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八話 気持ちのズレの訪れ
ニ
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凛々華と話しているとあっという間に昼休みの時間が終わってしまった。読みかけの本はまた明日読もうと机の中にしまう。
ぞろぞろとクラスメートが教室に戻ってきて、その中に大介の姿もあった。いつも通りの自然な笑顔をしている。
ーーダイスケくんは、強いんだ
それが率直な感想だった。
凛々華の話によると、大介の家のピヨは去年この世を去ったようだ。去年のいつ頃なのかまでは覚えていないとのことだった。
百合子は、だから愛美はそんな大介に気を遣って誘わないのだろうと解釈したわけだ。
わたしがダイスケくんなら……かなしくて、元気出なくてあそぶのやめちゃうかも。ごはんも食べたくなくなっちゃう。ダイスケくんもそうだったのかな?
去年のことは分からないが、もしもその時から大介と関わっていたら何か変わったのかと言ったらそうではない。何と声を掛けたらいいのか分からず、それどころか声を掛ける気すら起こらないかもしれない。
去年のココロは赤の他人にさほど関心が無かった。世界は自分と母親と父親だけ。
人と関わろうと思ったきっかけは、両親と離れて伯父夫婦の家に住むことになったこと。不安を和らげたいと思う防衛本能だった。
そしてその前にクックとの出会いだ。
クックさんに会って、色んなことをおしえてあげたいなとか、ちゃんとおせわしなきゃって。色んな人にたすけてもらわないと、わたし一人じゃなにも出来ないから。
クックさんはとくべつでたいせつなかぞく。クックさんがいなくなったら……
「授業を始めますよ」
意識せず耳を通り抜けていった島の声にふと我に返る。黒板のすぐ横の壁に張ってある時間割表を見て、机の引き出しから教科書、ノート、筆記用具を取り出した。
ぼんやりと考えていた悲しい《もしも》は、授業が始まると頭の隅へ追いやられて、頭の中はこれから始まる授業の知識で埋まっていった。
「今日は漢字の書き取りテストをやります」
一番前の席から順にプリントが渡されていき、ココロも前の席の生徒からプリントを受け取る。クラス全員にプリントが行き渡り、島が開始の合図をすると皆一斉に鉛筆を走らせた。
『 』『 』みに『 』へいく。
『 』の『 』で『 』がふった。
振り仮名を読み当てはまる漢字を空欄へ埋めていく。漢字が苦手分野であるココロにとっては苦労するテストだが、正解しているかはともかく問題を飛ばすことなく何かしらの文字を書けている。しかしとある一問で筆が止まる。
『 』と『 』にいく。
『うおいちば』ってなんだろう? 『はは』といっしょに……ははってママのことだよね。ママと、うおいちば……?
頭を捻って知識を振り絞り『いちば』は書けたが『うお』が分からずテスト終了の声がかかる。
「じゃあ赤鉛筆に持ち替えてくださいね。黒板に答えを書いていくので、自分で丸付けしましょう」
言われた通り赤鉛筆で正解なら丸を付け、間違いには答えを書いて自己採点をしていく。全部で二十問あったテストで十七問正解していた。不正解の内二問は惜しくも書き間違いで、止めるべき箇所が突き出ていたり、線が一本足らないといったものだ。そして残り一問は空欄にしてしまった『うおいちば』。板書された『魚市場』という文字を見て目を丸くする。
『うお』って魚なんだ。『さかな』とか『ぎょ』ってよむのはしってたんだけどな。そういえば朝のうらないで、うおざってきいたことある。
かん字はよみ方がたくさんあっておぼえるのたいへん。ひらがなとカタカナだけならいいのになあ……そしたらあとは言葉のいみをべんきょうすればいいんだもん。
べんきょうがんばったら、ピヨさんの言葉もわかるようになるかな?
採点が終わり他の生徒を待っている間にそんな淡い期待を抱いていた。
ぞろぞろとクラスメートが教室に戻ってきて、その中に大介の姿もあった。いつも通りの自然な笑顔をしている。
ーーダイスケくんは、強いんだ
それが率直な感想だった。
凛々華の話によると、大介の家のピヨは去年この世を去ったようだ。去年のいつ頃なのかまでは覚えていないとのことだった。
百合子は、だから愛美はそんな大介に気を遣って誘わないのだろうと解釈したわけだ。
わたしがダイスケくんなら……かなしくて、元気出なくてあそぶのやめちゃうかも。ごはんも食べたくなくなっちゃう。ダイスケくんもそうだったのかな?
去年のことは分からないが、もしもその時から大介と関わっていたら何か変わったのかと言ったらそうではない。何と声を掛けたらいいのか分からず、それどころか声を掛ける気すら起こらないかもしれない。
去年のココロは赤の他人にさほど関心が無かった。世界は自分と母親と父親だけ。
人と関わろうと思ったきっかけは、両親と離れて伯父夫婦の家に住むことになったこと。不安を和らげたいと思う防衛本能だった。
そしてその前にクックとの出会いだ。
クックさんに会って、色んなことをおしえてあげたいなとか、ちゃんとおせわしなきゃって。色んな人にたすけてもらわないと、わたし一人じゃなにも出来ないから。
クックさんはとくべつでたいせつなかぞく。クックさんがいなくなったら……
「授業を始めますよ」
意識せず耳を通り抜けていった島の声にふと我に返る。黒板のすぐ横の壁に張ってある時間割表を見て、机の引き出しから教科書、ノート、筆記用具を取り出した。
ぼんやりと考えていた悲しい《もしも》は、授業が始まると頭の隅へ追いやられて、頭の中はこれから始まる授業の知識で埋まっていった。
「今日は漢字の書き取りテストをやります」
一番前の席から順にプリントが渡されていき、ココロも前の席の生徒からプリントを受け取る。クラス全員にプリントが行き渡り、島が開始の合図をすると皆一斉に鉛筆を走らせた。
『 』『 』みに『 』へいく。
『 』の『 』で『 』がふった。
振り仮名を読み当てはまる漢字を空欄へ埋めていく。漢字が苦手分野であるココロにとっては苦労するテストだが、正解しているかはともかく問題を飛ばすことなく何かしらの文字を書けている。しかしとある一問で筆が止まる。
『 』と『 』にいく。
『うおいちば』ってなんだろう? 『はは』といっしょに……ははってママのことだよね。ママと、うおいちば……?
頭を捻って知識を振り絞り『いちば』は書けたが『うお』が分からずテスト終了の声がかかる。
「じゃあ赤鉛筆に持ち替えてくださいね。黒板に答えを書いていくので、自分で丸付けしましょう」
言われた通り赤鉛筆で正解なら丸を付け、間違いには答えを書いて自己採点をしていく。全部で二十問あったテストで十七問正解していた。不正解の内二問は惜しくも書き間違いで、止めるべき箇所が突き出ていたり、線が一本足らないといったものだ。そして残り一問は空欄にしてしまった『うおいちば』。板書された『魚市場』という文字を見て目を丸くする。
『うお』って魚なんだ。『さかな』とか『ぎょ』ってよむのはしってたんだけどな。そういえば朝のうらないで、うおざってきいたことある。
かん字はよみ方がたくさんあっておぼえるのたいへん。ひらがなとカタカナだけならいいのになあ……そしたらあとは言葉のいみをべんきょうすればいいんだもん。
べんきょうがんばったら、ピヨさんの言葉もわかるようになるかな?
採点が終わり他の生徒を待っている間にそんな淡い期待を抱いていた。
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