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付き合ってから
謝恩メロディ 三
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――遊園地デート楽しかった……すっごいデートっぽくて、ドキドキして、幸せで……これから泊まって……
「そうだ! 今日はどこに泊まるんスか!?」
「きっと驚くよ」
今日まで内緒にされていたが到着まで秘密らしい。車を運転して到着すると本当に驚いた。そこは高級旅館だった。
「すっご! 昔の日本家屋みたい! ここに泊まれるんスか!?」
「そうだよ。せっかく旅行券もらったから奮発して旅館を予約したんだ」
「はぁ~~~~っ! ホテルと全然違う! 周りの植物とか石の道とか池とか、えっと……石の置物? 見たことない物ばっかりでヤバい!」
遊園地よりもテンションが高くなっている。作務衣と半纏を纏った旅館のスタッフがわざわざやって来て「荷物をお持ちします」と恭しく丁寧な対応をした時は戸惑いを隠せなかった。大して重くない荷物をほんの数メートルの為に運んでくれるなんて。館内に入ってからはその華やかさに度肝を抜かれる。玄関に飾られる大きな生け花や日本画、太く立派な梁や柱、初めて見るのにどこか懐かしい雰囲気が不思議でキョロキョロと見回してしまう。靴を脱ぐ文化も面白く感じた。チェックインを待っている際にはウェルカムスイーツとほうじ茶が出されて目を輝かせる。
「何コレ、餅?」
楊枝でつついてみてから刺して一口。
「ン~~ッ……スゴくソフト……すぐ無くなった。この粉……緑茶?」
「抹茶のわらび餅かな。上品な甘さで美味しいね」
「このお茶もおいしい、身体の芯まで温かくなる。ずっと飲めそ~。こんな綺麗な景色でスイーツ食べて最高すぎる。VIP対応過ぎてヤバくないスか」
「グル達に感謝しないとね」
チェックインが済み、仲居に部屋へ案内される。中に入った途端にまた見たことのない景色が広がっていた。襖や障子、畳、低いテーブルに座椅子。どれも初めて見る。仲居が説明を終えて出ていくと、ソワソワしていたローランは途端に急発進して辺りを見て回る。
「うわーっなにここ夢の中!? 匂いもなんか不思議で森の中? 木か草みたいな」
「もしかしたら畳の匂いかな?」
「畳ってこんな匂いなんスね!」
初めての旅館、初めての和室。新しい発見が目まぐるしく美術館にでもいる気分になる。
「館内着に着替える? すぐに夕飯だからこのまま行く?」
「和服を楽しみたいので着替えたいっス」
置いてある館内着は浴衣で、身体に当ててみて仁は苦笑いをした。
「ははは、そうだよね……ちょっとフロントに行って大きいのあるか聞いてくるね」
「あ、はい」
仁の身長は一九〇センチを超える。浴衣の丈の長さがいつも足りないことが困る。
ローランはハンガーに脱いだ衣服を掛けていき、浴衣を羽織ってみる。
「わあ~懐かしい」
日本に来たばかりの頃に一度だけ祭りで浴衣を着たことがある。祭りで着た浴衣よりも薄く軽い印象だ。しかしあの時は着せてもらった為、自分ではどう着たらいいか正確に覚えていない。
「下に何か着た方がいいんだっけ? 右と左……どっちだ? 紐みたいなのもあったよな?」
浴衣に苦戦しており、携帯機器で画像や動画を検索することにした。
ものの数分で仁が戻ってくる。
「一番大きいサイズをもらって……わっあ、ごめんっ!」
「?」
出入口と部屋を隔てる襖を開けた仁だったが慌てて持ってきた浴衣で顔を隠した。ローランが半裸だったからだろう。男同士の着替えで謝ることはないのだが家でも同じ反応をする。着替えや風呂上がりで肌が露出していると、自身の顔を隠したり上着を掛けたりなるべく見ないようにするのだ。
――見たっていいんだけどな。寧ろ見て欲しいくらいなのに。でもこれって意識してくれてるって思っていいんだよな?
