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1―1 市場での出来事
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「おい、ソフィア、もっと後ろに離れろ」
「はい……、ランボ様」
ソフィアが婚約の挨拶のためモブ家を訪れて、5日後にランボからの使者がスプリング家、つまり、ソフィアの自宅を訪れた。
その使者に言われて、今、ソフィアはランボとともに王都中心部の市場まで来ていた。
ソフィアの父親は、一応貴族であることから、王都に居を構えていたが、階級最下位の『ノンストーン』であり、王都中心部まで馬車で1時間以上、徒歩ではその倍以上かかる王都の端にソフィアたちの住む家はあった。
ソフィアは一応貴族の令嬢であるが、実家はいわゆる没落貴族であり、この様な大きな市場に来るのは初めてであった。
ランボは、辺りをキョロキョロ見回すソフィアが恥ずかしいようで、何度も更に自分から距離を取るようにソフィアに命じている。
ランボは、装飾品の店に入ると、奉仕品の籠から髪飾りを1つ掴み、さっさと会計を済ましてソフィアに投げ渡した。
「おい、お前は市場の入り口で待っていろ」
「えっ、でもまだ……、わ、分かりました、ランボ様」
ソフィアは、市場を見て回りたそうであったが、ランボの言うことには逆らえず、肩を落として市場の入り口に戻っていった。
ソフィアは、木陰に立って市場を行き交う人たちを見ている。
そこに、両親に手を繋がれた小さな女の子の家族がやって来た。
彼らは、その身なりから平民の家族である。
この市場は、この国の王子直轄の市場であり、貴族、平民差別なく利用できるのだ。
王子の部下たちによる管理も徹底されており、店主たちが身分による差別を行うことはなかった。
先ほどの親子の両親が、店主との値段交渉に夢中になっている間に手を放された女の子が1人でウロチョロし始めていた。
ソフィアは、女の子の両親の代わりに女の子を見守っている。
そこへ、馬車が一台が走って来た。
女の子は、目の前を飛んだチョウを追いかけて馬車の前に飛び出してしまった。
ソフィアは、女の子に向かって駆け寄り、馬車から女の子を守るように抱き抱えた。
「ヒヒーン、ブルブル」
ソフィアは、背中に馬の鳴き声を聞いた。
馬車の従者は、ソフィアたちの元に駆けつけ、激しく叱責を始めた。
「そんなに言わずとも良い。子供は、国の未来を創る宝だ。そして、その子供を守り育む者も、また宝だ。民がいてこその王族であることを忘れてはならぬ」
馬車の中から、若い男性の声がした。
「し、しかし、万が一、王子様にお怪我等がございましたら如何なされていたのでしょうか?
この様なことが2度と無いように、きつく申しつけませんと」
従者の言葉から、周りにいた者たちは、馬車の主がこの国の王子であることを理解した。
そして、ソフィアと女の子は、厳罰に処されるだろうと誰もが思っている。
女の子の母親は、地面に顔をつけて嗚咽をあげている。
その時、馬車の扉が開き、1人の若者が姿を現した。
この国の王子、レオン・ワイン・ウイングである。
その場にいた者たちは、全員地面にひれ伏す。
「お前の忠義は良く分かっている。だが、この様に私は怪我ひとつしてはいない。だから、この話はこれで終わりにしろ。さあ、そなたたちも行くがよい」
女の子は、大声で泣きながら両親の元に走って行く。
ソフィアは、腰が抜けて立ち上がれなかった。
「どうした、立てぬのか?」
「も、申し訳ありません、こ、腰が抜けました」
ソフィアは、王子を前にして、本当に腰が抜けることがあるのだと場違いなことを考えていた。
「あっ」
王子は、ソフィアの手を取り、ソフィアを優しく立たせると、肩を抱き、ソフィアを道の脇まで連れていく。
そして、沿道の店主に椅子を準備させて、そこにソフィアを座らせた。
「少し休め。店主も、椅子を借りるが良いな?」
ソフィアと店主は、慌てて首を縦に振った。
王子は、馬車に乗り込むと、何事もなかったようにその場を走り去った。
王子の馬車が見えなくなると、市場は再び賑わいと活気を取り戻した。
「どうぞ」
先ほどの女の子が、花を一輪ソフィアに差し出した。
その後ろで、女の子の両親が何度も何度もお礼を言っている。
ソフィアは、女の子の頭を優しく撫でてあげた。
ソフィアは、女の子たちと別れると、椅子を借りた店主に礼を言い、再び市場の入り口近くの木陰に向かった。
