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ドラゴンはお利口さんと呼ばれたい
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※※※
「あら、可愛い坊やね。あなたは男の子の坊やだから、そうね・・・坊(ぼう)と呼びましょう」
ドラゴンとも呼ばれる竜族は卵のまま過ごす時間が長い。中には坊(ぼう)のように軽く卵の状態で300年近く過ごすツワモノもいる。長い長い何千年という歳月を生きるドラゴンにとっては、それもまた決して短いとは言えないが長くもない時間である。卵が孵化するのはドラゴンが外界に興味を抱いた時なので、いわば気まぐれに誕生するとも言える。
大魔女アルバによると「仔竜(ドラゴン)は、面白いものや楽しいものが好き」なのだそうだ。坊(ぼう)もアルバに出会って初めて卵の殻を割って出てきた。すでに親のドラゴンは寿命を迎えたのか、はたまた縄張り争いに負けたのか・・・詳細は分からないが巣である洞窟を離れて久しかった。
卵のままウトウト微睡んでは、静寂に包まれた外の様子を感じ取り、興味をなくしてまた微睡んで過ごす。それも、そろそろ飽きてきたころ、ふと暖かい気配の魔力を感じ取り、卵の外に耳を澄ませば楽し気な人間の歌声が聞こえるではないか!
しかも卵の周りに精霊たちが集い、小さな妖精たちの気配もする。「これはナニ!?」となって、晴れて300年ぶりにこの世に生まれてみれば、何とも「面白れぇ女」がいたのである。
まるで夜明けを思わせる紅い髪を肩まで伸ばし、その瞳は蒼天のごとく澄み渡る青と豊かな大地を連想させる緑のオッドアイ。背は低く一見すると10代半ばくらい。しかしアルバ曰く、500年は生きているとのことだった。なお坊(ぼう)は知らなかったがオッドアイは魔力の高いものに度々現れる特徴の一つとされていた。
そして何より坊(ぼう)を驚かせたのは人間とは思えぬほどのアルバの膨大な量の魔力。ドラゴンにも匹敵する魔力量でありながら、決して禍々しい気配はせず、精霊や妖精たちを惹きつける魅力にあふれており、出会った最初から自分を傷つけるような素振りは全くなかった。
そして、生まれたばかりの仔竜・・・幼体のドラゴンである自分に向かって放った一言が冒頭の「あら、可愛い坊や。・・・」へと繋がるのである。大魔女アルバ、まさかのドラゴンによる「面白れぇ女」認定であった。
※※※
勝手に名を付けられた坊(ぼう)であったが不思議と嫌な気持ちにはならなかった。それというのも、大魔女であるアルバは竜族であるドラゴンが生まれながらにして『真名』と呼ばれる親から与えられた唯一無二の名前を持っており、その『真名』を知られることは、魂の支配権を他者に委ねることを意味することを正しく理解していたからである。
生まれたばかりのドラゴンは元々の知能が高いとはいえ、あまりにも無防備だ。悪意のある輩の餌食に簡単になりかねないことを常々アルバは案じていた。
坊(ぼう)に『真名』を名乗らさせないため、全てを知ったうえで先手を打ったのだと坊(ぼう)が気づいたのは育ての親でありママと呼んで慕っていたアルバが亡くなってしばらく後になってからであった。
※※※
「坊(ぼう)、お利口さんね。お行儀よくお座りするのよ。そして元気よく初めましての人にはご挨拶しましょう。ほら、こんにちは~!ってね。坊(ぼう)は可愛いから、みんな笑顔になるに決まっているわ!」
