穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

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2年2学期

49話: お誕生日会にご招待④

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「なぁ、お前さっきの……」

 ジンとの一悶着から解放された後、気を取り直してケーキを頬張る俺に、カイが少し言葉を詰まらせながら話しかけてくる。

「あー、あれは、向こうが勝手に言ってるって言うか……無理やり連れ回されただけ」
「……出かけたのは本当なのかよ……」

 俺の返事に対するカイの言葉はよく聞こえなかったけど、俺は事実しか言ってない。ジンは俺が嫌がるのを面白がってデートとか言うから本当に性格が悪いよね。

「それより、さっきはありがと、カイ」
「なんだよ急に……」

 俺は俯いてるカイを見上げて言葉をかける。

「喧嘩せずに収めてくれようとしたでしょ?」

 短気なカイがあんな大人な対応できるなんて知らなかった。

「姉貴が……お前絡まれやすいから見とけって……そしたら本当に変なのが来やがるから」

 なるほど、レイラさんが気を利かせてくれたのか。ジンがいたのは想定外だけど、彼女の気遣いが功を奏して穏やかに過ごせた。後でお礼を言っておこう。

「……お前、ああいうのよくあんのか?」
「まあ……この顔だし?本当可愛いって罪だよねー」

 カイが結構深刻な事を聞くトーンで俺に問いかけてくる。俺にとっては良くある事だけど、カイといるときにはああいうナンパに遭遇したことはないし、きっと初めて見る光景だったんだろう。あんまり重くしたくなくて、俺はわざと明るい声で答えたけど

「嫌な思いしてんなら、隠すんじゃねえよ」

カイはそれをおちょくることなく、俺の目をまっすぐ見た。その金色の視線から目を逸らせなくて、俺は、普段なら口にしない言葉を溢してしまう。

「良くあるけど、慣れることはない、かな。けど気にしてたら仕方ないし?」

 ジンはあれでいて、話しかけてくる理由がわかるから、面倒な奴だけどまだいい。けど、クリスフィアさんとの話で出てきた、無数のそういう人達との出来事はちょっとずつだけど確実に心を削ってくる。でもそれでいちいち傷ついてたらキリがない。平気な顔して立っているのが俺にとってのプライドだった。

「別にいつも強がんなとは言わねえよ。それもお前だし。ただ、もし疲れてんなら、その時は横にいるくらいはしてやるから……」

 カイの言葉は、そんな俺の隠したプライドを尊重した上で支えてくれる優しさを含んでいて

「うん……じゃあ今日はカイのところにいようかな」

 俺はそのさりげない不器用な優しさに、今日だけは甘えることにした。思えば修学旅行の時もカイはさりげなくちょっと苦手なクラスメイトから庇ってくれたし、前に出て守ってくれるよりこうやって寄り添ってくれる距離感が今の俺にはすごく心地よかった。

 そんな話をしながら会場を並んで歩いていたら、急にカイが立ち止まる。

「どうしたの?何か食べたいものあった?」

 カイはこのパーティで積極的に食事はしてなかったしお腹空いたのかな?と思って俺が見ていたら

「これ……お前こういうの、好きだろ」

カイはテーブルに並ぶ綺麗な包みを手に取り俺に差し出した。キラキラした、色とりどりのキャンディが入った小箱は確かに俺好みのデザインだ。

「うん、好き!カイこういうの興味なさそうなのによくわかったね?」
「別に……ただ、少しは元気でんじゃねえかって」

 目を逸らしながら、つぶやく言葉にカイの気遣いを感じる。受け取った小箱から取り出したキャンディは透き通っていてとても綺麗だった。ガラス玉みたいなそれを一つ口に入れると優しくて上品な甘さが広がる。体はちょっと疲れてるけど、心は元気になった俺はカイとともにパーティの余韻を楽しんだ。

 ◇◇

「"社交好き"で有名なあなたが、あんな贈り物をするだなんてね」

 パーティ会場の中心、その一番大きなテーブルの前で今日の主役、クリスフィアは美しい顔に微笑みを浮かべ、そう語りかけた。

「……流石はクリスフィア様、博識でいらっしゃる」

 その言葉に対面の真紅の瞳が優美な弧を描く。

「経験が豊富な貴方には、過ぎた言葉かもしれないけれど……あまり重いと嫌われるわよ」
「ご忠告いたみいります。そう言われたのは初めてです」

 ヘラヘラと甘く軽い声で答えるジンを呆れたように見つめるクリスフィアは笑顔を崩さずにそっと彼との心の距離を置く。完璧な所作で動かした彼女の視線の先には今日知り合った春薔薇色の髪の少年。彼の髪を彩る、吸血鬼の真祖の一族が管理してる土地でのみ採掘できる、月の血の名を冠するルビーのはまった髪飾り。手広く遊ぶ癖に誰とも深い仲にならないと噂の目の前の男が贈るにしては、これは、あまりに重い。

「知らない方がいいこともあるわよね」

 鈴を転がすようなその言葉は、人形のように美しい彼女の口の中にとどまり、誰に聞かれることはなかった。
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