51 / 76
2年2学期
51話: お誕生日会にご招待⑥
しおりを挟む
クリスフィアさんの誕生日会の翌日、少し窮屈な感覚を覚えながら俺は目を覚ました。
「あれ?俺正装着たまま寝てた……?」
昨日の誕生日会から帰り道の記憶がない。もしかしてカイが送ってくれたのかも?今日学校でカイに聞いてみようかな。
そんな事を考えつつ、俺は少しガタつく体を引きずってシャワーを浴びる。正装のまま寝たせいで凝った体に温かいお湯が沁みた。バスルームから出て、タオルで髪を拭きつつ、俺は机の上にある錠剤の瓶を掴む。中から取り出した薬を口に入れる前、ほんの少し躊躇うけど、この時期は仕方ないよね。着替えてる間に効いてきた薬がもたらすほんの少しの眠気を抱えて、俺は朝食を食べ学校に向かった。
◇
今日の授業はペア授業だ。俺はルカと授業の準備をしながら昨日参加した誕生日会の話をする。
「それでね、クリスフィアさんがね……」
「……」
ルカは無口だけど、無愛想ってわけじゃない。俺の話に洒落た言葉を返したりはしないけど、今もずっと俺の目を見て真剣に話を聞いてくれる。そういうところが居心地良くて俺は結構ルカと話すのが好き。そうして色々話してる内に俺はあるとんでもない事実に気がつく。
(俺、ルカの誕生日知らない……)
仲良くなって1年経つのにこんな重大な見落としがあったなんて……自慢じゃないけど俺は友達の誕生祝いを欠かした事がない。仕送りのお小遣いと短期バイトの使い道の大半がこういう事のための費用だ。なのに、言い訳になっちゃうけど……ルカと誕生日のイメージがあまりにも結びつかなくて、今の今まで話題に出す事がなかった。時期的に過ぎてる可能性が高いけど奇跡的に3月末とかならまだ間に合うし、過ぎてても後からごめんって渡そう、そう思って
「る……ルカって誕生日いつ?」
って聞いてみたんだけど
「……覚えてない」
なんて事ない調子で、とんでもない返事が返ってきたから俺は言葉を失った。
「えっ?それって……どういう」
「……誕生日ってなんに使うの?」
「あ……」
ルカから心底不思議そうな顔で尋ねられ、俺は悟る。おそらくルカは一度も誕生日を祝われる事がなかったということを。冬月祭のプレゼント交換も初めてだって言ってたから予想できないことではないのかもしれないけど、それはあまりに悲しい事実だった。勝手に悲しむのも失礼かと思ったけど、思うのは止められない。
「学生証見せて?そこに載ってるから……あ、4月なんだね。春生まれなんだ!去年渡せなかった分奮発するから楽しみにしてて?」
見せてもらった学生証の無機質な印字をなぞりながら、俺はルカに笑いかける。
「……わかった……?」
ルカは、俺の言ってる意味がよくわかってないみたいだけど返事をしてくれた。その素直な姿に心が苦しくなる。ルカの家族ってどんな人なんだろう。物語では常に悪役として描かれる邪竜。竜族にごく稀に生まれる異端とは聞くけど、本当にそんなに悪い存在なのかな?ルカを見てると少なくとも俺はそう思えない。子供の誕生日すら祝ってくれない親ってどういうことなんだろう。そんな考えが頭の中をぐるぐるして俺はつい
「ルカの……家族って……」
と思ったことを口にしていた。俺は自分で吐いた言葉が耳に入った瞬間まずいって思ったけど
「……親と弟……がいる」
ルカは感情のこもってない目で何かを思い出すように答えてくれた。
「お、弟……いるんだ」
聞いたくせに、なんて答えていいのかわからなくて、俺は一番無難そうな言葉を聞き返す。
「……どんな子?ルカに似てる?」
「………………俺より弱い」
最強の魔力を持つルカのその回答は、世界中の人に当てはまる事なので弟君の特徴は全く特定できない。でもそれ以上突っ込んだ事を聞いていいのか悩んでいるうちに授業が始まり、全てが曖昧なままこの話は終わってしまう。春の訪れ、俺にとって少し憂鬱な季節が終わるまでまだもう少しかかりそうだった。
「あれ?俺正装着たまま寝てた……?」
昨日の誕生日会から帰り道の記憶がない。もしかしてカイが送ってくれたのかも?今日学校でカイに聞いてみようかな。
そんな事を考えつつ、俺は少しガタつく体を引きずってシャワーを浴びる。正装のまま寝たせいで凝った体に温かいお湯が沁みた。バスルームから出て、タオルで髪を拭きつつ、俺は机の上にある錠剤の瓶を掴む。中から取り出した薬を口に入れる前、ほんの少し躊躇うけど、この時期は仕方ないよね。着替えてる間に効いてきた薬がもたらすほんの少しの眠気を抱えて、俺は朝食を食べ学校に向かった。
◇
今日の授業はペア授業だ。俺はルカと授業の準備をしながら昨日参加した誕生日会の話をする。
「それでね、クリスフィアさんがね……」
「……」
ルカは無口だけど、無愛想ってわけじゃない。俺の話に洒落た言葉を返したりはしないけど、今もずっと俺の目を見て真剣に話を聞いてくれる。そういうところが居心地良くて俺は結構ルカと話すのが好き。そうして色々話してる内に俺はあるとんでもない事実に気がつく。
(俺、ルカの誕生日知らない……)
