フランシェス兄弟はアンニュイ(共通)

朝陽ヨル(月嶺)

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ジョアル、シリスに恋人が出来てから

ダブルデート3(シリス✕朱廉)

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 ジョアル、理一と別れてからは多少なりとも気が緩まる。ダブルデートというのは人数が多い分気を遣うものだ。 

「腹ごしらえは済みましたし、あそこへ行きませんか?」
「あの灯台みたいな所ですか?」 

 シリスが指したのは白くて細長くそびえる展望台だ。 

「ええ。階段でしか昇れないので根気は要りますが、その分人が少なくて穴場だそうです」
「穴場スポット!? 行きましょう!」 

 人が大勢いるのは苦手で、少ないというのはとても有り難い。目的の場所は高さがあって階段も狭く螺旋状になっており昇るのに手こずる。しかし昇ってしまえば上の方は広々としていて解放的だった。二台の望遠鏡が設置されているが、望遠鏡を使わなくても十分ラベンダー畑を見渡すことが出来る。 

「うわあ……!」 

 今日見て回ったラベンダー畑が目一杯に広がっている。高い場所なだけあって風も心地良い。 

「すごい……今日見た所、全部見えます」
「近くで見るのとはまた違った趣がありますね」 

 何となく歩いていた遊歩道も上から見れば別の形になっている。ライトが設置されていた為、夜になればライトアップされてきっと更に綺麗だろう。 

「あの……シリスさん、今日はありがとうございます。こんなに綺麗な所に連れてきて頂いて」
「私も来たいと思っていましたから、一緒に来ることが出来て私の方こそ感謝しています」
「そんなっ、我も凄く楽しみだったので! 恥ずかしながらはしゃいでしまいました……」
「そんな素直な所が素敵だと思いますよ」
「あ、ありがとう……ござい、ます……っ」 

 ストレートな褒め言葉にボワッと湯気が沸いてしまいそうだ。
 思ったことを言っただけなので、朱廉が照れているとは露知らず、そろそろ降りましょうかと促して次の提案をする。 

「これは私が行きたいだけなのですが、ハーブ講習をしているそうで、そろそろ始まる時間なんです。お付き合い頂けますか?」
「はい! 喜んで!」 

 というわけでハーブ講習を受けることとなった。講習と言っても座学をするわけではなく、数種類が栽培されているハーブ園を見て回り説明を聞くというものである。
 講師の説明や立て札の説明書きを読んではメモをとっているシリス。こういう真面目な所が素敵だなとしみじみ思う朱廉。
 短い講習が終わり、最後にはハーブティーが配られる。参加者の大多数はこのハーブティーが目的で受講している。 

「わわっ!?」 

 待っていればいいものの、ハーブティー欲しさに後ろから押しかけて来る人がぶつかってきた。すると朱廉は勢いでよろめき帽子を落としてしまう。 

「あ、あのっ、すみません」 

 朱廉が悪いわけではないのだが謝ってしまうのは癖なのだろう。
 ぶつかってきた人とは目も合わず、後ろにいた人たちからはひそひそと声が聞こえてくる。 

『髪、凄く派手だね』
『染めてんのかな』 

 そんな言葉だ。悪口を言われたわけではないのは分かってるが、過去の傷が癒えているわけではなく気にしてしまい胸が痛む。 

「朱廉くん」 

 ポスンと。落とした帽子を被せてくれるシリス。 

「せっかくですのでハーブティー頂きましょう」
「は、はい」 

 ハーブティーの入った紙コップを受け取り
一口飲んでみる。ヒンヤリとしていて爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。 

「美味しいです……」
「ええ。美味しいものを味わい、良い香りに包まれて、雑音などは聞き流して忘れてしまいましょう」
「……はい」 

 沼に少しずつ綺麗な水が足されていくように、消えはしなくても薄まっていく濁った心。嫌な気持ちから遠ざけてくれるのは、流水のように綺麗な深淵の蒼い髪を持つ冷静な人。
 ハーブ園から出るともう夕方で、夕陽が射している。 

「色で言えば夕陽にも負けませんし、溶け込むことも出来る美しさです。朱廉くんの髪色が私は好きですよ」 

 夕陽を見ると寂しい気持ちになると言うが、今は少しだけ泣きたくなる。いつも会うとこうして髪を褒めてくれるから。どうしようも出来なかった寂しさを埋めてくれるから。救われた気持ちになって泣きたくなってしまう。今喋ると本当に泣きそうで黙っていると、シリスに手を掴まれ小袋を渡された。 

「お土産にどうぞ」
「……これは……匂袋?」
「私たちの国ではサシェという匂袋をプレゼントすることがあるのでコレにしてみました。枕元に置いておくとアロマテラピーの効果が」 

 言葉を切ったのは朱廉がボロボロ泣いているのに気付いたからで、さすがに冷静でいられなくなったシリスは人目のつかない場所へ一旦移動する。そしてそっと抱きしめることにした。 

「ご、ごめんなさい……泣きたいわけじゃないのにっ……ごめんなさい」
「謝ることではないです。誰でもそういう時があるでしょうから」 

 強く抱きしめればその拍子に帽子が脱げ落ちる。ポンポンと頭を撫でて、落ち着くまで暫くそうしていた。
 朱廉が泣き止むと帽子を拾ってまた被せてくれる。 

「あの、ありがとうございます……」
「どういたしまして」 

 夕方で人の通りも減ったラベンダー畑。 

「そろそろ帰りましょうか」
「そうですね」
「……日も落ちてきましたし、人の通りも減りましたので……手を……繋ぎますか?」 

 ぎこちなくそう言ったシリスにつられてぎこちなく返事をする朱廉。夕陽を背にそっと手を繋いで歩き出した二人。


 END
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