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問題だらけの進路希望
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「放課後、進路相談室に来るように!」
何故そうなったのか、僕には全く心当たりが無い呼び出し。相談してどうにかなるものなのかも怪しい所。
僕、古谷トシヲ17歳。男子校生。一応はちょっと変だけれど優しい人と周りに認識されているらしく、良いとは言わないが品行が悪い訳では無い。ただ少し、母性が強い自覚はあるだけで……
放課後。運動部の子たちがグラウンドを駆け巡り、音楽室からは吹奏楽部の練習の音が響いている時間帯に進路指導室へ行った。
応接室や校長室よりは簡素なものの、他の教室や職員室などには無い、安物だが座り心地はまあまあのソファと普通に使うだけなら充分なローテーブルが置かれている、あまり入る機会の無いこの部屋。
「失礼します」
一言かけてから、ソファに座る。目の前の先生は微妙な表情を浮かべ、一枚の紙をローテーブルに置いて差し出してきた。
その仕草で少し俯いた先生の、短いストレートヘアがサラリと揺れる。一瞬、実年齢より少しだけ若く見えた先生。
「古谷、何故呼び出されたか分かっているか?」
勿論、分からない。差し出された紙は先日の進路希望で提出したものだった。強いて言えば、第一から第三希望まで同じ内容を書いた事ぐらいだ。
「分かりません」
はー……と、深いため息が聞こえた。先生は疲れているのだろう。甘やかしてあげたくなってしまう気持ちが疼くのを、今は必死に堪えることにした。
「……あのなぁ。問題しか無いだろうこれ。一度声に出して自分で読んでみろ」
「第一希望、全人類のママになりたい。第二希望、全人類のママになりたい。第三希望、全人類のママになりたい……問題、ありませんよね?僕の希望です」
声に出して読まされたが、全人類のママになりたい……更に聞こえを良くするなら人類愛って事になる。僕には問題が見つからず、どうして良いのか分からずに今は少し黙り込んで首を傾げるしか出来ないでいる。
「ヒントをやろう。それは進路の希望であって、生き様や在り方を書くものでは無い」
「最終進路は全人類のママになる事ですが?」
何故だろう?先生は頭を抱えている。頭が痛いなら保健室へ連れて行った方がいい気がするけれども。
「そうじゃなくて……この場合の進路は進学や就職なんかの卒業した先の事!」
「なるほど!ママになりたい場合は進学と就職、どちらがオススメでしょうか?」
ローテーブルに手をつき、身を乗り出して先生の顔をじっと見つめる。すぐに顔を逸らされた。
「真面目な話、古谷の成績は悪くない。歴史と数学が少し問題だが、他は平均。家庭科だけはかなり良い。進学先は選べば指定校推薦には入れるだろう」
成績について、僕はあまり考えた事が無かった。他者評価もあまり聞く機会が無いものだから、真剣に話を聞いてみたくなる。
「指定校推薦?」
「ママにはなれないと思うが、保育士や幼稚園の先生になる為の大学へ進学してみたらどうだろう?と、先生は勧めたいと思う」
なるほど。愛しい子供達のお世話をする仕事という意味では、保育士や幼稚園の先生は良いかも知れない。盲点ではあったが。
「と、言う事でもう一度考えて書き直して、進路希望の紙は再提出するように」
未記入の進路希望の用紙を1枚、先生が差し出してくる。僕はそれを素直に受け取って鞄の中に仕舞う。
「それと……具体的な大学の候補が出なかったり、今の家から通える場所が良かったりしても調べ切れないようなら、候補のピックアップぐらいは手伝える。気軽に相談してくれ」
「はい!それでは……今後気軽に話しかけていきますね、先生」
人に見せる表情はにこやかに、穏やかに。決して愛しい子供達を怯えさせないように、仕草は丁寧に。常日頃からの心がけ。未記入の進路希望の用紙を詰めた鞄を持ち、緩やかな仕草でソファから立ち上がり進路指導室を後にした。
先生とまともに話したのは、この時が初めてで。先生ならきっと、僕の母性が漲っても受け止めてくれるのだろう。そう考えたら残り少ないこの学校での生活も、楽しくなるような気がして、この日の帰り道の足取りはとても軽かった。
