地味子と蔑まれた私ですが、公爵様と結ばれることになりましたので、もうあなたに用はありません

有賀冬馬

文字の大きさ
4 / 4

しおりを挟む
帝都で最も華やかな大舞踏会の日がやってきた。

私は、セイラン様が選んでくださった、夜空のような深い青色のドレスを身につけていた。胸元には繊細なレースがあしらわれ、スカートは幾重にも重なったフリルで、まるで波のように揺れる。髪は、セイラン様専属の美容師さんが、きらめく宝石を散りばめて、美しく結い上げてくれた。

鏡に映る自分を見て、私は息をのんだ。そこにいたのは、かつての「地味子」エミリアではなかった。自信に満ちた瞳と、穏やかな微笑みをたたえた、まるで別人のような私がいたのだ。

「エミリア嬢、準備はよろしいですか?」

セイラン様が、私の部屋の扉をノックした。彼の声を聞くと、私の胸は高鳴る。

「はい、セイラン様」

私が扉を開けると、セイラン様はハッと息をのんだように見えた。彼の瞳が、私をまっすぐに見つめる。

「……息をのむほど美しい。まるで、夜空に輝く星のようだ」

セイラン様の言葉に、私の頬は熱くなった。こんなにもストレートに褒められたのは初めてだった。

「ありがとうございます、セイラン様。これも、セイラン様のおかげです」

私は、彼の差し出した手を取った。彼の指は、温かくて、私の心を落ち着かせてくれる。

大舞踏会の会場は、まばゆいばかりの光に満ちていた。豪華なシャンデリアが輝き、色とりどりのドレスをまとった貴族たちが、楽しそうに談笑している。

セイラン様のエスコートで、私が会場に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが起こった。

「あれは……誰だ?」

「なんて美しい方なの! まるで、女神のようだわ!」

視線が、私に集中する。私は少し緊張したけれど、セイラン様が私の手をぎゅっと握ってくれたので、安心できた。

そして、そのざわめきの中に、聞き覚えのある声が混じっていた。

「な、なぜ……エミリアが……!?」

その声の主は、アレク様だった。彼は、公爵令嬢カミーユ様の隣に立っていた。私を見たアレク様の顔は、驚きと焦りで歪んでいた。カミーユ様もまた、信じられないものを見るかのように、私を凝視している。

「嘘でしょう……あの地味なエミリアが……あんなに美しくなるなんて……」

カミーユ様の呟きが、私の耳に届いた。

私は、彼らの視線から逃げることなく、まっすぐ前を向いた。もう、怯える私ではない。

セイラン様は、私を会場の中央へと導いてくれた。私たちは、優雅にワルツを踊った。セイラン様のリードは完璧で、私は彼の腕の中で、まるで宙を舞っているかのような気分だった。

「エミリア嬢、楽しんでいますか?」

セイラン様が、私の耳元で優しく囁いた。

「はい、セイラン様。こんなに楽しい舞踏会は初めてです」

私は心からそう答えた。本当に、そうだったのだ。私は今まで、舞踏会というものを楽しんだことがなかった。でも今は、こんなにも楽しい。彼の温かい眼差しが、私を包み込む。

ワルツが終わると、アレク様が、まるで吸い寄せられるように私の元へやってきた。彼の顔は、青ざめていた。

「エミリア……なのか? まさか、本当に君なのか?」

アレク様は、信じられないという表情で、私の顔を覗き込んだ。

「ええ、アレクサンダー様。お久しぶりでございます」

私は、冷たく、しかし毅然とした声で答えた。

「ま、まさか……君がこんなに美しくなるなんて……」

アレク様は、言葉を失っているようだった。隣にいたカミーユ様も、悔しそうに唇を噛んでいる。

「エミリア! 君は、僕のことを許してくれるのか!? あの時のことは、僕が悪かった! 君を傷つけてしまったことを、心から後悔している!」

アレク様は、私の手を掴もうとした。しかし、その手はセイラン様によって、すっと払われた。

「私のエスコート相手に、無礼な真似はよしていただきたい」

セイラン様の声は、低く、冷たかった。アレク様は、セイラン様の威圧感に、たじろいだ。

「セイラン公爵……!?」

アレク様は、セイラン様の存在に気づいていなかったようだ。彼は、セイラン様が帝国一の名家・レーヴェ家の当主の孫であるということを知っているはずだ。

「エミリア、頼む! もう一度、僕とやり直してくれないか!? 君がいなくなってから、僕の人生はめちゃくちゃだ! 君こそが、僕の隣に立つべき女性だったんだ!」

アレク様は、必死に私に懇願した。彼の目には、焦りと、そして後悔の色が浮かんでいた。かつて私を冷酷に切り捨てた彼が、今、私の前で必死に頭を下げている。

私は、静かにアレク様を見つめた。あの時、私をどん底に突き落とした彼の言葉が、脳裏をよぎる。

『もう遅いんだ、エミリア。それに、君がどんなに努力したところで、カミーユ様には敵わない』

あの時の、彼の冷たい声。私の心は、もう彼に揺らぐことはない。

「アレクサンダー様」

私は、はっきりと、そして穏やかな声で言った。

「私は、もうあなたの隣に立つことはできません」

アレク様の顔から、血の気が引いていく。

「な、なぜだ!? 君は、僕の婚約者だったんだぞ!」

「いいえ。私は、あなたの『飾り』ではありませんでした」

私は、アレク様の目をまっすぐに見つめた。

「あなたは、私を『出世のための踏み台』としか見ていなかった。そして、より見栄えのする『飾り』を見つけたから、私を捨てたのでしょう?」

私の言葉に、アレク様は何も言い返すことができない。カミーユ様も、顔を真っ赤にして俯いている。

「私があなたの隣に立つには、小さすぎたのですよ、……あなたが」

私は、そう告げた。それは、かつての私を否定し、今の私を肯定する言葉だった。あなたの器が小さすぎて、私の本当の価値に気づけなかったのだ、と。

アレク様は、その場に立ち尽くし、呆然としていた。彼の顔は、絶望に染まっていた。

社交界の人々が、私たちの会話に聞き入っていた。彼らは、アレク様が私を捨てたことを知っている。そして今、そのアレク様が、私に復縁を懇願し、そして拒絶されている光景を目の当たりにしている。