「仁さんは浴衣の着方わかりますか?」
「え、う、うん」
「じゃあ着せてください!」
「そ、そんなに難しくないよ。僕も着替えるから一緒に着てみたらいいんじゃないかな」
「えー。……どこか変だったら直してくださいよ」
「わかった」
仁も部屋に入ってローランと並んで服を脱ぎ浴衣を羽織る。それから着方を順序よく教えていき、最後に帯を結んで後ろに回せば完成する。
「うんうん、完璧だよ」
「そっスか?」
「夜は冷えるから羽織も着ていこう」
旅館羽織も着て仁の格好を見ると尚のことテンションが上がる。
「はああぁぁっ~~仁さん、カッコいい……!」
「ローランくんもカッコいいよ」
「……はっ、写真撮らなきゃ!」
夕飯のことなど忘れているローランは満足するまで写真を撮りまくる。夕飯の提供時間が決まっている為、仁がそわそわし始めると思い出し慌てて食堂へ向かうのだった。
席が決まっており部屋番号を伝えると案内される。テーブルには細々とした割烹の他、豪華な舟盛りや鍋が用意されていた。着席すると魚の名前や食材を説明しながら鍋に入れて火をつけてくれる。飲み物を注文するとスタッフは退出していった。
「こんな一度に刺身が食べられるなんて。鮪とか鯛とか、他にも聞いたことない魚も言ってて……本当にすごい所に泊まってるんスね」
「本当だね。鍋に入れてたキノコも珍しいみたいだし、肉は和牛だって」
「ああ~飲み物待てない! 食べていいスか?」
「うん、すぐに持ってきてくれるだろうから食べよう」
早速刺身を一口。二口。もうほとんどどれがどの魚か覚えていないがどれも美味しい。漬物や和え物などの割烹も。飲み物が届くと同時に茶碗蒸しもやってきて豪華な食事を前に目眩がしそうだ。存分に楽しむと腹八分目どころか満腹に近い。
食事が終わり、腹休めの為に旅館の小さな庭へ赴く。すっかり日が落ちて周辺は暗いが、等間隔に設置されている石灯籠の明かりで足元は明るい。
「庭があるなんて気付きませんでした」
「ここを予約する時にホームページで見たんだ。ご自由に散策どうぞって」
「へえ~。こんな綺麗な庭、初めて見ました」
「赤いのは……梅かな? 三月になったら桜が綺麗なんだろうね。秋になったら紅葉とか」
「四季とか月ごとに色んな花が咲いてて、日本ってどこでも綺麗スよね」
「それは確かに」
「あっ、池がある」
ローランは小さな橋がかかっている池の前へ行き座って覗き込んだ。
仁も隣で立ったまま池や空を眺める。
「うわっ鯉がいっぱい。こっち来た……あはは、口開けてる。ちょっと可愛いかも」
「明かりが水面に反射してるのも綺麗だね」
「鯉が泳いで水面が揺れてるのがなんかいいスね。上の本物の月も綺麗…………へ、へっくしゅん」
「ちょっと冷えてきた? 中に戻る?」
くしゃみをして鼻をすする。さほど寒いとは感じていないが身体はそう感じているのかもしれない。
「んーと……仁さんがあっためてください」
冗談っぽく笑って見上げると、仁もその冗談にノッて笑う。
「いいよ、おいで」
そう言って手を広げて待っている。
その言動が嬉しくてローランはすっくと立ち上がり跳び付いた。
「あははっ、冗談だったのに。あったかい」
「周りに人がいなかったからいいかなって」
仁も満更ではないのか強めに抱きしめている。暫くすると他の宿泊客がやってきて入れ替わるようにして部屋に戻った。
「えっ!? 布団が敷いてある!」
「チェックインの時に言ってたの忘れちゃった? 夕飯を食べてる時に仲居さんが敷きに来るって」
「全然聞いてなかった……」
初めて入る旅館の内装が珍しくチェックインの際は周りに気を取られていた。
布団が敷いてあって不快だったわけではなく、部屋に戻ったら無かったものが有ってただ驚いただけ。布団も実物を見るのは初めてで試しに寝転んでみた。大の字になって仰向けに寝ると、立っていた時と違う視点となって面白い。
「わあ~こんな薄いのに意外と柔らかいんだ。おお~っ天井高い」
「たまに布団もいいよね。ベッドに慣れてるから新鮮な気持ちになるよ」
「布団で寝たことあるんスね」
「子供の頃におばあちゃんが寝てたのを試しにね。外国の物ってだけでスゴくワクワクしたよ」
「わかります、まさに今そうっスよ。布団とか旅館とかさっきの庭園も、日本にいるんだーって感じられて楽しいっス」
「じゃああともう一つ、日本らしいもの体験する? こっち来て」
手招きされて起き上がり、外に面しているであろう障子を開けた。細い廊下を挟み全面ガラス張りで外が見える。扉を出た先には広いベランダとなっており、そこにはなんとシャワールームや洗い場、露天風呂が設置されていた。
「すごっ! 風呂!?」
――シャワールーム、エッロいんだけど!! 壁が透明!! これが露天風呂!?
