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覚悟
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僕は覚悟を持って助ける、とそう約束しようとした。ところが、徐良さんは黙って首を横に振ると、冷静に言った。
「いいんです、文嬰公子。これ以上誰も巻き込みたくない。これは私が取るべき責任なんです。私一人の命でことが丸く収まるのならそれに越したことはありません」
「僕も毓松さんも良誠さんもそんなことは望んでいないってわかっているでしょう!それにきっと父も、本当のところはあなたのことを諦めたくないはずです」
「でもだからと言って、これはあなた達だけで何とかできる問題ではないのです。私一人を助けたせいで、対立が深まることも、あなた達に危害が及ぶことも、私は望みません」
「徐良さん、この件を表沙汰にしたくないのは父上だけではないです。もしあなたを拷問した人たちも同じ思いなのなら、こっそりあなたを助け出したくらいで、何か行動を起こすきっかけになるとは思えません。もしそうだとしたらとっくにあちらも何かしら動いていたはずです。だからあなたの死を偽装して助け出すことくらい、可能なはずです。保身のためにその程度の危険すら冒そうとしないような人には、僕はなりたくない!」
僕は語気を強くして言い返した。けれど徐良さんはもう自分の中で結論を出してしまったみたいで、頑なに首を縦に振ろうとしなかった。
とりあえず今は時間がない。
「絶対に戻って来ます」
とだけ伝えると僕達は徐良さんを残して牢を出た。
外に出ると、はらはらしながら待っていたであろう孫良誠が駆け寄った。
「主には会えたか?無事だったか?」
と祈るように聞いてくる。僕達はことの経緯を大まかに伝えた。話の途中で、多分僕のことを話すべきか迷ったのだろう、一瞬趙毓松が言い淀んだので、僕が代わりに自分のことについて話した。孫良誠は何も言わずに拳を握りしめていた。僕はもうそれ以上話す言葉も見つからず、その場に跪いて叩頭した。気がつくと僕はポロポロと涙を溢していた。それを見た孫良誠はしゃがんで僕の襟をガッと掴んだ。殴られる、と思ってぎゅっと目をつぶった。目に溜まっていた涙がつーと頬を伝って落ちていった。ゆっくり目を開けると、彼の拳は震えたまま強く握られ、空中で止まっていた。彼は掴んでいた僕の襟を乱暴に押して手離すと、
「あんたが助けなくても、僕と毓松で主を必ず救い出す」
と僕を睨んで言い放った。
彼らと別れて忍び足で家に帰ると、姉上がすぐに僕に気づいて、ほっとしたような表情を浮かべた。僕は姉上に起きたことを全て話し、
「どうしたらいいでしょうか…?」
と助言を求めた。
「あんたが今言った死を偽装するっていうのは、現実的には可能かもしれないけれど、解決策にはならない。一番良いのは、父上の命令だった、ということにすることよ」
姉上は耳を疑うようなことを言った。それこそ一番現実的ではないじゃないか!まともに聞いた僕が馬鹿だったと思ってため息をつくと、姉上は僕の考えを見透かしたように言った。
「あのね、死を偽装したとしてもそんなのばれない保証はないし、仮に徐良さんが死んだことになったとしても、彼の責任にしたままだと彼は牢を出た後もずっと危険なままなんだよ。下手したら父上側と反対派両方から追われる身になる。そうなったら私達だけでは徐良さんを助けられない」
「じゃあ、一体どうしろって言うんですか?」
「後は私に任せて。何とかするから」
ここでいう姉上の「何とかする」は「無茶をする」と同じ意味だ。僕は今回こそは姉上の好き勝手にはさせない、と心に誓って
「姉上一人には絶対任せません!」
と言い切った。
「いいんです、文嬰公子。これ以上誰も巻き込みたくない。これは私が取るべき責任なんです。私一人の命でことが丸く収まるのならそれに越したことはありません」
「僕も毓松さんも良誠さんもそんなことは望んでいないってわかっているでしょう!それにきっと父も、本当のところはあなたのことを諦めたくないはずです」
「でもだからと言って、これはあなた達だけで何とかできる問題ではないのです。私一人を助けたせいで、対立が深まることも、あなた達に危害が及ぶことも、私は望みません」
「徐良さん、この件を表沙汰にしたくないのは父上だけではないです。もしあなたを拷問した人たちも同じ思いなのなら、こっそりあなたを助け出したくらいで、何か行動を起こすきっかけになるとは思えません。もしそうだとしたらとっくにあちらも何かしら動いていたはずです。だからあなたの死を偽装して助け出すことくらい、可能なはずです。保身のためにその程度の危険すら冒そうとしないような人には、僕はなりたくない!」
僕は語気を強くして言い返した。けれど徐良さんはもう自分の中で結論を出してしまったみたいで、頑なに首を縦に振ろうとしなかった。
とりあえず今は時間がない。
「絶対に戻って来ます」
とだけ伝えると僕達は徐良さんを残して牢を出た。
外に出ると、はらはらしながら待っていたであろう孫良誠が駆け寄った。
「主には会えたか?無事だったか?」
と祈るように聞いてくる。僕達はことの経緯を大まかに伝えた。話の途中で、多分僕のことを話すべきか迷ったのだろう、一瞬趙毓松が言い淀んだので、僕が代わりに自分のことについて話した。孫良誠は何も言わずに拳を握りしめていた。僕はもうそれ以上話す言葉も見つからず、その場に跪いて叩頭した。気がつくと僕はポロポロと涙を溢していた。それを見た孫良誠はしゃがんで僕の襟をガッと掴んだ。殴られる、と思ってぎゅっと目をつぶった。目に溜まっていた涙がつーと頬を伝って落ちていった。ゆっくり目を開けると、彼の拳は震えたまま強く握られ、空中で止まっていた。彼は掴んでいた僕の襟を乱暴に押して手離すと、
「あんたが助けなくても、僕と毓松で主を必ず救い出す」
と僕を睨んで言い放った。
彼らと別れて忍び足で家に帰ると、姉上がすぐに僕に気づいて、ほっとしたような表情を浮かべた。僕は姉上に起きたことを全て話し、
「どうしたらいいでしょうか…?」
と助言を求めた。
「あんたが今言った死を偽装するっていうのは、現実的には可能かもしれないけれど、解決策にはならない。一番良いのは、父上の命令だった、ということにすることよ」
姉上は耳を疑うようなことを言った。それこそ一番現実的ではないじゃないか!まともに聞いた僕が馬鹿だったと思ってため息をつくと、姉上は僕の考えを見透かしたように言った。
「あのね、死を偽装したとしてもそんなのばれない保証はないし、仮に徐良さんが死んだことになったとしても、彼の責任にしたままだと彼は牢を出た後もずっと危険なままなんだよ。下手したら父上側と反対派両方から追われる身になる。そうなったら私達だけでは徐良さんを助けられない」
「じゃあ、一体どうしろって言うんですか?」
「後は私に任せて。何とかするから」
ここでいう姉上の「何とかする」は「無茶をする」と同じ意味だ。僕は今回こそは姉上の好き勝手にはさせない、と心に誓って
「姉上一人には絶対任せません!」
と言い切った。
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