男子校生は先生のママになりたい

振悶亭めこ

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答え合わせは卒業前夜

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漂う匂いは、冬から春に移ろっていた。桜の咲き始めの、まだ少し薄ら寒い頃合い。
トシヲは初めて智のアパートを訪れていた。荷物は鞄の中に念のために持ってきた替えの下着類その他細々としたものをいくつか。
卒業前夜、友達と夜通し語ってはしゃいで来るのも良い。ただし、卒業式に遅刻はしないように。という名目で、家族から外泊許可も得ての初めてのお泊まりになった流れである。
(父さんごめんね……友達の家じゃなくって。気持ちは感謝してるけど)
古めかしいアパートの、手書き文字で「坂野」と書かれた表札が貼られた部屋のドアをノックする。すぐに鍵を外す音が聞こえ、ドアが開けられた。
「中、入って鍵閉めといてくれ。制服は……ハンガーにかけてそこら辺に吊るした方が良さそうだな」
「はい、お邪魔します」
玄関を上がってすぐ側の台所を抜ける。中は六畳間が鰻の寝所のように繋がっている、古めかしいアパートにありがちな構造をしていた。手前の部屋にはちゃぶ台とテレビ、押入れ、仕事用だろう机の上だけが散らかっており、他はそれなりに片付いていた。
「荷物、ちゃぶ台周りにでも置いて、ハンガーはこれを使え」
トシヲはちゃぶ台の前に座り、制服のブレザーを脱いでハンガーにかけた。その時、些細な疑問が頭をよぎる。
(ちょっと待って……今、制服を脱ぐって事は……?)
「あのっ……トモちゃん先生、制服は……全部脱ぐんですか?今、ここで……」
「ああ、明日卒業式なのに制服がシワだらけなのはどうかと思うからな。部屋着は俺ので良ければ使ってくれ。古谷の背丈でも大丈夫そうなオーバーサイズのもの選んで出しておいたぞ」
至って普通の回答が、さらりと返される。性的な事柄を妄想してしまっていたトシヲは、ちゃぶ台に突っ伏して赤らんだ表情を智に見せないようにしながら、声にならない呻き声を上げていた。
「おいおい、そんなにちゃぶ台が気に入ったのか?珍しい奴だな」
「違います……」
突っ伏しているトシヲの傍を通り、智は台所からグラスを二つと、冷蔵庫から取り出したペットボトルの炭酸飲料を持ってちゃぶ台の上に置く。
「違うなら、ちゃぶ台に突っ伏してないで顔を上げてみろ。今ならもれなくサイダーが冷えている」
コポポポポポ……シュワァー
爽やかな音を立てて、グラスにサイダーが注がれた。トシヲはゆっくりと顔を上げて、智の方をチラリと見る。学校でよく見かけていたジャージ姿は、家に居る時も同じなんだな……そう思った途端、トシヲは余計に意識してしまった。
「サイダー、イタダキマスね」
ぎこちない仕草でグラスに注がれたサイダーを一気に飲み込む。
「大丈夫か古谷、喉乾いてんなら他にもマテ茶とか冷蔵庫に冷やしてあるからな、飲んでいいぞ」
少し心配そうな智の声。トシヲは完全敗北寸前になっていた。
(トモちゃん先生の匂いがする部屋で……二人きりで……今のグラスだって、トモちゃん先生が普段使ってるものに、えーと、口……付けちゃってて……)
「今日、いつも以上におかしいな……古谷、少し奥の部屋で横になるか?今夜はのんびり過ごすのも悪くない」
平気な顔した智の様子に、トシヲは居た堪れなくなっていく。
「トモちゃん先生……あのっ、ですね……」
「ん?言ってみろ」
「……っ、初めて、好きな人のお家にお邪魔しました。その男性は一人暮らしです……人様のお家は、それぞれ特徴のある匂いがしまして……その、大好きな匂いに、ですね、ずっと包まれたままの状態で、制服を脱げと言われましても……その後にのんびり過ごすのも悪くない、なんて言われてしまいまして……ええと、その……」
まとまらないままの言葉を、つっかえて尻すぼみになるまでトシヲは吐き出した。暫くの沈黙の後、智はププッと吹き出して笑い始めた。
「期待して、緊張して、肩透かしからのサイダー一気飲みだったという事か」
「く、悔しいです……あらかた合ってます」
智はまだ笑いが止まらない状態で、トシヲの頭をワシャワシャと撫でくりまわしている。
「そんなに笑わないで下さいよ……」
「良かった、やけにしおらしいとは思っていたが、中身は通常運行の古谷トシヲだった」
頭を撫でくりまわされ、トシヲはズレた眼鏡を情け無い顔をしてかけ直す。
「トモちゃん先生……卒業前に、最後の授業をお願いしたいんです」
「最後の授業、か。いいだろう。内容は、質疑応答からの答え合わせとしよう」
智の声のトーンが僅かに下がり、授業中の緊張感がその場を支配していく。
「これまでの事で、分からない所や質問は?」
「その刺激は俺には強すぎる、分からないなら古谷は一生分からないでいてくれ。って、トモちゃん先生は前に言っていました。あの後、考えても答えが上手く出ないままで……」
「それで?」
「一生分からないでいるのは、嫌なんです。トモちゃん先生の事は、きちんと知っておきたいので……答えを、教えて下さい」
智は、ゴクリと唾を飲み込み、数秒の間を置いて頷いた。顔を上げ、ねっとりとした視線をトシヲの全身に這わせる。
「仕方のない子だ。知りたいならば、実践で教えよう。ただし……」
智のある種の異様な気迫に、トシヲはゾクリとした感覚を覚え、後ろに手をついて思わず後ずさった。


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