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20夕食を食べて
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家に帰ると、尻尾を揺らしながらユリアンが玄関まで迎えに来てくれた。
「おかえり。あれ、マティアスさんもいっしょ?」
嬉しそうな声音で言い、ユリアンは私とマティアス様の顔を交互に見た。
「ただいま。買い物していたら行き合ったの」
「ただいま」
言いながらマティアス様は帽子をとった。
「そっかー。そうそう、リュシーさん来てたよ。それでなんかおかずおいていった!」
リュシーは毎日来て、ときどき差し入れを置いていく。
お菓子だったり料理だったり。
私たちはそのまま台所へとむかい、買ってきたものを広げて仕舞うものは棚にしまった。
リュシーが置いていったのは鍋に入ったスープだった。
野菜が沢山入っていて美味しそうだ。
夕食の支度はユリアンとマティアス様が手伝ってくれたのでとても楽だった。
買ってきたお肉を野菜といっしょにたれと絡めて焼いて、スープを温めて。
バゲットを切って、お皿に料理をのせて夕食の支度は出来上がりだ。
この光景はいつまでも続かないのか、と思うと少しさみしく思う時がある。
ユリアンのお母さんが見つかれば、彼はこの家を離れるし、あと八ヶ月もたてばマティアス様もいなくなる。
私も母親との約束である二年が経過するので帰らなくちゃいけないのだけれど……それはのらりくらりとかわしてここに居続けるつもりでいる。
お父様はうるさそうだし、兄も何か言ってきそうだけれど。
お母様は呆れつつ好きにしなさい、くらいは言ってくれるかな。
勘当されたらどうしよう? まあ、普通に生活できるくらいの稼ぎはあるし……何とかなるかしらね。
私にはしたいことがあるんだもの。いつかこの癒しの魔法のこと言えるようになるといいな。
夕食の後、食器の片づけを皆でしているときにマティアス様がユリアンに尋ねた。
「ねえ、観覧車って知ってる?」
「観覧車?」
食器を拭きながら、ユリアンは首をかしげた。この反応から察するに知らないのだろうな。
「なにそれ知らない」
「フラムテール王国の町、コリーヌにあるんだ。ここの隣町なんだけれど、そこに電気で動く乗り物があって」
「電気で動く乗り物?」
水力発電や火力発電、魔力を源とした魔力発電などの発電所があり、そこから電力の供給が行われている。
とはいえ、大陸全土の国々が安定した電力供給を受けているわけじゃない。
ここカスカード公国は滝があり、水力発電に頼っている。
そして各家庭に供給されているのだけれど、電気で動く乗り物、というものはあまりない。
だからユリアンには電気で動く乗り物、というものが想像できないのだろう。
キョトンとした顔をしてマティアス様を見つめている。
「なにそれ」
「とても大きな車輪に椅子のついた籠がたくさんついていると言えばいいのかな。
高いところまで連れて行ってくれるんだ」
「なにそれすごい」
ユリアンは尻尾を激しく揺らして嬉しそうな声音で言った。
「すごいね、王国って。そんなすごい乗り物があるんだね」
「あと回転木馬もあって、色んな遊戯で遊べる露店があるから楽しいと思うんだ」
「露店で遊べるの? お祭りじゃないのに?」
食べ物や雑貨を売る露店は普段見かけるけれど、遊べる露店なんてお祭りのときしかみけかないものね。
ユリアンは行きたいと言った後、しばらく間をおいてから、あ、と言った。
「隣の国、なんだよね?」
「うん、フラムテールだから……だからどうかなと思って」
マティアス様の言葉を聞いて、ユリアンは布巾を持ったまま顎に手を当てて悩み始めた。
「隣の国っていうと……尻尾触られる……でも観覧車見たい……でも……」
と呟いているのが聞こえてくる。
食器の片づけは終わり、私は皆にお茶とお茶菓子を用意する。
今日のお茶菓子はタルトだ。それを私は切り分けてお皿にのせた。
「座ってユリアン。タルト、食べるでしょう?」
ぶつぶつと呟き続けるユリアンに声をかけると、彼は顎に手を当てたまま椅子へと腰かけた。
「そこまで悩ませるとは思ってなかったよ」
と苦笑交じりにマティアス様は言った。
獣人は基本この国から出たがらないのよね。
まあ、隣町くらいは行ったりするけれど必ずと言っていいほど人のふりをする。
私自身隣りの町ならいいかな、とか思ってしまった部分はあるけれど……獣人当人としてはどうなんだろうか?