「もう入る?」
「ふぇっ!? いいいっ一緒に!?」
「お風呂大きいから入れそうだな~と思って。一人ずつ入りたい? その方が足伸ばせて疲れは取れやすいかな」
――仁さんと一緒に風呂……? 家のじゃ狭いし仕事の時間も違うしそもそも浴槽使わないから一緒に風呂入るって滅多に無いチャンスってこと!?
「は、入りたいっ! 一緒に!」
「よし。それじゃあ準備して入ろう。身体を洗うのに座るのとシャワールーム使うのどっちがいい?」
「ええっっ……とぉ……」
――洗い場がシャワールームの横にあってどっちも丸見えだしどっちも恥ずかしい気がする
「……シャワー使ってもいいスか……?」
「もちろん」
話がまとまり一旦部屋に戻ってタオルや替えの下着を持ってくる。細い廊下が脱衣室の代わりなのか籠が置いてあり、そこに持ってきた物を入れ、おずおずと浴衣や下着も脱いで入れた。タオルで身体を隠しながら外に出る。
「先に洗い終わったら待たないでお風呂入ってていいからね」
「了解っス」
――数ヶ月ぶりの仁さんの裸、刺激強っ! 堂々としてる……風呂場でこんな動揺してるのおかしいかな……そりゃあ男の裸だし誰の見たってどうってことないけど、恋人の裸は段違いというか……!
シャワールームに入ってシャワーを頭から流しながら悶々と考え込んでいる。チラッと横目で仁を見ると、風呂椅子に座って桶に湯を溜めて身体を流していた。シャワーを被っているだけでは不審に思われてしまうだろう。煩悩をかき消そうとシャンプーを数回プッシュして乱雑に頭を洗う。それから身体を洗い、なるべく仁と時間差が無いように何度かチラ見しながらシャワーを浴びている。そして仁が身体を流し終えて風呂椅子から立ち上がるタイミングでローランもシャワールームから出た。
「丁度よかった。じゃあ入ろうか」
「は、はいっ」
寒さに強いが二月の夜の気温は冷える。緊張しながらぎこちなく歩いていき、手桶で湯を身体にかけ、足からそっと浸かっていく。
「うっ……、……ふ……わあぁぁ……。ちょっと熱いかもって思ったけど慣れたら気持ちいい~」
「顔は涼しくて身体はぽかぽかだね」
「そうっスね。はぁ~~風呂に浸かるのってこんな気持ちいいんだ……もっと早く知りたかった」
「景色も最高だし露天風呂ってやっぱりいいなあ」
「気持ちいい風呂に最高の景色。仁さんもいて天国みたい」
男二人が入っても身体を伸ばして入れる程の広さだが数センチずれれば身体が触れる。ローランは湯船のへりに両腕を重ねてその上に顎を乗せて景色を眺めている。
仁は段差のある場所に座ってローランと離れていたが、ゆっくりとローランの横にやってきた。
思いがけない急接近に鼓動が速く打つ。
「こ、こっちに来たんスね」
「もっと近くで景色を見たくて」
「あ、じ、じゃあ俺はそっちに……」
「離れなくてもいいよ」
「っ! うあ、あの……」
仁の手がローランの肩に添えられる。湯の中だが素肌に触れられると身体が過剰に反応してしまう。雰囲気を察して目を瞑ると、そっと唇同士が触れた。
「ふふっ、顔真っ赤」
「……!! ふ、風呂が熱くてのぼせたのかもっ! 先に出てますッ!」
勢いよく立ち上がって湯船から出ていき、足早にバスタオルを巻いて部屋に戻っていった。本当に顔が暑く耳まで赤い。
――ヤバいヤバいヤバい、マジでヤバいってば! 仁さんカッコ良くて……どうしよう……!