アルバの七人の弟子たちは苦笑いしていたが、坊(ぼう)が言われたとおりに挨拶すると、不思議なことに「お行儀のよいドラゴンだねぇ。」「これはお利口さんだ」と皆がなぜか笑顔を見せたので、「ママ。ボク、お利口さん?」としっぽを振りながら何度も聞くとアルバは花のような笑顔で「えぇ、私の可愛い坊(ぼう)。あなたはとてもお利口さんよ。大きくなっても、そのままの貴方でいてね?」とやはり何度も答えるのであった。
アルバと七人の弟子たちとともに旅するドラゴンの噂は、やがて大陸中に広まっていき、後に「大魔女アルバとお行儀のよいドラゴン」という子供向けの絵本が刊行されるが、それはまた別の話。
※※※
二度とママであるアルバに会えない。それは想像以上に坊(ぼう)には辛い出来事だった。
本当はアルバが生きることに疲れていたことも、魔物や魔族から人々を守るため、または友である精霊が悪事に利用されないように、あるいは小さな妖精たちの命を守るため、常に幼い自分を連れて育てながら様々な存在と戦い続けていたことは分かっていた。
人間は儚く強い生き物だ。まるで夜空に打ちあがる花火のように華麗に咲き誇り一瞬で散って逝く。ドラゴンの数千年に比べれば、あっという間の人生である。アルバという奇跡のような存在が世界から消滅した瞬間、虚無感が坊(ぼう)や親しかった精霊たちを襲ったのは、あるいは必然だったかもしれない。
あれから、また月日は流れて暁の国の白嶽山脈の奥深く人里離れた【桃源郷】と呼ばれる地で、成竜となり大人のドラゴンの仲間入りをした坊(ぼう)は仲の良い精霊たちと、卵の時のように永い眠りについていた。
夢の中でなら「私の可愛いお利口さん」と呼ぶアルバに会える。
いつしか自分たちが伝説上の生き物とされていることにも気づかず、ひたすら眠り続けた坊(ぼう)たちは外界と【桃源郷】を行き交う小さな妖精たちの囁きとも呼べぬ騒ぎ声に気づくのに少しばかり遅れてしまった。
それくらい小さな妖精たちの会話は、にわかには信じられないものだったということもある。
(アルバが戻ってきたよ。彩雲に乗ってアルバの魂が降りてきた~!)
(ノルドへ行こうよ、みんな!アルバに会いに行くんだ!)
(でも生まれ変わったら魂から前世の記憶は消えてなくなるのでしょ?私たちのことを覚えていないアルバはアルバじゃないんじゃないの?)
(だけど確かにアルバの魔力と気配を感じるよ?もしかしたら、あのアルバだもん、忘れていないかもしれないよ)
(あのアルバだもんね。坊(ぼう)や精霊のみんなのことも覚えているかも!)
(そうと決まれば・・・・)
《 坊(ぼう)、起きろ~~~~!!!!》
大魔女アルバの死後、約百数十年ぶりにドラゴンと精霊たちは目覚め、そして小さな大魔女の物語は動き出す。
「あら、可愛い坊やね。あなたは男の子の坊やだから、そうね・・・坊(ぼう)と呼びましょう」
ドラゴンとも呼ばれる竜族は卵のまま過ごす時間が長い。中には坊(ぼう)のように軽く卵の状態で300年近く過ごすツワモノもいる。長い長い何千年という歳月を生きるドラゴンにとっては、それもまた決して短いとは言えないが長くもない時間である。卵が孵化するのはドラゴンが外界に興味を抱いた時なので、いわば気まぐれに誕生するとも言える。
大魔女アルバによると「仔竜(ドラゴン)は、面白いものや楽しいものが好き」なのだそうだ。坊(ぼう)もアルバに出会って初めて卵の殻を割って出てきた。すでに親のドラゴンは寿命を迎えたのか、はたまた縄張り争いに負けたのか・・・詳細は分からないが巣である洞窟を離れて久しかった。
卵のままウトウト微睡んでは、静寂に包まれた外の様子を感じ取り、興味をなくしてまた微睡んで過ごす。それも、そろそろ飽きてきたころ、ふと暖かい気配の魔力を感じ取り、卵の外に耳を澄ませば楽し気な人間の歌声が聞こえるではないか!
