地味子と蔑まれた私ですが、公爵様と結ばれることになりましたので、もうあなたに用はありません

有賀冬馬

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私、エミリア・フォン・グロースターは、侯爵家の三女として生まれた。

姉様たちは、まるで絵画から抜け出してきたかのような美貌の持ち主で、社交界の華としていつも注目の的だ。でも、私は違う。

「エミリア、またそんな地味な色のドレスを着て。侯爵家の娘らしくないわよ」

母様はため息交じりにそう言う。鏡に映る私は、確かに地味だ。栗色の髪も、そばかすの浮いた肌も、どこかぼんやりとした印象を与えている。華やかな姉様たちの隣に立つと、私はまるで背景のようだった。

「地味子、地味子」

使用人たちの陰口も、もう慣れっこだ。私はただ、本を読んだり、庭の花を眺めたりして過ごすのが好きだった。社交界のきらびやかな世界よりも、静かな時間が私には合っていたのだ。

そんな私の人生に、たったひとつの光があった。

それが、私の婚約者であるアレクサンダー・フォン・エルウィン様だ。

アレク様は、子爵家の御曹司で、すらりとした長身に、切れ長の目が魅力的な、とても素敵な人。姉様たちからも「どうしてあんな地味な子と?」と不思議がられるほどだった。

「エミリア、今日の君も素敵だよ」

アレク様はいつもそう言ってくれる。それが社交辞令だと知っていても、彼の優しい言葉が私の心を暖めてくれた。私は、アレク様と結婚して、幸せな家庭を築くことを夢見ていた。

でも、最近のアレク様は少し冷たかった。

「エミリア、その…もっと、こう、社交的になってくれないか?」

いつものように庭で読書をしていると、アレク様が眉をひそめて言った。

「私、社交は苦手で…」

「侯爵家の令嬢として、それは困る。君がもっと華やかになってくれれば、僕ももっと出世できるのに」

彼の口から出た言葉は、私の胸を鋭く突き刺した。出世。そう、アレク様は私を踏み台にしているのだと、薄々気づいてはいた。でも、私は彼のことを信じたかった。

ある日のこと、私は偶然、姉様たちの会話を聞いてしまった。

「アレクサンダー様、最近は公爵家のカミーユ様とばかりお会いになっているらしいわよ」

「まぁ、あの美しくて才気溢れるカミーユ様と? エミリアったら、もう用済みってことじゃない?」

「ふふ、アレクサンダー様も、地味なエミリアじゃ出世は望めないものね」

私の胸は、凍りついた。アレク様が私を裏切っている。いや、最初から私を見てなどいなかったのかもしれない。

その夜、私はアレク様を訪ねた。

「アレク様…」

「ああ、エミリアか。ちょうどよかった。君に話したいことがあったんだ」

アレク様の顔は、いつもと違って、どこか冷たい。

「…私、姉様たちの会話を聞いてしまいました。カミーユ様のこと…」

私の言葉に、アレク様は顔色ひとつ変えずに言った。

「その通りだ。エミリア、君との婚約を破棄させてもらう」

私の世界は、音を立てて崩れ去った。

「な、どうして…」

「理由なんて明白だろう。君は侯爵家の令嬢でありながら、社交界にも出ず、何の役にも立たない。僕の出世の足かせにしかならないんだ」

アレク様の目は、私を真っ直ぐに見据えていたが、そこには何の感情も宿っていなかった。まるで、不要になった道具を捨てるかのように、淡々と告げられた。

「…っ、アレク様! 私、頑張ります! もっと、もっと華やかになってみせますから!」

私は必死に懇願した。でも、彼の心にはもう届かない。

「もう遅いんだ、エミリア。それに、君がどんなに努力したところで、カミーユ様には敵わない」

アレク様の言葉は、私の心をズタズタにした。私の一年にも及ぶ片想いは、あっけなく終わりを告げたのだ。

婚約破棄を告げられた翌日、侯爵家からも私への態度は一変した。

「エミリア、お前は侯爵家の恥だ」

父様は私を冷たい目で見て、そう言った。

「アレクサンダー様との婚約が破棄になった今、お前をここに置いておくわけにはいかない」

「…そんな、どこへ行けば…」

「知るか。好きなところへ行け。ただし、二度と侯爵家を名乗るな」

私は家を追い出された。持たされたのは、ほんのわずかなお金と、小さなカバンだけ。

「地味子のくせに、アレク様を射止められなかったのね」

「ほんと、使えない」

姉様たちの冷たい視線が、私に突き刺さる。私は、何も言えなかった。ただ、涙をこぼすことしかできなかった。

侯爵家を後にし、私は一人、あてもなく歩き始めた。

見慣れた街並みが、遠ざかっていく。私は、もう、侯爵令嬢エミリアではない。

私は、一体誰なのだろう。どこへ行けばいいのだろう。

途方に暮れながら、私は歩き続けた。私の心は、凍えるように冷たかった。

アレク様の裏切り。家族からの見放し。

私の人生は、もう終わってしまった。そう思っていた。

でも、これが私の新しい人生の始まりだとは、この時の私は知る由もなかったのだ。






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