ユリアンはしばらくお茶の入ったカップを見つめて考え込んだ後、ぱっと顔を上げて言った。
「うん、行きたい! だって、マティアスさんとエステル姉ちゃんがいなくちゃ、絶対俺、外の国になんて行きたいってならないもん」
確かに、それは言えているかも。
「今しかできないことって絶対あるし、だから俺、隣の町行きたい!」
「わかった。国境を超えるとなると手続きが必要になるから、その辺の書類は俺が用意するよ」
マティアス様が言うと、ユリアンは両手を上げて、
「ありがとう、マティアスさん!」
と満面の笑みを浮かべて言った。
正直私も観覧車や回転木馬は見てみたいと思っていたのでちょっと嬉しい。
でもそうなるとユリアン、尻尾と耳、隠さないとだよね。
そう言う服もっていないはずだから、用意しないと。
私は、ゆらゆらと尻尾を揺らして全身で喜びを表現するユリアンを見つめながら、お茶をすすった。
「おかえり。あれ、マティアスさんもいっしょ?」
嬉しそうな声音で言い、ユリアンは私とマティアス様の顔を交互に見た。
「ただいま。買い物していたら行き合ったの」
「ただいま」
言いながらマティアス様は帽子をとった。
「そっかー。そうそう、リュシーさん来てたよ。それでなんかおかずおいていった!」
リュシーは毎日来て、ときどき差し入れを置いていく。
お菓子だったり料理だったり。
私たちはそのまま台所へとむかい、買ってきたものを広げて仕舞うものは棚にしまった。
リュシーが置いていったのは鍋に入ったスープだった。
野菜が沢山入っていて美味しそうだ。
夕食の支度はユリアンとマティアス様が手伝ってくれたのでとても楽だった。
買ってきたお肉を野菜といっしょにたれと絡めて焼いて、スープを温めて。
バゲットを切って、お皿に料理をのせて夕食の支度は出来上がりだ。
この光景はいつまでも続かないのか、と思うと少しさみしく思う時がある。
ユリアンのお母さんが見つかれば、彼はこの家を離れるし、あと八ヶ月もたてばマティアス様もいなくなる。
私も母親との約束である二年が経過するので帰らなくちゃいけないのだけれど……それはのらりくらりとかわしてここに居続けるつもりでいる。
お父様はうるさそうだし、兄も何か言ってきそうだけれど。
お母様は呆れつつ好きにしなさい、くらいは言ってくれるかな。
勘当されたらどうしよう? まあ、普通に生活できるくらいの稼ぎはあるし……何とかなるかしらね。
私にはしたいことがあるんだもの。いつかこの癒しの魔法のこと言えるようになるといいな。
夕食の後、食器の片づけを皆でしているときにマティアス様がユリアンに尋ねた。
「ねえ、観覧車って知ってる?」
「観覧車?」
食器を拭きながら、ユリアンは首をかしげた。この反応から察するに知らないのだろうな。
「なにそれ知らない」
「フラムテール王国の町、コリーヌにあるんだ。ここの隣町なんだけれど、そこに電気で動く乗り物があって」
「電気で動く乗り物?」
水力発電や火力発電、魔力を源とした魔力発電などの発電所があり、そこから電力の供給が行われている。
とはいえ、大陸全土の国々が安定した電力供給を受けているわけじゃない。
ここカスカード公国は滝があり、水力発電に頼っている。
そして各家庭に供給されているのだけれど、電気で動く乗り物、というものはあまりない。
だからユリアンには電気で動く乗り物、というものが想像できないのだろう。
キョトンとした顔をしてマティアス様を見つめている。
「なにそれ」
「とても大きな車輪に椅子のついた籠がたくさんついていると言えばいいのかな。
高いところまで連れて行ってくれるんだ」
「なにそれすごい」
ユリアンは尻尾を激しく揺らして嬉しそうな声音で言った。
「すごいね、王国って。そんなすごい乗り物があるんだね」
「あと回転木馬もあって、色んな遊戯で遊べる露店があるから楽しいと思うんだ」
「露店で遊べるの? お祭りじゃないのに?」
食べ物や雑貨を売る露店は普段見かけるけれど、遊べる露店なんてお祭りのときしかみけかないものね。
ユリアンは行きたいと言った後、しばらく間をおいてから、あ、と言った。
「隣の国、なんだよね?」
「うん、フラムテールだから……だからどうかなと思って」
マティアス様の言葉を聞いて、ユリアンは布巾を持ったまま顎に手を当てて悩み始めた。
「隣の国っていうと……尻尾触られる……でも観覧車見たい……でも……」
と呟いているのが聞こえてくる。
食器の片づけは終わり、私は皆にお茶とお茶菓子を用意する。
今日のお茶菓子はタルトだ。それを私は切り分けてお皿にのせた。
「座ってユリアン。タルト、食べるでしょう?」
ぶつぶつと呟き続けるユリアンに声をかけると、彼は顎に手を当てたまま椅子へと腰かけた。
「そこまで悩ませるとは思ってなかったよ」
と苦笑交じりにマティアス様は言った。
獣人は基本この国から出たがらないのよね。
まあ、隣町くらいは行ったりするけれど必ずと言っていいほど人のふりをする。
私自身隣りの町ならいいかな、とか思ってしまった部分はあるけれど……獣人当人としてはどうなんだろうか?
ユリアンはしばらくお茶の入ったカップを見つめて考え込んだ後、ぱっと顔を上げて言った。
「うん、行きたい! だって、マティアスさんとエステル姉ちゃんがいなくちゃ、絶対俺、外の国になんて行きたいってならないもん」
確かに、それは言えているかも。
「今しかできないことって絶対あるし、だから俺、隣の町行きたい!」
「わかった。国境を超えるとなると手続きが必要になるから、その辺の書類は俺が用意するよ」
マティアス様が言うと、ユリアンは両手を上げて、
「ありがとう、マティアスさん!」
と満面の笑みを浮かべて言った。
正直私も観覧車や回転木馬は見てみたいと思っていたのでちょっと嬉しい。
でもそうなるとユリアン、尻尾と耳、隠さないとだよね。
そう言う服もっていないはずだから、用意しないと。
私は、ゆらゆらと尻尾を揺らして全身で喜びを表現するユリアンを見つめながら、お茶をすすった。
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