しかも卵の周りに精霊たちが集い、小さな妖精たちの気配もする。「これはナニ!?」となって、晴れて300年ぶりにこの世に生まれてみれば、何とも「面白れぇ女」がいたのである。
まるで夜明けを思わせる紅い髪を肩まで伸ばし、その瞳は蒼天のごとく澄み渡る青と豊かな大地を連想させる緑のオッドアイ。背は低く一見すると10代半ばくらい。しかしアルバ曰く、500年は生きているとのことだった。なお坊(ぼう)は知らなかったがオッドアイは魔力の高いものに度々現れる特徴の一つとされていた。
そして何より坊(ぼう)を驚かせたのは人間とは思えぬほどのアルバの膨大な量の魔力。ドラゴンにも匹敵する魔力量でありながら、決して禍々しい気配はせず、精霊や妖精たちを惹きつける魅力にあふれており、出会った最初から自分を傷つけるような素振りは全くなかった。
そして、生まれたばかりの仔竜・・・幼体のドラゴンである自分に向かって放った一言が冒頭の「あら、可愛い坊や。・・・」へと繋がるのである。大魔女アルバ、まさかのドラゴンによる「面白れぇ女」認定であった。
※※※
勝手に名を付けられた坊(ぼう)であったが不思議と嫌な気持ちにはならなかった。それというのも、大魔女であるアルバは竜族であるドラゴンが生まれながらにして『真名』と呼ばれる親から与えられた唯一無二の名前を持っており、その『真名』を知られることは、魂の支配権を他者に委ねることを意味することを正しく理解していたからである。
生まれたばかりのドラゴンは元々の知能が高いとはいえ、あまりにも無防備だ。悪意のある輩の餌食に簡単になりかねないことを常々アルバは案じていた。
坊(ぼう)に『真名』を名乗らさせないため、全てを知ったうえで先手を打ったのだと坊(ぼう)が気づいたのは育ての親でありママと呼んで慕っていたアルバが亡くなってしばらく後になってからであった。
※※※
「坊(ぼう)、お利口さんね。お行儀よくお座りするのよ。そして元気よく初めましての人にはご挨拶しましょう。ほら、こんにちは~!ってね。坊(ぼう)は可愛いから、みんな笑顔になるに決まっているわ!」
アルバの七人の弟子たちは苦笑いしていたが、坊(ぼう)が言われたとおりに挨拶すると、不思議なことに「お行儀のよいドラゴンだねぇ。」「これはお利口さんだ」と皆がなぜか笑顔を見せたので、「ママ。ボク、お利口さん?」としっぽを振りながら何度も聞くとアルバは花のような笑顔で「えぇ、私の可愛い坊(ぼう)。あなたはとてもお利口さんよ。大きくなっても、そのままの貴方でいてね?」とやはり何度も答えるのであった。
アルバと七人の弟子たちとともに旅するドラゴンの噂は、やがて大陸中に広まっていき、後に「大魔女アルバとお行儀のよいドラゴン」という子供向けの絵本が刊行されるが、それはまた別の話。
※※※
二度とママであるアルバに会えない。それは想像以上に坊(ぼう)には辛い出来事だった。
本当はアルバが生きることに疲れていたことも、魔物や魔族から人々を守るため、または友である精霊が悪事に利用されないように、あるいは小さな妖精たちの命を守るため、常に幼い自分を連れて育てながら様々な存在と戦い続けていたことは分かっていた。
人間は儚く強い生き物だ。まるで夜空に打ちあがる花火のように華麗に咲き誇り一瞬で散って逝く。ドラゴンの数千年に比べれば、あっという間の人生である。アルバという奇跡のような存在が世界から消滅した瞬間、虚無感が坊(ぼう)や親しかった精霊たちを襲ったのは、あるいは必然だったかもしれない。
あれから、また月日は流れて暁の国の白嶽山脈の奥深く人里離れた【桃源郷】と呼ばれる地で、成竜となり大人のドラゴンの仲間入りをした坊(ぼう)は仲の良い精霊たちと、卵の時のように永い眠りについていた。
夢の中でなら「私の可愛いお利口さん」と呼ぶアルバに会える。
いつしか自分たちが伝説上の生き物とされていることにも気づかず、ひたすら眠り続けた坊(ぼう)たちは外界と【桃源郷】を行き交う小さな妖精たちの囁きとも呼べぬ騒ぎ声に気づくのに少しばかり遅れてしまった。
それくらい小さな妖精たちの会話は、にわかには信じられないものだったということもある。
(アルバが戻ってきたよ。彩雲に乗ってアルバの魂が降りてきた~!)
(ノルドへ行こうよ、みんな!アルバに会いに行くんだ!)
(でも生まれ変わったら魂から前世の記憶は消えてなくなるのでしょ?私たちのことを覚えていないアルバはアルバじゃないんじゃないの?)
(だけど確かにアルバの魔力と気配を感じるよ?もしかしたら、あのアルバだもん、忘れていないかもしれないよ)
(あのアルバだもんね。坊(ぼう)や精霊のみんなのことも覚えているかも!)
(そうと決まれば・・・・)
《 坊(ぼう)、起きろ~~~~!!!!》
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