私は、アレク様にも、カミーユ様にも、もう何の感情も抱かなかった。彼らは、私の過去の一部にすぎない。

私は、セイラン様の手を取り、アレク様から離れた。

「エミリア嬢、よく言いました」

セイラン様が、私の頭を優しく撫でてくれた。その温かい手に、私の心は満たされる。

「セイラン様……」

私は、彼の顔を見上げた。彼の瞳は、私への深い愛情で満ちていた。

「君は、もう何も恐れることはない。これからは、僕が君を守る」

セイラン様の言葉に、私の目から涙が溢れた。私は、ずっとこんな言葉を待っていたのかもしれない。

舞踏会の音楽が、再び流れ始めた。私たちは、手を取り合い、会場を後にした。

夜空には、満月が輝いていた。

「エミリア、僕の妻になってくれませんか?」

セイラン様が、私の手を握りしめ、そう言った。

私の心は、幸福でいっぱいになった。私は、もう「地味子」ではない。セイラン様が、私を本当の私として見てくれる。

「はい、喜んで!」

私は、満面の笑みで答えた。

私の人生は、アレク様によって一度は終わりを告げたけれど、セイラン様との出会いが、新しい扉を開いてくれた。私は、もう過去の傷に囚われることはない。

これからは、セイラン様と共に、新しい未来を歩んでいく。

私たちは、手を取り合い、輝く未来へと歩き出した。私の心には、希望と、そしてセイラン様への限りない愛情だけが残っていた。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵様は、捨てられた私が『治癒』するまで離してくれません

咲月ねむと
恋愛
聖女候補だったエルナは、「魔力がない」という理由で婚約破棄され、実家からも追放される。厄介払いとして嫁がされたのは、国境を守る「冷徹公爵」ジークハルトのもと。 「氷の彫像」と恐れられる彼は、実は強大すぎる魔力のせいで常に高熱と不眠に苛まれていた。しかし、魔力がないエルナが触れると、なぜか彼の魔力が中和され、安眠できることが判明! 「君がいないと眠れない」と、毎晩抱き枕にされるうちに、冷徹だったはずの彼は甘々な過保護夫に変貌していき……?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

『婚約破棄された公爵令嬢は、線を引く』――戻れない場所で、判断する席に座りました

鷹 綾
恋愛
では、アルファポリス掲載用・完結作品として最適な内容紹介を書きます。 ※ネタバレなし/静かな強さ重視/女子読者向け最適化済みです。 --- 内容紹介 婚約者から一方的に婚約を破棄された、公爵令嬢エヴァリーナ・フォン・クロイツ。 感情的な復讐も、涙ながらの弁明もしない彼女が選んだのは―― **「線を引くこと」**だった。 誰を受け入れ、誰を拒むのか。 例外を作らず、条件を曖昧にせず、責任から逃げない。 静かに、しかし確実に引かれたその線は、王都の秩序そのものを変えていく。 期待だけで近づく者は去り、 覚悟を持つ者だけが残る。 重くなる席。 晒される判断。 分けられない責任。 それでもエヴァリーナは、 選ばれる立場ではなく、選び続ける席に座り続ける。 これは、誰かを打ち負かすための物語ではない。 戻れない線の先で、覚悟を引き受けた一人の女性の物語。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な“ざまぁ”と、 自立した公爵令嬢の決断の物語、ここに完結。 --- 参考:一行キャッチ(任意) 「復讐しない。感情に溺れない。ただ、線を引く。」 「選ばれなかった令嬢が、選ぶ側に立つまで。」 「これは恋愛ではなく、覚悟の物語。」 --- もしご希望なら、次に タグ(アルファポリス最適化) 完結作品として強い冒頭注意文(作者コメント) 表紙向けキャッチコピー(10〜20文字) もすぐ出せます。

灯火

松石 愛弓
恋愛
子供のいない男爵家に、幼少時に引き取られたフィーリア。 数年後、義両親に実子が授かり、フィーリアは無用とばかりに男爵令嬢の立場から使用人扱いにされる。 意地悪な義母と義妹の浪費癖のため、無償労働のメイドとしてこき使われる辛い日々。 そんなある日、フィーリアに転機が訪れて・・ 珍しくシリアスな感じのお話を書いてしまいました いつもはこんな感じなのに・・ ^^; https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/122288809/episode/2034446 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/658488266/episode/4191823 新作です。毎週土曜日に更新予定です。興味を持っていただけましたら幸いです。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/910027059/episode/10733961

婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~

exdonuts
恋愛
婚約者である王太子に理不尽な罪をなすりつけられ、婚約破棄された公爵令嬢レティシア。 家族にも見放され、絶望の淵にいた彼女の手を取ったのは「氷の公爵」と呼ばれる冷徹な青年・アランだった。 愛を知らずに生きてきた彼の優しさが、傷ついたレティシアの心を少しずつ溶かしていく。 一方、過去の悪行が暴かれ始めた王太子とその取り巻きたち。 ざまぁが爽快、愛が深く、運命が巡る。 涙と笑顔の“溺愛ざまぁ”ロマンス。

婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される

夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。 さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。 目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。 優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。 一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。 しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

処理中です...