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九話 進化
五
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ガコン
「あれ? ちっ、なんだよ」
仕事が終わり帰宅した亮一。傘を持って行き忘れ服は色が変わる程濡れてしまっている。
家の門扉は普段この時間なら施錠されており、解錠した気でいたが逆に施錠してしまったようだ。苛立ちを隠さず反射的に舌打ちをしてから改めて鍵を回し解錠して家の中へと入る。
「ただいまー」
玄関で言った所で返事が返って来ないのはいつものことだ。しかし今日は少し様子がおかしい。静かな家庭である筈がそうではない。やたらと足音や話し声が騒がしい。
「ただいまーってどうしたの? なんかうるさいけど」
リビングに入り妻と父親の顔を見て顔をにやにやと綻ばせる。周りがどうだろうと自分のペースを乱されたくない亮一はこれっぽっちも慌てることはない。というよりも何故二人が慌てた様子なのかまだ理解出来ていない。そこらじゅうを歩いている太郎丸の方がよっぽどおとなしい。
「うるさいわねっ!」
「いやいや、今は亜希子ちゃんの方が絶対うるさいって。そもそもびしょ濡れになった旦那が帰ってきてなんか他に言うこととかやることない?」
「そんなことどうだっていいのよ!」
「どうだってって……」
「亮一、帰って来る途中でココロを見かけなかったか」
「はあ? 見てないけど。何、上にいないの?」
ココロに設けられている門限は十八時だが、時刻はもうすぐニ十時になろうとしている。
ニヤニヤとした顔がやや引きつる。
「ランドセルは置いてあったんだが……」
「仕事終わって帰って来たらいなくて、学校の方とか捜してもいないし、よく遊んでる咲掛さんのお宅に電話してみたけど、そこにもいないって言うのよ」
面倒なことは嫌い。面倒臭いから。ろくでもないことになるだろうと想像出来たから。
亮次から子供を預かってほしいという話を受けた時、本当は断る気だった。でもあの時の亮次の凄まじい剣幕と、それに混じった哀切な表情を見たら断っちゃいけない気がして了承したんだった。
自分だって鬼じゃない。でもやっぱり面倒臭い気持ちが強かった。大金も一緒に預かったがそれは生活費や養育費で、この面倒事に支払われる対価なんてほとんど無かった。
いつかこういうことになるかもしれない。そう考えなかったわけじゃない。しっかりしてるとはいえ相手はまだ七歳の女の子で、不便な範囲でも自由に動き回れる。子供にだってもの凄く嫌なことがあったり、逃げ出したくなったり、どこか遠くに行きたくなったりすることだってある。放っておいてほしい時もあった。自分がそうだったからよく分かる。
子供の一時的な我儘に振り回されるのはうんざりなどと投げ出したい気持ちがあるのに、父親と妻の態度に段々感化されてしまう。
「ヤバイじゃん!!」
子供の時は分からなかったのに、今は大人になって、親になって、胸がざわつく気持ちが分かってきた。
妻と父親からこれまでの情報を聞き、亮一もタオルで頭を乱雑に拭きながらうんうんと唸りながら考える。
「ココロちゃんってケータイ持ってない?」
「持ってないわよ」
「じゃあその愛美って子の家に殴り込み行ったとか?」
「お前じゃあるまいし真面目に考えなさい」
「俺にしては結構真面目に考えてんだけど。つかもう警察に言った方がいいんじゃねーの?」
「でも警察って最低一日経たないと事件性がないとかで動いてくれないんじゃなかった?」
「はあ……マジかよ」
仕事から帰ってきたばかりで疲れや空腹状態だからか苛立ちつつ、内心ちょっと面倒くさいだとか放っとけば自ずと帰って来るんじゃないかと淡い期待をしている。しかしそれでも心配する気持ちがないわけではない。そんな複雑な気持ちを抱えている時。
ドスンッ!!
