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第5話
しおりを挟む「小屋の周りをあまり荒らされたくありませんので、今回は少し離れたところまで迎撃に出ましょう」
とテラは言った。
僕達は地上に上がってから簡単な打ち合わせをした。
そして立てた作戦の通りに、テラの言う方向へと歩いた。
僕が遭難して倒れた場所がどこなのか今となってはよくわからないが、小屋の場所は僕が倒れた地点からそこまで離れてはいなかったらしい。
天候こそ落ち着いていたが、小屋の周りをいくら歩いても、倒れた場所と同じような深い雪山の中だったからだ。
道らしい道もなく、膝まで埋もれる積雪の中は歩き辛いどころではない。
今思えば、先ほど戦った小屋の周囲は開けた場所だったが、ちゃんと除雪がされていた。
生活圏内としてテラがきちんと整備していたのだろう。
どういった手段でかは想像もつかないが。
どうにかこうにか目的の距離まで進む。
ちなみにテラはいない。僕一人である。
立ち止まり、そばにあった木に手をかけて登る。
使うのは主に義手の左手だ。
取り付けた義手の感覚に、まずは慣れなければならない。
枝を握ることも、引き寄せることも簡単にできる。
まるで自分の手のようだった。
難しいのは力加減くらいだ。
体を引き寄せる力が強すぎて、何度か枝にぶつかりそうになった。
木の上の方まで登ると、かなり遠くまで見渡せるようになった。
かなり遠くに、動く人影が見える。
おそらくあれが追手だろう。
テラに聞いた方向と距離に一致している。
数は先ほどと同じく三人。
こちらには気づいていないようだ。
特に警戒する様子もなく、積雪の中を歩いている。
僕は手近な枝の上にある雪をかき集め、手のひらサイズの雪玉にした。
義手の左手でそれを力いっぱい握り締める。
雪玉が圧縮され、一回り小さい氷の塊になった。
石のように固い氷塊である。
できると思ってはいたが、やはり驚いてしまう。
この義手の握力があってこそ可能な業である。
僕はその氷塊を持って、追手を観察した。
(ヘンリー様、サポートいたします。おおまかな照準をつけていただければ、こちらで義手をコントロールして微調整します)
頭の中にテラの声だけが響く。
テラはまだ、後方で待機している。
当然、声が届くような場所ではない。
驚いた事に、この通信技術も義手の能力らしい。
「ああ。ありがとう」
小声で返答し、遠くに見える追手の一人に狙いをつけて左手を振りかぶる。
普通なら、当てるどころか、届くことすらありえない距離だ。
思い切り氷塊を投擲する。
左手の勢いに振り回されてバランスを崩し、危うく木から落ちるところだった。
氷塊は信じられない勢いで飛び、追手の顔面に命中した。
うつ伏せに倒れて、そのまま動かなくなる。
雪の上に赤い染みが広がっていくのが確認できた。
確かに一応は顔面を狙ったのだが、まさか本当に命中するとは思わなかった。
投げる瞬間に指が微かに震えたような気がしたが、あれがテラのサポートだったのだろうか。
追手達は、一人がいきなり倒れたのを見て、慌てて身を伏せたようだ。
矢で奇襲を受けたとでも思ったのだろう。
まさかここまでの遠方から雪玉で狙撃されたとは思うまい。
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