる最善は、リリカの両親の説得だった。
「僕、リリカとやって捨てている、という最低な男と思われているわけで」
 ヤマトが頭を抱えてぼやく。
「それでも、リリカさんの両親の理解がないと、世界はきっと私たちの言葉に耳を傾けない」
 どうすればいいのか? 気まずさと申し訳ない気持ちばかりがヤマトに波のように打ち寄せる。




(つづく)


えっと、これはR18の恋愛小説です。主人公たちの厨二病が爆発していますが、これはR18の恋愛小説です……。




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