ソフィアは、いつ帰るか分からないランボを待ちながら、市場を行き交う人たちを眺めていた。
「はい……、ランボ様」
ソフィアが婚約の挨拶のためモブ家を訪れて、5日後にランボからの使者がスプリング家、つまり、ソフィアの自宅を訪れた。
その使者に言われて、今、ソフィアはランボとともに王都中心部の市場まで来ていた。
ソフィアの父親は、一応貴族であることから、王都に居を構えていたが、階級最下位の『ノンストーン』であり、王都中心部まで馬車で1時間以上、徒歩ではその倍以上かかる王都の端にソフィアたちの住む家はあった。
ソフィアは一応貴族の令嬢であるが、実家はいわゆる没落貴族であり、この様な大きな市場に来るのは初めてであった。
ランボは、辺りをキョロキョロ見回すソフィアが恥ずかしいようで、何度も更に自分から距離を取るようにソフィアに命じている。
ランボは、装飾品の店に入ると、奉仕品の籠から髪飾りを1つ掴み、さっさと会計を済ましてソフィアに投げ渡した。
「おい、お前は市場の入り口で待っていろ」
「えっ、でもまだ……、わ、分かりました、ランボ様」
ソフィアは、市場を見て回りたそうであったが、ランボの言うことには逆らえず、肩を落として市場の入り口に戻っていった。
ソフィアは、木陰に立って市場を行き交う人たちを見ている。
そこに、両親に手を繋がれた小さな女の子の家族がやって来た。
彼らは、その身なりから平民の家族である。
この市場は、この国の王子直轄の市場であり、貴族、平民差別なく利用できるのだ。
王子の部下たちによる管理も徹底されており、店主たちが身分による差別を行うことはなかった。
先ほどの親子の両親が、店主との値段交渉に夢中になっている間に手を放された女の子が1人でウロチョロし始めていた。
ソフィアは、女の子の両親の代わりに女の子を見守っている。
そこへ、馬車が一台が走って来た。
女の子は、目の前を飛んだチョウを追いかけて馬車の前に飛び出してしまった。
ソフィアは、女の子に向かって駆け寄り、馬車から女の子を守るように抱き抱えた。
「ヒヒーン、ブルブル」
ソフィアは、背中に馬の鳴き声を聞いた。
馬車の従者は、ソフィアたちの元に駆けつけ、激しく叱責を始めた。
「そんなに言わずとも良い。子供は、国の未来を創る宝だ。そして、その子供を守り育む者も、また宝だ。民がいてこその王族であることを忘れてはならぬ」
馬車の中から、若い男性の声がした。
「し、しかし、万が一、王子様にお怪我等がございましたら如何なされていたのでしょうか?
この様なことが2度と無いように、きつく申しつけませんと」
従者の言葉から、周りにいた者たちは、馬車の主がこの国の王子であることを理解した。
そして、ソフィアと女の子は、厳罰に処されるだろうと誰もが思っている。
女の子の母親は、地面に顔をつけて嗚咽をあげている。
その時、馬車の扉が開き、1人の若者が姿を現した。
この国の王子、レオン・ワイン・ウイングである。
その場にいた者たちは、全員地面にひれ伏す。
「お前の忠義は良く分かっている。だが、この様に私は怪我ひとつしてはいない。だから、この話はこれで終わりにしろ。さあ、そなたたちも行くがよい」
女の子は、大声で泣きながら両親の元に走って行く。
ソフィアは、腰が抜けて立ち上がれなかった。
「どうした、立てぬのか?」
「も、申し訳ありません、こ、腰が抜けました」
ソフィアは、王子を前にして、本当に腰が抜けることがあるのだと場違いなことを考えていた。
「あっ」
王子は、ソフィアの手を取り、ソフィアを優しく立たせると、肩を抱き、ソフィアを道の脇まで連れていく。
そして、沿道の店主に椅子を準備させて、そこにソフィアを座らせた。
「少し休め。店主も、椅子を借りるが良いな?」
ソフィアと店主は、慌てて首を縦に振った。
王子は、馬車に乗り込むと、何事もなかったようにその場を走り去った。
王子の馬車が見えなくなると、市場は再び賑わいと活気を取り戻した。
「どうぞ」
先ほどの女の子が、花を一輪ソフィアに差し出した。
その後ろで、女の子の両親が何度も何度もお礼を言っている。
ソフィアは、女の子の頭を優しく撫でてあげた。
ソフィアは、女の子たちと別れると、椅子を借りた店主に礼を言い、再び市場の入り口近くの木陰に向かった。
ソフィアは、いつ帰るか分からないランボを待ちながら、市場を行き交う人たちを眺めていた。
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