僕の恋、兄の愛。4

文字の大きさ
上 下
28 / 36
水曜日ディナー本番。

幕間③市井兄とウェイター1

しおりを挟む

仕方がないことだが随分と時間がかかってしまった。

健介へのサプライズプレゼントの調整とこれからのプロポーズのセリフの暗記とイメトレ。
濃厚な時間に疲労困憊だ。

「まずルームサービスはさっきのじいさんで、彼が来たら指輪を受け取る、健の前に跪く、手を取って台詞を言う、台詞は・・・俺を優雅に見せるには・・・」
これからの段取りを確認しつつ健介の居るディナールームへと急いで足を進める。

それでも半時間位で、これから起こすイベント全ての手配ができた。

レトロ黒電話だけで急なサプライズが全て段取りできるなんて、帝王ホテルのルームサービスって凄いな。

いや、それよりも今は健介だ。

『お待たせ!』とか爽やかに入るべきか?

にしても半時間は待たせすぎだ、俺。

ディナールームへ戻ろうとする足を速める。

食事中に置いてきぼりにした上に半時間も待たせた言い訳を、どうすれば・・・。

『ちょっとお腹の調子が、ごめんね、健・・・』とか腹辺りを擦りながら行くとか・・・ダメだ、俺の体調不良は健介がマジで泣く。

引きつけを起こしかねない勢いで激泣く。
しかも混乱した結果、またスマホで救急車を呼びかねない。

ダメだ。

そんな事になったら、折角準備したサプライズが全部台無しになってしまう。

唐所長が亮太くんを待たせてまで協力してくれた案件だ。

『サプライズが失敗しました。』なら兎も角、『サプライズまで到達できませんでした。』とか、対唐所長的にも絶対まずい。

どうしようか・・・。

解決策が思い付かず、部屋の手前で足が止まる。

フレンチのコース料理ばんめし完食しといて言うことでも無いが、胃が痛い・・・気がする。

ドアの前で、現実逃避していると部屋の中から声が響いてきた。

「ええ~!?
きゃぁ~♪♪」

!?!?

ディナールームから健介の叫び声!?

まさかウェイターに乱暴でもされたのか!?

「健!!」

バン!とドアを開け部屋に飛び込む。

ウェイターは健介の側に立ち、俺を見て一礼した。

「お帰りなさいませ、市井様。」

ウェイター!

俺の嫁けんすけに手を出しておいて何が『お帰り』だ!

東京湾に沈めてくれる!

「あ、兄ちゃんお帰り~♪」

あぁん?

・・・。

ん?

健介はご機嫌・・・だと?

「ご飯のお兄さんのトランプマジック凄いんだよ~!
兄ちゃんも一緒に見よう~♪♪」

え?さっきの悲鳴は?

マジックに感動したから?

「さっきもね~♪
僕の持ってたカードがね~♪
ご飯のお兄さんの胸ポケットから出て来たの~♪」

・・・なる程。

これは・・・ウェイターに感謝すべき・・・なのか?

ウェイターが居なければ、健介は一人ぼっちで待つ羽目になったはずだし。

「・・・そう。
凄いね。」

ウェイターのお陰で、健介は寂しい思いをせず、尚且つご機嫌で待っていてくれたんだ。

・・・何か悔しい。

悔しいが、納得し、感謝しよう。






しおりを挟む

処理中です...