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48しばらく家を空けます
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長い雪の季節は終わり、雪解けの季節がやってきた。
私は結局マティアスさんとふたりで暮らしている。
帰ることを渋っていたユリアンはちゃんと家に帰ったものの、よくうちに出入りしている。
食堂で向かい合って座り、私とユリアンはお茶の時間を共にしていた。
ちなみにマティアスさんは出かけている。
転校の手続きでこの町にある学校に行くと言っていた。
「でもさ、お母さんがエステル姉ちゃんたちの邪魔しちゃだめって言うんだよね」
そう言ったユリアンの耳は垂れ下がる。
悲しそうな目をしたユリアンは、私をまっすぐに見つめ、
「ねえ、俺邪魔?」
と言った。
「邪魔なわけないでしょう」
まあ、入り浸り過ぎはどうかと思うけれど。
一緒に暮らしていた時は気を使って私たちをふたりきりにしていたようだけれど、離れて暮らすようになってからはなぜかそういう気遣いをしなくなったような気がする。
ユリアンは私の答えが嬉しかったのか、耳をぴん、とたてて、
「だよね! よかった。俺、心配だったからさー」
といい、頭の後ろで手を組んだ。
いや、まあ、お母さんの言うことも私は理解できるけれど、一年以上一緒に暮らしていたし、私としてもユリアンをむげに扱うことはしないし、邪魔扱いなんて絶対にしない。
「でもユリアン、私たちしばらく家を出るわよ?」
と言うと、目を大きく見開いて、
「え!」
と声を上げる。
私は頬杖をついて微笑んでみせた。
「私の実家と、彼の実家に行ってくるの」
「姉ちゃんの実家って首都だっけ?」
「えぇ」
「何しに行くの?」
その問いかけに、私は思わず黙り込む。
私は頬杖を外し、左薬指にはめた指輪を右手でそっと撫でた。
「親に会いに」
「あ、わかった! 結婚の挨拶ってお互いに実家に行くんだよね! 本で見た!」
それはいったい何の本ですか。
ユリアンは立ち上がると私の後ろに立って背中から抱きついてきた。
「やっぱり結婚するの? ねえ、結婚するの?」
と喜びにあふれた声を出す。
「え、あ……えぇ……まあ……」
マティアスさんは学校があるし、私はまだ神官になれていない。
でも……私たちは結婚しようと決めた。
最大の理由はデュクロ司祭のことだった。
私が神官になるのを待つ時間や、マティアスさんが学校を卒業するのを待つ余裕は……きっとない。
デュクロ司祭は魔法を使うたび、命を削っていく。
春の訪れを待って互いの家に挨拶に行って、話をすすめようと決めていた。
手紙を送り、根回しをしてきたからきっと大丈夫だろう。
お父様は喜んでいるみたいだし。
まあ、しばらくこの町で暮らすことには難色を示されたけれど。
それは彼も同じらしい。
転校するって伝えたら揉めたとかなんとか。
それはそうですよねえ。
とりあえず王子だし。そういう感じがあまりしないけれど。
サシャさんは大層反対されたとか。
「マティアスさんて学生なんでしょ? 学生って結婚できるの?」
「成人しているから結婚はできるわよ」
「でも家計は? 姉ちゃんひとりで働いてって大変じゃないの?」
「いや、マティアスさん学校行きながら仕事するみたいだし大丈夫じゃないかな」
彼の仕事と言うのは主に国をまたいで行われる犯罪の捜査らしく、下手したらちょっと別の国に行ってきます、とかありえるけれど。
考えれば考えるほど、王子のすることなのかな、という疑問が強くなっていく。
「マティアスさんすごいねー。働いて、学校行ってって。すごくない?」
「そうねえ。でもまあ、好きでやっている事みたいだから」
「そっかー。ならいいけど。
楽しみだなー。姉ちゃんたちの結婚式って、あの教会でやるんでしょ?」
「それは……たぶん、ニュアージュの教会でやることになるかも」
デュクロ司祭のことを考えたら、たぶんそうなる。彼に旅をさせたくないし。
まあ、あの方なら無理してでもこちらに来そうだけれど。そんなこと言いだしたら私、絶対に泣く。
「そうなんだー。でもそれでも絶対俺行くからね! 絶対だからね!」
「耳元で叫ばないでよ……わかってるから」
「うん、超楽しみ!」
と言い、ユリアンは私の身体をぎゅうっと抱きしめた。
夜がやってきた。
二人きりになったため、私とマティアスさんはふたり同じ部屋で寝起きするようになっていた。
そのために大きな寝台も買った。
外を夜の闇が包み、空には星が瞬いている。
月の優しい光だけが、室内を照らしていた。
「エステル」
名前を呼ばれ、私は顔を上げて彼を見る。
目の前にマティアスの顔があり、彼は熱を帯びた目で私を見つめる。
「愛してる」
とても短く、まっすぐな言葉が私をい抜く。
私は小さく頷き、
「私も……」
と答え、顔を背けた。
こんなやり取り何度もしているのだけれど未だに恥ずかしい。
ぎゅっと身体が抱き締められ、彼の温もりが私を包み込む。
「楽しみだなー、君が教会で祝福を受けるのを見るの」
「ふたりで頼みに行きましょうね、デュクロ司祭に」
首都に帰ったらデュクロ司祭に会い、私たちの結婚式をしてくださいと、お願いする予定になっている。
約束果たしてください、って言わなくちゃ。
だから……女神様、もうしばらくデュクロ司祭に時間を下さい。
