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第6話
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追手達にとどめを刺し、テラとともに小屋の地下に戻ってきた。
今回の事で、僕の考えも少し変化した。
これまではただ自分の身を守る事に精一杯だったが、やはりこのままではどうしようもない。
追手はまた来るだろう。
どれだけ逃げ続けたとしても、現状ではおそらく諦めることはないだろう。
たとえどこかに身を隠したとしても、犯罪者として指名手配されている限り、堂々と道を歩くこともできない。
また、今回のように正面から襲ってくる刺客ばかりではない。
その気になれば毒殺でもなんでも、やりようはあるのだ。
僕は、怯えながらコソコソ生きるのは嫌だ。
少なくとも、僕を狙っている宰相達には、僕のことを諦めてもらう。
そのためには、宰相達に「割が合わない」と思わせることだ。
僕を仕留めるために出る被害が看過できないほど大きなものになれば、計算高い宰相達は僕を殺すことを諦めるだろう。
だから、ただ逃げるだけではだめだ。追手に被害を与えなければ。
「こちらから打って出ようと思う。今回の追手は、宰相達に雇われたならず者達だろう。やつらがアジトにしている場所は見当がついているんだ。そこをこちらから襲って全滅させれば、宰相達も諦めるかもしれない」
「わかりました。協力いたします」
テラが言う。
正直、もうテラに協力してもらう筋合いはあまりないのだが、テラは即答した。
しかも驚いた事に、相変わらずの無表情な顔の中に、ごくわずかだがどことなく嬉しそうな感情のようなものが垣間見える。
「ありがとう。とても助かるよ。でもどうしたんだい?なんだか、ちょっと嬉しそうに見えるが」
そう言うと、テラは口の端を上げて、明確な笑顔を作ってみせた。
「はい。実に久々に、私とシステムの性能を発揮できそうですから」
「性能?」
「はい。ずっと使用しなければ、優れた性能も錆びついてしまいます」
「まあ、言わんとすることはわかるが……」
「それでは、支障なければ早速ですがその一端をお見せしたいと思います」
テラはそう言いながら、コントロールルーム兼工房へと僕を促して移動した。
さっき口の端を上げてからまた無表情に戻ってしまったのだが、その足取りにはどこかしらウキウキした雰囲気が感じられる。
コントロールルーム兼工房に入ると、壁際にある板のような機械の上に乗るように言われた。
「まずはヘンリー様の現在の状態を詳細にスキャンします。雪山で倒れていたのを運び込んだ時に、一応のバイタルチェックはしましたが、詳細なスキャンはまだですので」
説明しながらも、テラは机の上にある何かしらの機械を操作している。
僕の乗った板が淡く光り、板の両端からアームのようなものが伸びてきた。
「そ、そうか……。お手柔らかにたのむよ」
アームの先が、青白く光っている。
その光が僕をゆっくりと照らしていく。
頭頂部から、足元まで。そしてまた足元から頭頂部へと。
「なんだか、変な感じだな……」
こんな経験は初めてだ。
魔法使いの使う「鑑定」の呪文の光にも似ているが、なんとも無機質な感じがする。
そもそも「鑑定」はアイテムにかけるものであって、人間にかけるなど聞いたことがない。
3往復ほど僕を照らして、アームはまた板の中に引っ込んでいった。
そうすると今度は、目の前の何もない宙空に画面が映し出されて、そこに何行もの文字列が映し出された。
その文字は見たことのないものだったが、なぜかスムーズに読むことができた。
ステータス
名前 ヘンリー・レン
性別 男
年齢 38
体力 107/107
魔力 18/18
筋力 12
知恵 89
状態 呪い
僕のステータスが表示されていた。
こうして数字にして示されると、なんだか妙な気持ちになる。
比較対象がないのでこの数値がどの程度のものなのかわからないが、バランスとしてはだいたい自分の思っている通りのステータスだった。筋力の値が異様に低いので、おそらく義手を含めずに隻腕の状態を計測しているのだろうと思う。