何故そうなったのか、僕には全く心当たりが無い呼び出し。相談してどうにかなるものなのかも怪しい所。
僕、古谷トシヲ17歳。男子校生。一応はちょっと変だけれど優しい人と周りに認識されているらしく、良いとは言わないが品行が悪い訳では無い。ただ少し、母性が強い自覚はあるだけで……
放課後。運動部の子たちがグラウンドを駆け巡り、音楽室からは吹奏楽部の練習の音が響いている時間帯に進路指導室へ行った。
応接室や校長室よりは簡素なものの、他の教室や職員室などには無い、安物だが座り心地はまあまあのソファと普通に使うだけなら充分なローテーブルが置かれている、あまり入る機会の無いこの部屋。
「失礼します」
一言かけてから、ソファに座る。目の前の先生は微妙な表情を浮かべ、一枚の紙をローテーブルに置いて差し出してきた。
その仕草で少し俯いた先生の、短いストレートヘアがサラリと揺れる。一瞬、実年齢より少しだけ若く見えた先生。
「古谷、何故呼び出されたか分かっているか?」
勿論、分からない。差し出された紙は先日の進路希望で提出したものだった。強いて言えば、第一から第三希望まで同じ内容を書いた事ぐらいだ。
「分かりません」
はー……と、深いため息が聞こえた。先生は疲れているのだろう。甘やかしてあげたくなってしまう気持ちが疼くのを、今は必死に堪えることにした。
「……あのなぁ。問題しか無いだろうこれ。一度声に出して自分で読んでみろ」
「第一希望、全人類のママになりたい。第二希望、全人類のママになりたい。第三希望、全人類のママになりたい……問題、ありませんよね?僕の希望です」
声に出して読まされたが、全人類のママになりたい……更に聞こえを良くするなら人類愛って事になる。僕には問題が見つからず、どうして良いのか分からずに今は少し黙り込んで首を傾げるしか出来ないでいる。
「ヒントをやろう。それは進路の希望であって、生き様や在り方を書くものでは無い」
「最終進路は全人類のママになる事ですが?」
何故だろう?先生は頭を抱えている。頭が痛いなら保健室へ連れて行った方がいい気がするけれども。
「そうじゃなくて……この場合の進路は進学や就職なんかの卒業した先の事!」
「なるほど!ママになりたい場合は進学と就職、どちらがオススメでしょうか?」
ローテーブルに手をつき、身を乗り出して先生の顔をじっと見つめる。すぐに顔を逸らされた。
「真面目な話、古谷の成績は悪くない。歴史と数学が少し問題だが、他は平均。家庭科だけはかなり良い。進学先は選べば指定校推薦には入れるだろう」
成績について、僕はあまり考えた事が無かった。他者評価もあまり聞く機会が無いものだから、真剣に話を聞いてみたくなる。
「指定校推薦?」
「ママにはなれないと思うが、保育士や幼稚園の先生になる為の大学へ進学してみたらどうだろう?と、先生は勧めたいと思う」
なるほど。愛しい子供達のお世話をする仕事という意味では、保育士や幼稚園の先生は良いかも知れない。盲点ではあったが。
「と、言う事でもう一度考えて書き直して、進路希望の紙は再提出するように」
未記入の進路希望の用紙を1枚、先生が差し出してくる。僕はそれを素直に受け取って鞄の中に仕舞う。
「それと……具体的な大学の候補が出なかったり、今の家から通える場所が良かったりしても調べ切れないようなら、候補のピックアップぐらいは手伝える。気軽に相談してくれ」
「はい!それでは……今後気軽に話しかけていきますね、先生」
人に見せる表情はにこやかに、穏やかに。決して愛しい子供達を怯えさせないように、仕草は丁寧に。常日頃からの心がけ。未記入の進路希望の用紙を詰めた鞄を持ち、緩やかな仕草でソファから立ち上がり進路指導室を後にした。
先生とまともに話したのは、この時が初めてで。先生ならきっと、僕の母性が漲っても受け止めてくれるのだろう。そう考えたら残り少ないこの学校での生活も、楽しくなるような気がして、この日の帰り道の足取りはとても軽かった。
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