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水曜日ディナー本番。
幕間③市井兄とウェイター1
しおりを挟む仕方がないことだが随分と時間がかかってしまった。
健介へのサプライズプレゼントの調整とこれからのプロポーズのセリフの暗記とイメトレ。
濃厚な時間に疲労困憊だ。
「まずルームサービスはさっきのじいさんで、彼が来たら指輪を受け取る、健の前に跪く、手を取って台詞を言う、台詞は・・・俺を優雅に見せるには・・・」
これからの段取りを確認しつつ健介の居るディナールームへと急いで足を進める。
それでも半時間位で、これから起こすイベント全ての手配ができた。
レトロ黒電話だけで急なサプライズが全て段取りできるなんて、帝王ホテルのルームサービスって凄いな。
いや、それよりも今は健介だ。
『お待たせ!』とか爽やかに入るべきか?
にしても半時間は待たせすぎだ、俺。
ディナールームへ戻ろうとする足を速める。
食事中に置いてきぼりにした上に半時間も待たせた言い訳を、どうすれば・・・。
『ちょっとお腹の調子が、ごめんね、健・・・』とか腹辺りを擦りながら行くとか・・・ダメだ、俺の体調不良は健介がマジで泣く。
引きつけを起こしかねない勢いで激泣く。
しかも混乱した結果、またスマホで救急車を呼びかねない。
ダメだ。
そんな事になったら、折角準備したサプライズが全部台無しになってしまう。
唐所長が亮太くんを待たせてまで協力してくれた案件だ。
『サプライズが失敗しました。』なら兎も角、『サプライズまで到達できませんでした。』とか、対唐所長的にも絶対まずい。
どうしようか・・・。
解決策が思い付かず、部屋の手前で足が止まる。
フレンチのコース料理完食しといて言うことでも無いが、胃が痛い・・・気がする。
ドアの前で、現実逃避していると部屋の中から声が響いてきた。
「ええ~!?
きゃぁ~♪♪」
!?!?
ディナールームから健介の叫び声!?
まさかウェイターに乱暴でもされたのか!?
「健!!」
バン!とドアを開け部屋に飛び込む。
奴は健介の側に立ち、俺を見て一礼した。
「お帰りなさいませ、市井様。」
ウェイター!
俺の嫁に手を出しておいて何が『お帰り』だ!
東京湾に沈めてくれる!
「あ、兄ちゃんお帰り~♪」
あぁん?
・・・。
ん?
健介はご機嫌・・・だと?
「ご飯のお兄さんのトランプマジック凄いんだよ~!
兄ちゃんも一緒に見よう~♪♪」
え?さっきの悲鳴は?
マジックに感動したから?
「さっきもね~♪
僕の持ってたカードがね~♪
ご飯のお兄さんの胸ポケットから出て来たの~♪」
・・・なる程。
これは・・・ウェイターに感謝すべき・・・なのか?
ウェイターが居なければ、健介は一人ぼっちで待つ羽目になったはずだし。
「・・・そう。
凄いね。」
ウェイターのお陰で、健介は寂しい思いをせず、尚且つご機嫌で待っていてくれたんだ。
・・・何か悔しい。
悔しいが、納得し、感謝しよう。
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