私は祈り、そしてマティアスの隣にいられることに感謝した。
私は結局マティアスさんとふたりで暮らしている。
帰ることを渋っていたユリアンはちゃんと家に帰ったものの、よくうちに出入りしている。
食堂で向かい合って座り、私とユリアンはお茶の時間を共にしていた。
ちなみにマティアスさんは出かけている。
転校の手続きでこの町にある学校に行くと言っていた。
「でもさ、お母さんがエステル姉ちゃんたちの邪魔しちゃだめって言うんだよね」
そう言ったユリアンの耳は垂れ下がる。
悲しそうな目をしたユリアンは、私をまっすぐに見つめ、
「ねえ、俺邪魔?」
と言った。
「邪魔なわけないでしょう」
まあ、入り浸り過ぎはどうかと思うけれど。
一緒に暮らしていた時は気を使って私たちをふたりきりにしていたようだけれど、離れて暮らすようになってからはなぜかそういう気遣いをしなくなったような気がする。
ユリアンは私の答えが嬉しかったのか、耳をぴん、とたてて、
「だよね! よかった。俺、心配だったからさー」
といい、頭の後ろで手を組んだ。
いや、まあ、お母さんの言うことも私は理解できるけれど、一年以上一緒に暮らしていたし、私としてもユリアンをむげに扱うことはしないし、邪魔扱いなんて絶対にしない。
「でもユリアン、私たちしばらく家を出るわよ?」
と言うと、目を大きく見開いて、
「え!」
と声を上げる。
私は頬杖をついて微笑んでみせた。
「私の実家と、彼の実家に行ってくるの」
「姉ちゃんの実家って首都だっけ?」
「えぇ」
「何しに行くの?」
その問いかけに、私は思わず黙り込む。
私は頬杖を外し、左薬指にはめた指輪を右手でそっと撫でた。
「親に会いに」
「あ、わかった! 結婚の挨拶ってお互いに実家に行くんだよね! 本で見た!」
それはいったい何の本ですか。
ユリアンは立ち上がると私の後ろに立って背中から抱きついてきた。
「やっぱり結婚するの? ねえ、結婚するの?」
と喜びにあふれた声を出す。
「え、あ……えぇ……まあ……」
マティアスさんは学校があるし、私はまだ神官になれていない。
でも……私たちは結婚しようと決めた。
最大の理由はデュクロ司祭のことだった。
私が神官になるのを待つ時間や、マティアスさんが学校を卒業するのを待つ余裕は……きっとない。
デュクロ司祭は魔法を使うたび、命を削っていく。
春の訪れを待って互いの家に挨拶に行って、話をすすめようと決めていた。
手紙を送り、根回しをしてきたからきっと大丈夫だろう。
お父様は喜んでいるみたいだし。
まあ、しばらくこの町で暮らすことには難色を示されたけれど。
それは彼も同じらしい。
転校するって伝えたら揉めたとかなんとか。
それはそうですよねえ。
とりあえず王子だし。そういう感じがあまりしないけれど。
サシャさんは大層反対されたとか。
「マティアスさんて学生なんでしょ? 学生って結婚できるの?」
「成人しているから結婚はできるわよ」
「でも家計は? 姉ちゃんひとりで働いてって大変じゃないの?」
「いや、マティアスさん学校行きながら仕事するみたいだし大丈夫じゃないかな」
彼の仕事と言うのは主に国をまたいで行われる犯罪の捜査らしく、下手したらちょっと別の国に行ってきます、とかありえるけれど。
考えれば考えるほど、王子のすることなのかな、という疑問が強くなっていく。
「マティアスさんすごいねー。働いて、学校行ってって。すごくない?」
「そうねえ。でもまあ、好きでやっている事みたいだから」
「そっかー。ならいいけど。
楽しみだなー。姉ちゃんたちの結婚式って、あの教会でやるんでしょ?」
「それは……たぶん、ニュアージュの教会でやることになるかも」
デュクロ司祭のことを考えたら、たぶんそうなる。彼に旅をさせたくないし。
まあ、あの方なら無理してでもこちらに来そうだけれど。そんなこと言いだしたら私、絶対に泣く。
「そうなんだー。でもそれでも絶対俺行くからね! 絶対だからね!」
「耳元で叫ばないでよ……わかってるから」
「うん、超楽しみ!」
と言い、ユリアンは私の身体をぎゅうっと抱きしめた。
夜がやってきた。
二人きりになったため、私とマティアスさんはふたり同じ部屋で寝起きするようになっていた。
そのために大きな寝台も買った。
外を夜の闇が包み、空には星が瞬いている。
月の優しい光だけが、室内を照らしていた。
「エステル」
名前を呼ばれ、私は顔を上げて彼を見る。
目の前にマティアスの顔があり、彼は熱を帯びた目で私を見つめる。
「愛してる」
とても短く、まっすぐな言葉が私をい抜く。
私は小さく頷き、
「私も……」
と答え、顔を背けた。
こんなやり取り何度もしているのだけれど未だに恥ずかしい。
ぎゅっと身体が抱き締められ、彼の温もりが私を包み込む。
「楽しみだなー、君が教会で祝福を受けるのを見るの」
「ふたりで頼みに行きましょうね、デュクロ司祭に」
首都に帰ったらデュクロ司祭に会い、私たちの結婚式をしてくださいと、お願いする予定になっている。
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だから……女神様、もうしばらくデュクロ司祭に時間を下さい。
私は祈り、そしてマティアスの隣にいられることに感謝した。
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