仲良くなって1年経つのにこんな重大な見落としがあったなんて……自慢じゃないけど俺は友達の誕生祝いを欠かした事がない。仕送りのお小遣いと短期バイトの使い道の大半がこういう事のための費用だ。なのに、言い訳になっちゃうけど……ルカと誕生日のイメージがあまりにも結びつかなくて、今の今まで話題に出す事がなかった。時期的に過ぎてる可能性が高いけど奇跡的に3月末とかならまだ間に合うし、過ぎてても後からごめんって渡そう、そう思って
「る……ルカって誕生日いつ?」
って聞いてみたんだけど
「……覚えてない」
なんて事ない調子で、とんでもない返事が返ってきたから俺は言葉を失った。
「えっ?それって……どういう」
「……誕生日ってなんに使うの?」
「あ……」
ルカから心底不思議そうな顔で尋ねられ、俺は悟る。おそらくルカは一度も誕生日を祝われる事がなかったということを。冬月祭のプレゼント交換も初めてだって言ってたから予想できないことではないのかもしれないけど、それはあまりに悲しい事実だった。勝手に悲しむのも失礼かと思ったけど、思うのは止められない。
「学生証見せて?そこに載ってるから……あ、4月なんだね。春生まれなんだ!去年渡せなかった分奮発するから楽しみにしてて?」
見せてもらった学生証の無機質な印字をなぞりながら、俺はルカに笑いかける。
「……わかった……?」
ルカは、俺の言ってる意味がよくわかってないみたいだけど返事をしてくれた。その素直な姿に心が苦しくなる。ルカの家族ってどんな人なんだろう。物語では常に悪役として描かれる邪竜。竜族にごく稀に生まれる異端とは聞くけど、本当にそんなに悪い存在なのかな?ルカを見てると少なくとも俺はそう思えない。子供の誕生日すら祝ってくれない親ってどういうことなんだろう。そんな考えが頭の中をぐるぐるして俺はつい
「ルカの……家族って……」
と思ったことを口にしていた。俺は自分で吐いた言葉が耳に入った瞬間まずいって思ったけど
「……親と弟……がいる」
ルカは感情のこもってない目で何かを思い出すように答えてくれた。
「お、弟……いるんだ」
聞いたくせに、なんて答えていいのかわからなくて、俺は一番無難そうな言葉を聞き返す。
「……どんな子?ルカに似てる?」
「………………俺より弱い」
最強の魔力を持つルカのその回答は、世界中の人に当てはまる事なので弟君の特徴は全く特定できない。でもそれ以上突っ込んだ事を聞いていいのか悩んでいるうちに授業が始まり、全てが曖昧なままこの話は終わってしまう。春の訪れ、俺にとって少し憂鬱な季節が終わるまでまだもう少しかかりそうだった。
0
あなたにおすすめの小説
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
先輩たちの心の声に翻弄されています!
七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。
ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。
最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。
乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。
見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。
****
三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。
ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は未定
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
・本格的に嫌われ始めるのは2章から
α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。
宵のうさぎ
BL
異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。
しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。
漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。
「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」
え、後天的Ω?ビッチング!?
「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」
この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!
騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる