地味令嬢の私ですが、王太子に見初められたので、元婚約者様からの復縁はお断りします

有賀冬馬

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ルイス様の計らいで、私は以前とは比べものにならないほど、自信に満ちた女性へと変わっていった。毎日が楽しくて仕方がなかった。社交界の教師からは、さまざまな知識やマナーを教わり、ドレスや宝石の選び方も学んだ。

「マリアンヌ様は、もともと美しい方です。ただ、その美しさを隠してしまっていただけですわ」

ドレスの仕立て屋さんがそう言ってくれるたびに、私は照れくさくなった。

「本当に、ルイス様には感謝してもしきれないわ」

私は鏡の中の自分を見て、そうつぶやいた。そこにいるのは、以前の地味で冴えない私ではなかった。しなやかな姿勢、洗練された笑顔、そして、瞳には確かな輝きが宿っていた。

そんなある日、王宮で大きな夜会が開かれることになった。ルイス様も出席されるという。私は、ルイス様が特別に選んでくださった、夜空のように深い青のドレスを身につけた。胸元には、小さな星屑のようなダイヤモンドの装飾が施されていて、動くたびにきらきらと光を放つ。

「マリアンヌ様、本当に素晴らしいですわ」

メイドが感嘆の声を上げる。私も、鏡の中の自分を見て、胸が高鳴った。

王宮の広間は、いつにもまして華やかだった。私はルイス様の隣に立ち、人々と挨拶を交わした。誰もが、以前の私を知っているはずなのに、私を見て驚き、そして、どこか羨望の眼差しを向けてくる。

「まあ、エマーソン子爵令嬢ですって? 見違えるほど素敵になられたわ」

「公爵様に捨てられたと聞いたけど、とんだ噂だったのね。むしろ、公爵様は彼女を失って後悔しているんじゃないかしら」

そんな声が、私の耳に届く。以前なら、また陰口を叩かれていると悲しくなっただろう。でも、今の私は違った。私は、ただ微笑んで、堂々と頭を下げた。

その夜会の途中、私は彼らと再会した。ヴィルヘルム様と、彼の隣にいるセシリア様だ。二人は、人々に囲まれて、楽しそうに談笑していた。でも、その笑顔は、どこかぎこちないように見えた。

ヴィルヘルム様が、ふと私に気づいた。彼の瞳が、大きく見開かれるのがわかった。彼は、まるで幽霊でも見たかのように、その場に立ちすくんでしまった。

「ヴィルヘルム様……?」

セシリア様が、不思議そうに彼の顔を覗き込む。彼女の瞳は、以前の自信に満ちた輝きを失い、どこか不安げな光を宿していた。

「あ、ああ……セシリア、あれは……」
「あら、マリアンヌ様ではありませんか。ずいぶんお変わりになりましたわね」

セシリア様はそう言って、私に微笑みかけた。でも、その微笑みは、以前のようにはっきりとしたものではなく、どこか作り物のようだった。

「ごきげんよう、セシリア様」

私は、優雅に頭を下げた。すると、ヴィルヘルム様が、私に一歩近づいてきた。

「マリアンヌ……なのか……?」

彼の声は、ひどく震えていた。私は、彼の瞳をまっすぐに見つめ返した。そこには、戸惑いと、少しの後悔の色が見て取れた。

「はい、ヴィルヘルム様。お久しぶりでございます」
「君は……どうして……」
「どうして、とは、どういう意味でしょうか。私は、あなたに捨てられて、ようやく本当の自分を見つけることができたのですわ」

