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一話 家庭の別れ過程
二
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「ココロ。……行こうか」
「………」
その言葉をかけたのは伯父でも伯母でもない。六十代で丸眼鏡を掛けた小太りな白髪混じりの男性。父方の祖父である。
少女の名前はココロ。呼ばれた少女はもうこの地にはいない両親が通過していった保安検査場のゲートを見つめていた。その表情は眉尻を下げて眉間の皺を寄せる今にも泣き出しそうな、誰が見ても悲しげな表情をしていた。
「ココロ……」
「………」
俯きながらケージを抱える手のひらと指先に力を込める。細い肩を震わせて、それから体当たりするかのように祖父の足にぶつかり顔を埋めた。
「もういいですか。早く移りたいんですけど」
抑揚の無い声で祖父に言葉を投げるのは伯母である。白粉に赤い口紅と、眉や睫毛、目の周囲まで随分厚い化粧をしており、ワンレンショートボブスタイルから覗くイヤリングはきらびやかで高価な物だと分かる。
「あーあ、とうとう引き受けちゃったなー」
伯母の前に立ち頭の後ろで手を組んでいる男は伯父で、いかにも面倒くさいと言っているような口振りだ。髪は暗めのアッシュグレージュカラーでサイドとバッグを刈り上げている。黒淵眼鏡から覗く目は据わっており、ニヤニヤと緩んだ口元はだらしがない。耳にはピアスの穴が目に痛い。
「仕方ないでしょ。頼まれたんだから。しかもあんな大金もらっといて……」
「シィーッ、声大きいって!」
わざとかと思うくらいの声量とその内容に、ココロはただ黙って祖父の影に隠れていた。
カツカツと革靴の音を響かせて近づいてくる伯父。目の前にしゃがみこまれると身動きが取れなかった。
「弟が忙しいって言うから預かっちゃったんだよねー。よろしくね、ココロちゃん。伯父さんだよー」
胡散臭い笑顔を向けてくる。笑っているのに妙な違和感を感じるのがどうしてなのかわからないココロには、祖父に体は隠せても戸惑いは隠せず頷くだけが精一杯だった。
怯えるように見える態度が癪だったのか、伯父の表情は酷く嘲笑そのものだ。
「なんだよ、ちょっとは笑えっての」
「亮一ッ!!」
祖父の怒声はフロアに響いた。瞬く間に周囲の視線を浴びる。祖父の声にびくりと肩を震わせたのは伯父とココロだった。伯母は冷静に溜め息を吐くと、止めるわけでもなくさっさと荷物を持って出口へと向かっていく。
祖父とココロに舌打ちをしてから妻を追いかける伯父。
不遜な態度を取る息子に腹を立てつつも、祖父はココロには優しく微笑みかけた。
「ごめんな、ココロ。こんな家族で」
困っている。祖父の笑みからはそんな感情が見て取れた。困っているだけではない。周りに迷惑をかけていて嫌だなと思っていたり、もっと複雑な思いがありそうだ。両親が海外へ行くと言っていた時もこんな顔をしていた。
ココロには単純なことしかわからない。大人の見栄や矜持など分かりはしない。ただ祖父がとても優しくて、伯父や伯母も何か理由があってあんな素っ気ない態度なのだろうと、それだけは分かっている。
「……おじいちゃんはわるくないよ。わたしはーー」
ーーかぞくになれるのかな…………
「………」
その言葉をかけたのは伯父でも伯母でもない。六十代で丸眼鏡を掛けた小太りな白髪混じりの男性。父方の祖父である。
少女の名前はココロ。呼ばれた少女はもうこの地にはいない両親が通過していった保安検査場のゲートを見つめていた。その表情は眉尻を下げて眉間の皺を寄せる今にも泣き出しそうな、誰が見ても悲しげな表情をしていた。
「ココロ……」
「………」
俯きながらケージを抱える手のひらと指先に力を込める。細い肩を震わせて、それから体当たりするかのように祖父の足にぶつかり顔を埋めた。
「もういいですか。早く移りたいんですけど」
抑揚の無い声で祖父に言葉を投げるのは伯母である。白粉に赤い口紅と、眉や睫毛、目の周囲まで随分厚い化粧をしており、ワンレンショートボブスタイルから覗くイヤリングはきらびやかで高価な物だと分かる。
「あーあ、とうとう引き受けちゃったなー」
伯母の前に立ち頭の後ろで手を組んでいる男は伯父で、いかにも面倒くさいと言っているような口振りだ。髪は暗めのアッシュグレージュカラーでサイドとバッグを刈り上げている。黒淵眼鏡から覗く目は据わっており、ニヤニヤと緩んだ口元はだらしがない。耳にはピアスの穴が目に痛い。
「仕方ないでしょ。頼まれたんだから。しかもあんな大金もらっといて……」
「シィーッ、声大きいって!」
わざとかと思うくらいの声量とその内容に、ココロはただ黙って祖父の影に隠れていた。
カツカツと革靴の音を響かせて近づいてくる伯父。目の前にしゃがみこまれると身動きが取れなかった。
「弟が忙しいって言うから預かっちゃったんだよねー。よろしくね、ココロちゃん。伯父さんだよー」
胡散臭い笑顔を向けてくる。笑っているのに妙な違和感を感じるのがどうしてなのかわからないココロには、祖父に体は隠せても戸惑いは隠せず頷くだけが精一杯だった。
怯えるように見える態度が癪だったのか、伯父の表情は酷く嘲笑そのものだ。
「なんだよ、ちょっとは笑えっての」
「亮一ッ!!」
祖父の怒声はフロアに響いた。瞬く間に周囲の視線を浴びる。祖父の声にびくりと肩を震わせたのは伯父とココロだった。伯母は冷静に溜め息を吐くと、止めるわけでもなくさっさと荷物を持って出口へと向かっていく。
祖父とココロに舌打ちをしてから妻を追いかける伯父。
不遜な態度を取る息子に腹を立てつつも、祖父はココロには優しく微笑みかけた。
「ごめんな、ココロ。こんな家族で」
困っている。祖父の笑みからはそんな感情が見て取れた。困っているだけではない。周りに迷惑をかけていて嫌だなと思っていたり、もっと複雑な思いがありそうだ。両親が海外へ行くと言っていた時もこんな顔をしていた。
ココロには単純なことしかわからない。大人の見栄や矜持など分かりはしない。ただ祖父がとても優しくて、伯父や伯母も何か理由があってあんな素っ気ない態度なのだろうと、それだけは分かっている。
「……おじいちゃんはわるくないよ。わたしはーー」
ーーかぞくになれるのかな…………
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