地味令嬢の私ですが、王太子に見初められたので、元婚約者様からの復縁はお断りします

有賀冬馬

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ヴィルヘルム様の没落は、あっという間だった。セシリア様の実家の不正が明るみに出たことで、公爵家は王家から厳しく追及された。ヴィルヘルム様は公爵位を剥奪され、財産はほとんど没収されてしまったらしい。

社交界では、その話題で持ちきりだった。

「公爵様も、まさかあんな女性に騙されるなんてね」

「マリアンヌ様と婚約をしていれば、こんなことにはならなかったのに」

そんな声が聞こえてきたけれど、私はもう、何も感じなかった。ただ、新しい自分として、毎日を精一杯生きていた。ルイス様との未来を夢見て、一日一日を大切に過ごしていたのだ。

そんなある日のこと。私は、お父様から呼ばれて書斎へ向かった。書斎の扉を開けると、そこには、信じられない人物が立っていた。

ヴィルヘルム様だった。

彼の顔は、やつれていて、服もよれよれだった。以前の、威厳と傲慢さに満ちた彼は、どこにもいなかった。まるで、別人のようだった。

「マリアンヌ……」

彼は、私を見ると、今にも泣き出しそうな顔で、私の名前を呼んだ。

「お久しぶりでございます、ヴィルヘルム様」

私は、ただ静かに、そう答えた。

「マリアンヌ! 頼む! 君に会いたかったんだ!」

彼は、私に駆け寄ろうとした。その足取りは、どこかよろめいていた。

「お下がりください、ヴィルヘルム様。私に何の御用でしょうか」

私は、一歩下がって、彼から距離を取った。

「頼む、マリアンヌ! もう一度、私とやり直してくれないか?」

彼の言葉に、私は耳を疑った。やり直す? 何を?

「何を言っていらっしゃるのですか、ヴィルヘルム様。私たちは、すでに他人ですわ」

「違う! 違うんだ! セシリアは、私を裏切った! 彼女は、私の財産を食い潰し、私の家を破滅に追い込んだんだ! 私は、君のことが……君のことが忘れられなかったんだ!」

彼の目から、涙がこぼれ落ちた。私は、彼のその情けない姿を見て、心がざわついた。でも、それは同情ではなかった。ただ、ただ、彼が哀れだった。

「あなたの仰ることは、よくわかりませんわ。あなたは、私を『凡庸』だと言って捨てたではありませんか。公爵家の妻にふさわしくないと、私を嘲笑ったではありませんか」

私の言葉に、彼は顔を歪ませた。

「あれは……あれは間違いだった! 私は、愚かだった! 君こそが、私にとって、一番大切な存在だったんだ!」

彼は、泣きながら私の手を握ろうとした。私は、その手をさっと避けた。彼の手に触れることすら、もう私には耐えられなかった。

「もう遅いのですわ、ヴィルヘルム様」

私は、冷たい声でそう言った。

「遅い……? 何を言っているんだ! 私と君は、婚約者だったんだぞ!」

「いいえ。あなたは、私を捨てた。そして、あなたに捨てられたおかげで、私は本当の愛を得ることができたのですわ」

私の言葉に、ヴィルヘルム様は目を見開いた。

「本物の愛……?」

そのとき、書斎の扉が静かに開いた。そこに立っていたのは、ルイス様だった。彼は、私のそばに立ち、その瞳は、怒りに満ちていた。

「君は、マリアンヌに何をしている」

ルイス様が、静かに、だが威圧感のある声で言った。ヴィルヘルム様は、ルイス様の姿を見て、顔を真っ青にした。

「王太子……殿下……?」

彼は、震える声でつぶやいた。

「私は、マリアンヌを愛している。そして、マリアンヌも、私を愛してくれている。君が、彼女を『凡庸』だと見下している間に、私は、彼女の真の価値を見出した」

ルイス様は、そう言って、私の肩を抱き寄せた。私は、彼の腕の中にいることが、何よりも安心だった。

「君は、マリアンヌにふさわしくない。そして、君の犯した罪は、もう償うことができない」

ルイス様の言葉に、ヴィルヘルム様は膝から崩れ落ちた。

「お許しください! 殿下! 私は……!」

「国外追放とする」

ルイス様の言葉は、冷たく、そして、きっぱりとしていた。

「二度と、この国の土を踏むことは許さない。そして、二度と、マリアンヌの前に現れるな」

ヴィルヘルム様は、絶望の叫びを上げた。彼の顔には、もう何も残っていなかった。彼は、全てを失った。

ヴィルヘルム様は、ルイス様の部下に連行されていった。
私は、彼の姿が完全に見えなくなるまで、ただ黙って見ていた。

そして、私は、ルイス様の腕の中で、静かに涙を流した。それは、悲しい涙ではなかった。ようやく、過去から解放された、安堵の涙だった。

「もう大丈夫だ、マリアンヌ」

ルイス様は、私の頭を優しく撫でてくれた。

「はい……。私、本当に、幸せですわ」

私は、ルイス様の胸に顔を埋めた。ヴィルヘルム様という存在は、私にとって、もう過去のものになった。私を捨てた男への復讐は、もう終わったのだ。

その後、ルイス様は、正式に私を王太子妃として迎えると発表した。社交界は、驚きと祝福の声に満ち溢れた。

「やっぱり、マリアンヌ様は、王太子殿下にお似合いだわ」

「地味で冴えないだなんて、とんでもない。あの方は、真の美しさを持っていらっしゃる」

そんな言葉が、私を祝福してくれた。私は、もう、周囲の言葉に心を揺らしたりはしない。なぜなら、私の価値は、ルイス様が知っていてくれるからだ。

「マリアンヌ。私の永遠の愛を誓うよ」

結婚式の日、ルイス様は私の手を取り、そう言ってくれた。

「私も、ルイス様を心から愛していますわ」

私は、ルイス様との幸せな未来を掴み取った。

あの夜、ヴィルヘルム様という男に選ばれなかったおかげで、私は、人生で一番大切な人に出会うことができた。私は、ヴィルヘルム様が私を捨ててくれたことに、心から感謝していた。

あなたに選ばれなかったおかげで、私は本物の愛を得られましたわ。
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