没落貴族令嬢ですが、王子様が私を優しく癒してくれます

冬後ハル(とうご はる)

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1―2 市場での出来事

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辺りが次第に暗くなってきた。

大部分のお店は、店じまいの支度を始めている。

ソフィアは、まだ市場の入り口の近くにいた。

随分と長い時間を、そこで過ごしていた。

「お嬢さん、誰かと待ち合わせだったのかい?」

昼間、ソフィアが腰を抜かした時に椅子を貸してくれた店主が、冷たい果実水を持って来てくれた。

「ありがとうございます。婚約者を待っているんですけど、いつ戻ってくるかも分からなくて……」

ソフィアは、店主のくれた果実水を美味しそうに飲みほして言った。

「もう、ほとんどの店が片付けを始めているよ。可哀想なこと言うけど、その婚約者、先に帰ったんじゃないかい?」

店主は、市場を見渡しながら申し訳なさそうに言った。

ソフィア自身も、そう思っている。

ただ、万が一、ランボが来た時に自分がいなければ、何を言われるか分からないため、ソフィアはこの場を離れることが出来ないのだ。

「まあ、早く見切りをつけて、暗くなる前にお帰り。夜道に女の子ひとりは危ないからね」

そう言って店主は、向こうに行って店の片付けを再開した。

今からでは、真っ暗にならない間に家に帰り着くのは無理である。

それに、家まで歩き続ける自信もソフィアにはなかった。

ソフィアの家は、余裕がなく、使用人はいない。

そして、馬車も持っていないため、ソフィアが帰って来ないからといって、迎えが来ることはまず無いのである。

「おい、そこで何をしている?」

ソフィアは、自分にかけられた声とは分からずに、返答をしなかった。

ソフィアは、この辺りには知り合いもいないため、市場からどうやって安全に家に戻るかを必死に考えていた。

せめて、良心を咎められたランボの使用人が、自分を迎えに来てくれることを願っていた。

「聞こえているのか? そこに立ってるお前に聞いているのだぞ」

ソフィアは、声のした方を見る。

そこに立っていたのは、市場を警備する兵士であった。

「あ、はい、私は、人を待っているのです」

「こんな時間にか? 怪しい、市場荒らしか何かを企んでいるのではないだろうな」

「ち、違います。本当に、婚約者を待っているのです」

「見え透いた嘘を言うな。こっちに来いっ、詳しく取り調べてやる」

「あ、あの……、その女性が言っていることは本当だと思います。その方が持ってる髪飾りは、私の店でご購入頂いたものです。その時、一緒にいた男性に入り口で待つように言われていましたから」

ソフィアは、証言をしてくれた店主の方を見て、何度も頭を下げた。

「本当に、こいつかどうか分からないだろう?」

兵士は、どうしてもソフィアを罪人としたいらしい。

「いえ、良く覚えています。男が女性に物を贈るのに、普通は投げ渡したりしません。それに、一緒にいた男は、この方に意見すら聞かずにそちらの商品をお買い上げになられましたので。全ての行動が異常だったので、良く覚えています」

「何を騒いでおるのだ?」

ソフィアは、聞き覚えのある声がした。

ソフィアは、声の方を恐る恐る向いた。

そこには、王子が立っていた。

「また、そなたか。いったい、どうしたのだ?」

兵士が、王子に事情を説明する。

「はははは」

王子は、声を出して笑った。

「いや、すまない。決して君の正義感を笑ったのではない。だが、この女性にそれは無理だ」

王子は、兵士に報告を笑ったことを詫びた。

「君は、知らないから仕方ないが、今日、この女性は、見知らぬ子を守るために、私の馬車に飛び込んできた。そのようなことが出来る女性が、市場荒らしなどをする訳がないだろう」

王子は、ソフィアの方を向き、声のトーンを落とした。

「それより問題なのは、彼女の婚約者の振る舞いだ。こんなに遅くまで女性を、それも婚約者を放置するとは」

「あ、あの、私ならお気遣いなく。問題になると困ります」

「ならば、私の部下にそなたを送らせよう。この様な時間に、女性ひとりで夜道を歩かせるわけにはいかない」

王子は、すぐに馬車の手配をさせた。

「あ、あの……、もし、私の婚約者が迎えに来たらいけないので、もう少し待ちます。王子様は、私になど構うことなくお帰り下さい」

王子の元に、ひとりの騎士が来て、何やら報告をした。

王子の近衛隊の騎士である。

「今、市場の中を隈無く捜索したが、そなたの婚約者どころか、ここにいる者以外、誰もいなかった。この者は、私が信頼する者だ。安心してよい」

「カインドです。あなたを、お家までお送りします」

ソフィアは、自分が、馬車に乗らなければ、この場が収まらないことを理解していた。

「申し訳ありません……」

ソフィアは、その場にいる全員に、ひとりづつ深々と頭を下げてお詫びをした。

ソフィアを乗せた馬車は、カインドの操縦で走り出した。

既に、道は真っ暗であり、遠くで野犬の遠吠えが聞こえている。

ソフィアは馬車の中で、この事を両親になんと報告すればいいのかと頭を悩ませていた。
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