「うおっ!?」
「なに地震!?」
何かが落ちてきたのかぶつかったのか大きな音が天井から聞こえ、家がほんの数秒揺れた。
「あれ? ちっ、なんだよ」
仕事が終わり帰宅した亮一。傘を持って行き忘れ服は色が変わる程濡れてしまっている。
家の門扉は普段この時間なら施錠されており、解錠した気でいたが逆に施錠してしまったようだ。苛立ちを隠さず反射的に舌打ちをしてから改めて鍵を回し解錠して家の中へと入る。
「ただいまー」
玄関で言った所で返事が返って来ないのはいつものことだ。しかし今日は少し様子がおかしい。静かな家庭である筈がそうではない。やたらと足音や話し声が騒がしい。
「ただいまーってどうしたの? なんかうるさいけど」
リビングに入り妻と父親の顔を見て顔をにやにやと綻ばせる。周りがどうだろうと自分のペースを乱されたくない亮一はこれっぽっちも慌てることはない。というよりも何故二人が慌てた様子なのかまだ理解出来ていない。そこらじゅうを歩いている太郎丸の方がよっぽどおとなしい。
「うるさいわねっ!」
「いやいや、今は亜希子ちゃんの方が絶対うるさいって。そもそもびしょ濡れになった旦那が帰ってきてなんか他に言うこととかやることない?」
「そんなことどうだっていいのよ!」
「どうだってって……」
「亮一、帰って来る途中でココロを見かけなかったか」
「はあ? 見てないけど。何、上にいないの?」
ココロに設けられている門限は十八時だが、時刻はもうすぐニ十時になろうとしている。
ニヤニヤとした顔がやや引きつる。
「ランドセルは置いてあったんだが……」
「仕事終わって帰って来たらいなくて、学校の方とか捜してもいないし、よく遊んでる咲掛さんのお宅に電話してみたけど、そこにもいないって言うのよ」
面倒なことは嫌い。面倒臭いから。ろくでもないことになるだろうと想像出来たから。
亮次から子供を預かってほしいという話を受けた時、本当は断る気だった。でもあの時の亮次の凄まじい剣幕と、それに混じった哀切な表情を見たら断っちゃいけない気がして了承したんだった。
自分だって鬼じゃない。でもやっぱり面倒臭い気持ちが強かった。大金も一緒に預かったがそれは生活費や養育費で、この面倒事に支払われる対価なんてほとんど無かった。
いつかこういうことになるかもしれない。そう考えなかったわけじゃない。しっかりしてるとはいえ相手はまだ七歳の女の子で、不便な範囲でも自由に動き回れる。子供にだってもの凄く嫌なことがあったり、逃げ出したくなったり、どこか遠くに行きたくなったりすることだってある。放っておいてほしい時もあった。自分がそうだったからよく分かる。
子供の一時的な我儘に振り回されるのはうんざりなどと投げ出したい気持ちがあるのに、父親と妻の態度に段々感化されてしまう。
「ヤバイじゃん!!」
子供の時は分からなかったのに、今は大人になって、親になって、胸がざわつく気持ちが分かってきた。
妻と父親からこれまでの情報を聞き、亮一もタオルで頭を乱雑に拭きながらうんうんと唸りながら考える。
「ココロちゃんってケータイ持ってない?」
「持ってないわよ」
「じゃあその愛美って子の家に殴り込み行ったとか?」
「お前じゃあるまいし真面目に考えなさい」
「俺にしては結構真面目に考えてんだけど。つかもう警察に言った方がいいんじゃねーの?」
「でも警察って最低一日経たないと事件性がないとかで動いてくれないんじゃなかった?」
「はあ……マジかよ」
仕事から帰ってきたばかりで疲れや空腹状態だからか苛立ちつつ、内心ちょっと面倒くさいだとか放っとけば自ずと帰って来るんじゃないかと淡い期待をしている。しかしそれでも心配する気持ちがないわけではない。そんな複雑な気持ちを抱えている時。
ドスンッ!!
「うおっ!?」
「なに地震!?」
何かが落ちてきたのかぶつかったのか大きな音が天井から聞こえ、家がほんの数秒揺れた。
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