私の言葉に、ヴィルヘルム様はぐっと息をのんだ。彼の顔が、青ざめていくのがわかった。

「……君は、変わったな。以前の、地味で冴えない君ではない」

「おっしゃる通りですわ。あなたに『凡庸』だと言われたおかげで、私は変わることができました。感謝しております」

私は、心にもない言葉を口にした。本当は、感謝なんてしていない。ただ、ヴィルヘルム様が戸惑う姿を見て、ほんの少しだけ、胸がすっとしただけだ。

「マリアンヌ様、ヴィルヘルム様との再会、おめでとうございます」

セシリア様が、不自然に明るい声で口を挟んだ。

「セシリア様も、お幸せそうで何よりですわ」

私がそう言うと、セシリア様の表情が、一瞬だけ曇ったように見えた。

「ええ、もちろん……。でも、最近はヴィルヘルム様のことで、いろいろと大変で……」

セシリア様は、そう言って、ヴィルヘルム様の方をちらりと見た。その瞳には、彼への不満と、どうしようもない苛立ちが混じり合っていた。

「セシリア! やめなさい」

ヴィルヘルム様が、鋭い声でセシリア様をたしなめた。

「あら、ごめんなさい、ヴィルヘルム様。でも、マリアンヌ様には、公爵家の現状をお伝えしておいた方が、親切かと思いまして」

セシリア様は、私にだけ聞こえるように、少し声を落として言った。

「実は、ヴィルヘルム様がわたくしに贈ってくださった宝石が、すべて偽物だったことがわかってしまいまして……。それに、お父様が公爵様と手を組んで、王宮内の財政を不正に操作していたことも、どうやら王太子殿下の耳に入ってしまったようで……」

私は、セシリア様の言葉を聞いて、内心驚きを隠せなかった。ヴィルヘルム様は、セシリア様の浪費に悩まされていると思っていたけれど、まさか、そこまで事態が悪化していたとは。

「セシリア! 余計なことを話すな!」

ヴィルヘルム様は、顔を真っ赤にして叫んだ。その様子は、以前の威厳のある彼とはかけ離れていて、私は少しだけ、憐れんだ。

「まあ、ヴィルヘルム様。そんなに怒らないでくださいな。マリアンヌ様はもう、あなたとは関係のない方なのですから」

セシリア様は、挑発するように言った。その言葉に、ヴィルヘルム様は何も言い返すことができず、ただ悔しそうに唇を噛み締めていた。

私は、もうこれ以上、彼らと話す必要はないと感じた。

「では、私はこれで失礼いたしますわ」

私は、二人に優雅にお辞儀をし、その場を離れた。私の心は、驚くほど穏やかだった。

ヴィルヘルム様とセシリア様が、どんな状況になろうと、もう私の知ったことではない。私の人生は、もう過去のものではなく、未来へと向かっているのだ。



その後、社交界では、ヴィルヘルム様とセシリア様に関する悪い噂が、瞬く間に広まっていった。
セシリア様が、公爵家の財産を食い潰し、その上、彼女の父が公爵家と共謀して不正を働いていたこと。そして、その不正の証拠を、王太子殿下が掴んだという噂。

「公爵家は、もう終わりね」

「あの高慢なヴィルヘルム様が、爵位を剥奪されるなんて……」

そんな噂話を聞くたびに、私は、ただ静かに微笑んだ。ヴィルヘルム様は、私を「凡庸」だと見下した。でも、本当に「凡庸」だったのは、彼の心だったのかもしれない。人の価値を、家柄や外見でしか判断できない、彼の心が。

私は、ルイス様の隣にいた。ルイス様は、いつも私を優しく見守ってくれる。彼が私にくれたのは、ただの愛ではない。私という存在を、心から大切にしてくれる、本物の愛だった。

「マリアンヌ、君は本当に美しくなった」

ルイス様がそう言って、私の頬にそっと触れた。

「それは、ルイス様が私に光をくれたからですわ」

私は、ルイス様の瞳を見つめて答えた。

「ああ、私も君のおかげで、真の愛を見つけることができた。君は、私にとって、かけがえのない存在だ」

ルイス様の言葉に、私の胸は温かくなった。ヴィルヘルム様を想って泣いていた過去の私に、教えてあげたい。あなたが求めていた愛は、こんなにも近くにあったのだと。

ヴィルヘルム様が没落し、公爵家が危機に瀕していることなど、もう私には関係ない。私の心は、新しい未来へと向かって、まっすぐに進んでいた。そして、その道は、ルイス様が、私に示してくれた道なのだ。
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