キスした後に目を開けた。その時見た仁の顔は確かに【男】だった。濡れた身体や触れられる感触、熱っぽい視線、話しかけられる声、どれもが魅力的で興奮し勃起していた。身体を拭いてサッと浴衣を羽織りトイレで落ち着くのを待つことにする。
――仁さんが積極的なの嬉しいのに……また俺だけ興奮してて仁さんが勃たなかったら……そう考えたら怖い……
「そうだ! 今日はどこに泊まるんスか!?」
「きっと驚くよ」
今日まで内緒にされていたが到着まで秘密らしい。車を運転して到着すると本当に驚いた。そこは高級旅館だった。
「すっご! 昔の日本家屋みたい! ここに泊まれるんスか!?」
「そうだよ。せっかく旅行券もらったから奮発して旅館を予約したんだ」
「はぁ~~~~っ! ホテルと全然違う! 周りの植物とか石の道とか池とか、えっと……石の置物? 見たことない物ばっかりでヤバい!」
遊園地よりもテンションが高くなっている。作務衣と半纏を纏った旅館のスタッフがわざわざやって来て「荷物をお持ちします」と恭しく丁寧な対応をした時は戸惑いを隠せなかった。大して重くない荷物をほんの数メートルの為に運んでくれるなんて。館内に入ってからはその華やかさに度肝を抜かれる。玄関に飾られる大きな生け花や日本画、太く立派な梁や柱、初めて見るのにどこか懐かしい雰囲気が不思議でキョロキョロと見回してしまう。靴を脱ぐ文化も面白く感じた。チェックインを待っている際にはウェルカムスイーツとほうじ茶が出されて目を輝かせる。
「何コレ、餅?」
楊枝でつついてみてから刺して一口。
「ン~~ッ……スゴくソフト……すぐ無くなった。この粉……緑茶?」
「抹茶のわらび餅かな。上品な甘さで美味しいね」
「このお茶もおいしい、身体の芯まで温かくなる。ずっと飲めそ~。こんな綺麗な景色でスイーツ食べて最高すぎる。VIP対応過ぎてヤバくないスか」
「グル達に感謝しないとね」
チェックインが済み、仲居に部屋へ案内される。中に入った途端にまた見たことのない景色が広がっていた。襖や障子、畳、低いテーブルに座椅子。どれも初めて見る。仲居が説明を終えて出ていくと、ソワソワしていたローランは途端に急発進して辺りを見て回る。
「うわーっなにここ夢の中!? 匂いもなんか不思議で森の中? 木か草みたいな」
「もしかしたら畳の匂いかな?」
「畳ってこんな匂いなんスね!」
初めての旅館、初めての和室。新しい発見が目まぐるしく美術館にでもいる気分になる。
「館内着に着替える? すぐに夕飯だからこのまま行く?」
「和服を楽しみたいので着替えたいっス」
置いてある館内着は浴衣で、身体に当ててみて仁は苦笑いをした。
「ははは、そうだよね……ちょっとフロントに行って大きいのあるか聞いてくるね」
「あ、はい」
仁の身長は一九〇センチを超える。浴衣の丈の長さがいつも足りないことが困る。
ローランはハンガーに脱いだ衣服を掛けていき、浴衣を羽織ってみる。
「わあ~懐かしい」
日本に来たばかりの頃に一度だけ祭りで浴衣を着たことがある。祭りで着た浴衣よりも薄く軽い印象だ。しかしあの時は着せてもらった為、自分ではどう着たらいいか正確に覚えていない。
「下に何か着た方がいいんだっけ? 右と左……どっちだ? 紐みたいなのもあったよな?」
浴衣に苦戦しており、携帯機器で画像や動画を検索することにした。
ものの数分で仁が戻ってくる。
「一番大きいサイズをもらって……わっあ、ごめんっ!」
「?」
出入口と部屋を隔てる襖を開けた仁だったが慌てて持ってきた浴衣で顔を隠した。ローランが半裸だったからだろう。男同士の着替えで謝ることはないのだが家でも同じ反応をする。着替えや風呂上がりで肌が露出していると、自身の顔を隠したり上着を掛けたりなるべく見ないようにするのだ。
――見たっていいんだけどな。寧ろ見て欲しいくらいなのに。でもこれって意識してくれてるって思っていいんだよな?