この、状態異常の「呪い」というのは、王都で刺客にかけられたものだろう。
「残念ながら、現状ではこの呪いを解く方法はありません」
テラが言う。
この施設とテラも、何でもできるわけではなく、得手不得手があるらしい。
何故か少し安心してしまった。
「ですので、短所を克服するよりも長所を伸ばす方針を提案します。具体的には、呪いはそのままにして、戦闘経験則の脳内インストール、銃火器の知識と取り扱い技術の脳内インストール、肉体のクリーンアップが適当かと考えます。肉体のハード面も改良できれば良いのですが、時間がかかりすぎます」
「つまり、僕が寝ている間に単語辞書を脳内にインストールしたように、戦闘の経験値や武器の取り扱い知識等がインストールできるということかな?」
「はい。その通りです。ただし、経験則は実際に動作としてある程度なじませなければならないので、数日の習熟期間は必要になります」
「素晴らしい。わかった。ぜひお願いするよ。よろしく頼む」
「かしこまりました」
無表情だったテラが、嬉しそうに微笑んだ。
・
数日後。
僕は小屋の外でコンディションの最終チェックをしていた。
珍しく、空は晴れ渡っている。白い雪原が眩しい。
体が軽い。
まるで子供の頃に戻ったかのようだ。
瞬発力もスタミナも、最高の出来だ。
義手意外は、これで肉体的には何も手を加えていないというのだから驚きだ。
体調が万全になるというだけで、ここまで違うものかと思う。
戦闘経験値のインストールというのも素晴らしい。
普通なら何十、何百という危険な戦いを経て身に付くはずの動きが、まるで息をするかのようにできてしまう。
長年の鍛錬が必要なテクニックも、ベテランの勘も、自然に使うことができた。
戦闘を意識して体を動かしながら、僕は驚嘆していた。
複数の敵を想定して動きながら、そのイメージ上の相手を次々と屠っていく。
素晴らしい力だ。
「よし」
型稽古とイメージトレーニングを終え、装備をチェックする。
銃の扱いにも慣れた。弾丸が貴重なのであまり無駄撃ちは出来ないが、引き金を引くことに躊躇いはない。
剣と銃、そして義手。
これだけあれば、負けることはないだろう。
今回の事で、僕の考えも少し変化した。
これまではただ自分の身を守る事に精一杯だったが、やはりこのままではどうしようもない。
追手はまた来るだろう。
どれだけ逃げ続けたとしても、現状ではおそらく諦めることはないだろう。
たとえどこかに身を隠したとしても、犯罪者として指名手配されている限り、堂々と道を歩くこともできない。
また、今回のように正面から襲ってくる刺客ばかりではない。
その気になれば毒殺でもなんでも、やりようはあるのだ。
僕は、怯えながらコソコソ生きるのは嫌だ。
少なくとも、僕を狙っている宰相達には、僕のことを諦めてもらう。
そのためには、宰相達に「割が合わない」と思わせることだ。
僕を仕留めるために出る被害が看過できないほど大きなものになれば、計算高い宰相達は僕を殺すことを諦めるだろう。
だから、ただ逃げるだけではだめだ。追手に被害を与えなければ。
「こちらから打って出ようと思う。今回の追手は、宰相達に雇われたならず者達だろう。やつらがアジトにしている場所は見当がついているんだ。そこをこちらから襲って全滅させれば、宰相達も諦めるかもしれない」
「わかりました。協力いたします」
テラが言う。
正直、もうテラに協力してもらう筋合いはあまりないのだが、テラは即答した。
しかも驚いた事に、相変わらずの無表情な顔の中に、ごくわずかだがどことなく嬉しそうな感情のようなものが垣間見える。
「ありがとう。とても助かるよ。でもどうしたんだい?なんだか、ちょっと嬉しそうに見えるが」
そう言うと、テラは口の端を上げて、明確な笑顔を作ってみせた。
「はい。実に久々に、私とシステムの性能を発揮できそうですから」
「性能?」
「はい。ずっと使用しなければ、優れた性能も錆びついてしまいます」
「まあ、言わんとすることはわかるが……」
「それでは、支障なければ早速ですがその一端をお見せしたいと思います」
テラはそう言いながら、コントロールルーム兼工房へと僕を促して移動した。
