悪役令嬢の私が婚約破棄?いいでしょう。どうなるか見ていなさい!

有賀冬馬

文字の大きさ
3 / 10

舞踏会にて

しおりを挟む
翌週の舞踏会。

私は出ようかやめようか、迷ったのだが、出席で返事をしてしまっていたため、今更キャンセルするのもばかばかしいと思い、出ることにした。

案の定、私がシレクサ子爵に婚約破棄を言い渡されたことは、もうすでに宮廷中に知れ渡っているらしかった。
おそらく、子爵があちこちで行って回ったのだろう。

これまでは、鬱陶しいくらいに私の周りに侍っていた下級貴族たちも、今日はいっさい話しかけてこない。

下級騎士や資本家といった、貴族以外の参加者もどこかよそよそしい。

まるで集団で無視をされているかのようだった。

当然、踊りを踊ってくれる相手もいなくているはずもない。
 私は一人でホールの壁に寄りかかっていた。 

その時、派手なドレスを身にまとった貴族の女性が私に近づいてきた。

そして、私に向かってこう言ったのだ。

「ああ、飲み過ぎちゃったわ。ねえそこのあなた、お水を持ってきてくださらない?冷たいのをね」

は?

私は耳を疑った。はじめはまさかそれが自分に向かって言われた言葉だとは思わなかった。 

しかし彼女ははっきりと私の方を向いてそう言ったのだ。

「お水が欲しいのでしたら、あちらにいるメイドに言いつけてはいかがでしょう」

私がそう言うと、彼女は嘲るような笑みを浮かべて言い放った。

「あら、ごめんなさい。あんまりメイドと仲良くされているものだから、メイドと間違えてしまいましたわ」

私はそれを聞いて歯噛みした。
そういえば、この女は見覚えがある。
ぱっとしない中級貴族の娘で、今までは私に媚びへつらうような態度をとっていた女だ。
存在感がなかったので、すっかり忘れていた。

女はさらに続けた。

「でも構わないわよね。メイドもあなたも、似たようなものでしょう。ほら、お水を持ってきてちょうだい」

私が、その女に頭から水をぶっかけてやろうかと思ったその時、会場が大きくざわめくのがわかった。

「ヒロエ王子だ!」

「王子殿下がおいでになられたぞ!」

ホールの入り口から人垣が左右に割れた。
その向こうにヒロエ王子の姿がある。

みながヒロエ王子に注目する。
彼は人の注目を集めるカリスマがあるのだ。 誰もが憧れと羨望の眼差しを持って彼を見つめる。

「王子、ご機嫌麗しゅうございますわ」

「是非こちらへ、今日はおいでくださいましてありがとうございます」

王子が会場の中に入ると、人々が一斉に王子の所へと殺到した。

我先にと王子に挨拶するために群がる人々で、王子の周りにはたちまち人だかりができた。

ヒロエ王子は、手慣れた様子でそれらに対応しながら、歩みを止めることはない。

人々を引き連れるようにしながら、こちらへと歩いてくる。

「ヒロエ王子……」

私に絡んできた派手なドレスの女が慌てて道を空ける。

王子は私の正面に立ち、恭しく膝をついた。

周囲がざわつく。

「美しいお嬢様、私と踊ってはくださいませんか」

さらに驚きの声が上がる。

宮廷のアイドルと言っても過言ではないヒロエ王子が、転落したばかりの悪役令嬢にダンスを申し込んだのだ。

「申し訳ございません。ちょっと気分がすぐれませんの。ダンスはご遠慮いたしますわ」

私は正直に答えた。

周りから、「なにっ……」「なんと無礼な」「もったいない……」といったような声が聞こえる。

王子は気分を害した様子もなく、立ち上がり、言った。

「それは良くない。テラスへ出て、風にあたりましょう」

王子は手を差し出してくる。私はその手をとる。

続けて、王子は言う。

「いま、冷たい水を持ってこさせます。……ああ、そこの君。彼女に、冷たい水を持ってきてくれたまえ」

王子は振り返り、先ほどまで私と話していた派手なドレスの女にそう言ったのだった。

「え……」

女は驚き、すぐには反応できなかった。

「さあ」

王子が急かす。

女は、真っ赤になってぷるぷる震えながら、私のために水を取りに走り去った。

テラスへ向かいながら、王子が私に片目を閉じて見せる。

哀れな女に、私はため息をついた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

【完結】マザコンな婚約者はいりません

たなまき
恋愛
伯爵令嬢シェリーは、婚約者である侯爵子息デューイと、その母親である侯爵夫人に長年虐げられてきた。 貴族学校に通うシェリーは、昼時の食堂でデューイに婚約破棄を告げられる。 その内容は、シェリーは自分の婚約者にふさわしくない、あらたな婚約者に子爵令嬢ヴィオラをむかえるというものだった。 デューイはヴィオラこそが次期侯爵夫人にふさわしいと言うが、その発言にシェリーは疑問を覚える。 デューイは侯爵家の跡継ぎではない。シェリーの家へ婿入りするための婚約だったはずだ。 だが、話を聞かないデューイにその発言の真意を確認することはできなかった。 婚約破棄によって、シェリーは人生に希望を抱きはじめる。 周囲の人々との関係にも変化があらわれる。 他サイトでも掲載しています。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

処理中です...