「仁さんは浴衣の着方わかりますか?」
「え、う、うん」
「じゃあ着せてください!」
「そ、そんなに難しくないよ。僕も着替えるから一緒に着てみたらいいんじゃないかな」
「えー。……どこか変だったら直してくださいよ」
「わかった」
仁も部屋に入ってローランと並んで服を脱ぎ浴衣を羽織る。それから着方を順序よく教えていき、最後に帯を結んで後ろに回せば完成する。
「うんうん、完璧だよ」
「そっスか?」
「夜は冷えるから羽織も着ていこう」
旅館羽織も着て仁の格好を見ると尚のことテンションが上がる。
「はああぁぁっ~~仁さん、カッコいい……!」
「ローランくんもカッコいいよ」
「……はっ、写真撮らなきゃ!」
夕飯のことなど忘れているローランは満足するまで写真を撮りまくる。夕飯の提供時間が決まっている為、仁がそわそわし始めると思い出し慌てて食堂へ向かうのだった。
席が決まっており部屋番号を伝えると案内される。テーブルには細々とした割烹の他、豪華な舟盛りや鍋が用意されていた。着席すると魚の名前や食材を説明しながら鍋に入れて火をつけてくれる。飲み物を注文するとスタッフは退出していった。
「こんな一度に刺身が食べられるなんて。鮪とか鯛とか、他にも聞いたことない魚も言ってて……本当にすごい所に泊まってるんスね」
「本当だね。鍋に入れてたキノコも珍しいみたいだし、肉は和牛だって」
「ああ~飲み物待てない! 食べていいスか?」
「うん、すぐに持ってきてくれるだろうから食べよう」
早速刺身を一口。二口。もうほとんどどれがどの魚か覚えていないがどれも美味しい。漬物や和え物などの割烹も。飲み物が届くと同時に茶碗蒸しもやってきて豪華な食事を前に目眩がしそうだ。存分に楽しむと腹八分目どころか満腹に近い。
食事が終わり、腹休めの為に旅館の小さな庭へ赴く。すっかり日が落ちて周辺は暗いが、等間隔に設置されている石灯籠の明かりで足元は明るい。
「庭があるなんて気付きませんでした」
「ここを予約する時にホームページで見たんだ。ご自由に散策どうぞって」
「へえ~。こんな綺麗な庭、初めて見ました」
「赤いのは……梅かな? 三月になったら桜が綺麗なんだろうね。秋になったら紅葉とか」
「四季とか月ごとに色んな花が咲いてて、日本ってどこでも綺麗スよね」
「それは確かに」
「あっ、池がある」
ローランは小さな橋がかかっている池の前へ行き座って覗き込んだ。
仁も隣で立ったまま池や空を眺める。
「うわっ鯉がいっぱい。こっち来た……あはは、口開けてる。ちょっと可愛いかも」
「明かりが水面に反射してるのも綺麗だね」
「鯉が泳いで水面が揺れてるのがなんかいいスね。上の本物の月も綺麗…………へ、へっくしゅん」
「ちょっと冷えてきた? 中に戻る?」
くしゃみをして鼻をすする。さほど寒いとは感じていないが身体はそう感じているのかもしれない。
「んーと……仁さんがあっためてください」
冗談っぽく笑って見上げると、仁もその冗談にノッて笑う。
「いいよ、おいで」
そう言って手を広げて待っている。
その言動が嬉しくてローランはすっくと立ち上がり跳び付いた。
「あははっ、冗談だったのに。あったかい」
「周りに人がいなかったからいいかなって」
仁も満更ではないのか強めに抱きしめている。暫くすると他の宿泊客がやってきて入れ替わるようにして部屋に戻った。
「えっ!? 布団が敷いてある!」
「チェックインの時に言ってたの忘れちゃった? 夕飯を食べてる時に仲居さんが敷きに来るって」
「全然聞いてなかった……」
初めて入る旅館の内装が珍しくチェックインの際は周りに気を取られていた。
布団が敷いてあって不快だったわけではなく、部屋に戻ったら無かったものが有ってただ驚いただけ。布団も実物を見るのは初めてで試しに寝転んでみた。大の字になって仰向けに寝ると、立っていた時と違う視点となって面白い。
「わあ~こんな薄いのに意外と柔らかいんだ。おお~っ天井高い」
「たまに布団もいいよね。ベッドに慣れてるから新鮮な気持ちになるよ」
「布団で寝たことあるんスね」
「子供の頃におばあちゃんが寝てたのを試しにね。外国の物ってだけでスゴくワクワクしたよ」
「わかります、まさに今そうっスよ。布団とか旅館とかさっきの庭園も、日本にいるんだーって感じられて楽しいっス」
「じゃああともう一つ、日本らしいもの体験する? こっち来て」
手招きされて起き上がり、外に面しているであろう障子を開けた。細い廊下を挟み全面ガラス張りで外が見える。扉を出た先には広いベランダとなっており、そこにはなんとシャワールームや洗い場、露天風呂が設置されていた。
「すごっ! 風呂!?」
――シャワールーム、エッロいんだけど!! 壁が透明!! これが露天風呂!?