さっき口の端を上げてからまた無表情に戻ってしまったのだが、その足取りにはどこかしらウキウキした雰囲気が感じられる。
コントロールルーム兼工房に入ると、壁際にある板のような機械の上に乗るように言われた。
「まずはヘンリー様の現在の状態を詳細にスキャンします。雪山で倒れていたのを運び込んだ時に、一応のバイタルチェックはしましたが、詳細なスキャンはまだですので」
説明しながらも、テラは机の上にある何かしらの機械を操作している。
僕の乗った板が淡く光り、板の両端からアームのようなものが伸びてきた。
「そ、そうか……。お手柔らかにたのむよ」
アームの先が、青白く光っている。
その光が僕をゆっくりと照らしていく。
頭頂部から、足元まで。そしてまた足元から頭頂部へと。
「なんだか、変な感じだな……」
こんな経験は初めてだ。
魔法使いの使う「鑑定」の呪文の光にも似ているが、なんとも無機質な感じがする。
そもそも「鑑定」はアイテムにかけるものであって、人間にかけるなど聞いたことがない。
3往復ほど僕を照らして、アームはまた板の中に引っ込んでいった。
そうすると今度は、目の前の何もない宙空に画面が映し出されて、そこに何行もの文字列が映し出された。
その文字は見たことのないものだったが、なぜかスムーズに読むことができた。
ステータス
名前 ヘンリー・レン
性別 男
年齢 38
体力 107/107
魔力 18/18
筋力 12
知恵 89
状態 呪い
僕のステータスが表示されていた。
こうして数字にして示されると、なんだか妙な気持ちになる。
比較対象がないのでこの数値がどの程度のものなのかわからないが、バランスとしてはだいたい自分の思っている通りのステータスだった。筋力の値が異様に低いので、おそらく義手を含めずに隻腕の状態を計測しているのだろうと思う。
この、状態異常の「呪い」というのは、王都で刺客にかけられたものだろう。
「残念ながら、現状ではこの呪いを解く方法はありません」
テラが言う。
この施設とテラも、何でもできるわけではなく、得手不得手があるらしい。
何故か少し安心してしまった。
「ですので、短所を克服するよりも長所を伸ばす方針を提案します。具体的には、呪いはそのままにして、戦闘経験則の脳内インストール、銃火器の知識と取り扱い技術の脳内インストール、肉体のクリーンアップが適当かと考えます。肉体のハード面も改良できれば良いのですが、時間がかかりすぎます」
「つまり、僕が寝ている間に単語辞書を脳内にインストールしたように、戦闘の経験値や武器の取り扱い知識等がインストールできるということかな?」
「はい。その通りです。ただし、経験則は実際に動作としてある程度なじませなければならないので、数日の習熟期間は必要になります」
「素晴らしい。わかった。ぜひお願いするよ。よろしく頼む」
「かしこまりました」
無表情だったテラが、嬉しそうに微笑んだ。
・
数日後。
僕は小屋の外でコンディションの最終チェックをしていた。
珍しく、空は晴れ渡っている。白い雪原が眩しい。
体が軽い。
まるで子供の頃に戻ったかのようだ。
瞬発力もスタミナも、最高の出来だ。
義手意外は、これで肉体的には何も手を加えていないというのだから驚きだ。
体調が万全になるというだけで、ここまで違うものかと思う。
戦闘経験値のインストールというのも素晴らしい。
普通なら何十、何百という危険な戦いを経て身に付くはずの動きが、まるで息をするかのようにできてしまう。
長年の鍛錬が必要なテクニックも、ベテランの勘も、自然に使うことができた。
戦闘を意識して体を動かしながら、僕は驚嘆していた。
複数の敵を想定して動きながら、そのイメージ上の相手を次々と屠っていく。
素晴らしい力だ。
「よし」
型稽古とイメージトレーニングを終え、装備をチェックする。
銃の扱いにも慣れた。弾丸が貴重なのであまり無駄撃ちは出来ないが、引き金を引くことに躊躇いはない。
剣と銃、そして義手。
これだけあれば、負けることはないだろう。
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