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2章
氷の地下道
しおりを挟む「ここは元々水で満たされているはずだがなぜ…。」
「混乱に乗じて水位を下げたのだろう。」
ライルは足元に注意しつつも二人についていくがやはり距離が開く。
「魔王様、やつは何ですか?」
「32人目の勇者。」
「は!?32人!?
なぜそんなに勇者が…?」
「どうやら人界で暴れまわっているバカが居るらしく勇者を送り込んできたようだ、
今回はどうやら裏で何かが動いているようだがそれが何かはまだわからん。」
濁った目の視線を彼方に向け答えるヴィーリオにはかなりの心労が見てとれる。
「その情報を引き出した代償が城の半壊と部下大多数というのはかなりの痛手だったがこんな騒動が起こるのならばお前を呼び寄せなくて正解だったな、
城は建て直しがきくし幸い部下に死人は出ていない、お前を呼び寄せた事が原因で水の魔族が滅んでしまえばまた反対派は喧しくなる。」
「それは…、そうですが。」
「くどい、
それよりも氷の魔族が何の説明もないという事が気がかりだ、やつらがこちらに楯突くとは考えられん。」
「では誰が…?」
「それがわかればこんな回りくどい事はせん。」
ヴィーリオがため息をついたのと同時に何かが倒れた音がして二人で振り向くとライルが尻餅をついていた…。
「「………………。」」
方や驚き、方や呆れた冷たい視線をライルに投げかける…。
「勇者が尻餅をつく場面など歴代魔王の中で俺ぐらいだろうな。」
「て、鉄の靴だから滑るんだ…。」
「そうか、で?
いつまで生まれたての草食動物の真似をしているつもりだ?」
「す…、滑って立てない…!
すまないヴィーリオ手を貸してくれ。」
「どこの世界に魔王の手を借りる勇者が居るんだ…。」
文句を言いながらも手を貸す、
ライルがヴィーリオの手をつかむがなかなか立ち上がれない。
「このヘタクソめ、
二本足で立つのはお前らの特許だろう!」
「だがこうツルツルしていては難しいぞ!?
なぜお前は平気なんだ!?」
「浮いてるからに決まっているだろう?」
「ずるい!!」
さも当たり前のように言うヴィーリオの足元は確かに数センチだけだが浮いている。
「これは魔力が使える者の特権だ、
貴様にはやらんぞ。」
「ま、魔力を消費するからか?」
「俺は魔王だぞ?
たかが浮遊するだけで魔力を消費するわけないだろう、
ただ純粋にめんどくさいだけだ。」
「お前に優しさは無いのか!?」
「無いに決まっているだろう?
魔族に優しさを求めるな、試練だと思え。」
「これは試練なのか…!?」
端から見れば子供の言い争い……、
いや、むしろコントにしか見えないが二人ともふざけているわけではない。
「魔王様、勇者で遊んでいる場合では…。」
「私で遊んでいたのかヴィーリオ!?」
「いまさら気づくか…、
お前よく一人で魔王城まで来れたな?」
「魔物を倒したら普通に教えてくれたぞ?」
「例え本当だとしても魔物の言葉を簡単に信じるなバカ者。」
鈍い音をたて魔王のデコピンがライルに炸裂した。
「痛いぞ!?」
「魔王様のデコピンをくらって『痛い』で済むのはおかしいぞ。」
指と言っても完全に爪ではじいた、
魔族の爪はかなり鋭利だから切れていてもおかしくないはずだがライルの額は赤くなっているだけで他は何ともない。
「無駄に頑丈な頭だな…。」
爪をやすりで研ぎながら忌々し気にぼやく魔王を尻目にザズィールがライルに手を貸し立ち上がらせる。
「助かった。」
歴代勇者の話を何度か耳にしているがここまで危なっかしいのはいなかったと思う…。
「もうすぐ封印の間に着く、早く行くぞ。」
なぜか若干機嫌が悪いヴィーリオに二人はついていくのだった…。
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