「もう入る?」
「ふぇっ!? いいいっ一緒に!?」
「お風呂大きいから入れそうだな~と思って。一人ずつ入りたい? その方が足伸ばせて疲れは取れやすいかな」
――仁さんと一緒に風呂……? 家のじゃ狭いし仕事の時間も違うしそもそも浴槽使わないから一緒に風呂入るって滅多に無いチャンスってこと!?
「は、入りたいっ! 一緒に!」
「よし。それじゃあ準備して入ろう。身体を洗うのに座るのとシャワールーム使うのどっちがいい?」
「ええっっ……とぉ……」
――洗い場がシャワールームの横にあってどっちも丸見えだしどっちも恥ずかしい気がする
「……シャワー使ってもいいスか……?」
「もちろん」
話がまとまり一旦部屋に戻ってタオルや替えの下着を持ってくる。細い廊下が脱衣室の代わりなのか籠が置いてあり、そこに持ってきた物を入れ、おずおずと浴衣や下着も脱いで入れた。タオルで身体を隠しながら外に出る。
「先に洗い終わったら待たないでお風呂入ってていいからね」
「了解っス」
――数ヶ月ぶりの仁さんの裸、刺激強っ! 堂々としてる……風呂場でこんな動揺してるのおかしいかな……そりゃあ男の裸だし誰の見たってどうってことないけど、恋人の裸は段違いというか……!
シャワールームに入ってシャワーを頭から流しながら悶々と考え込んでいる。チラッと横目で仁を見ると、風呂椅子に座って桶に湯を溜めて身体を流していた。シャワーを被っているだけでは不審に思われてしまうだろう。煩悩をかき消そうとシャンプーを数回プッシュして乱雑に頭を洗う。それから身体を洗い、なるべく仁と時間差が無いように何度かチラ見しながらシャワーを浴びている。そして仁が身体を流し終えて風呂椅子から立ち上がるタイミングでローランもシャワールームから出た。
「丁度よかった。じゃあ入ろうか」
「は、はいっ」
寒さに強いが二月の夜の気温は冷える。緊張しながらぎこちなく歩いていき、手桶で湯を身体にかけ、足からそっと浸かっていく。
「うっ……、……ふ……わあぁぁ……。ちょっと熱いかもって思ったけど慣れたら気持ちいい~」
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男二人が入っても身体を伸ばして入れる程の広さだが数センチずれれば身体が触れる。ローランは湯船のへりに両腕を重ねてその上に顎を乗せて景色を眺めている。
仁は段差のある場所に座ってローランと離れていたが、ゆっくりとローランの横にやってきた。
思いがけない急接近に鼓動が速く打つ。
「こ、こっちに来たんスね」
「もっと近くで景色を見たくて」
「あ、じ、じゃあ俺はそっちに……」
「離れなくてもいいよ」
「っ! うあ、あの……」
仁の手がローランの肩に添えられる。湯の中だが素肌に触れられると身体が過剰に反応してしまう。雰囲気を察して目を瞑ると、そっと唇同士が触れた。
「ふふっ、顔真っ赤」
「……!! ふ、風呂が熱くてのぼせたのかもっ! 先に出てますッ!」
勢いよく立ち上がって湯船から出ていき、足早にバスタオルを巻いて部屋に戻っていった。本当に顔が暑く耳まで赤い。
――ヤバいヤバいヤバい、マジでヤバいってば! 仁さんカッコ良くて……どうしよう……!
キスした後に目を開けた。その時見た仁の顔は確かに【男】だった。濡れた身体や触れられる感触、熱っぽい視線、話しかけられる声、どれもが魅力的で興奮し勃起していた。身体を拭いてサッと浴衣を羽織りトイレで落ち着くのを待つことにする。
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もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。
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