没落貴族令嬢ですが、王子様が私を優しく癒してくれます

冬後ハル(とうご はる)

文字の大きさ
2 / 10

1―1 市場での出来事

しおりを挟む
「おい、ソフィア、もっと後ろに離れろ」

「はい……、ランボ様」

ソフィアが婚約の挨拶のためモブ家を訪れて、5日後にランボからの使者がスプリング家、つまり、ソフィアの自宅を訪れた。

その使者に言われて、今、ソフィアはランボとともに王都中心部の市場まで来ていた。

ソフィアの父親は、一応貴族であることから、王都に居を構えていたが、階級最下位の『ノンストーン』であり、王都中心部まで馬車で1時間以上、徒歩ではその倍以上かかる王都の端にソフィアたちの住む家はあった。

ソフィアは一応貴族の令嬢であるが、実家はいわゆる没落貴族であり、この様な大きな市場に来るのは初めてであった。

ランボは、辺りをキョロキョロ見回すソフィアが恥ずかしいようで、何度も更に自分から距離を取るようにソフィアに命じている。

ランボは、装飾品の店に入ると、奉仕品の籠から髪飾りを1つ掴み、さっさと会計を済ましてソフィアに投げ渡した。

「おい、お前は市場の入り口で待っていろ」

「えっ、でもまだ……、わ、分かりました、ランボ様」

ソフィアは、市場を見て回りたそうであったが、ランボの言うことには逆らえず、肩を落として市場の入り口に戻っていった。

ソフィアは、木陰に立って市場を行き交う人たちを見ている。

そこに、両親に手を繋がれた小さな女の子の家族がやって来た。

彼らは、その身なりから平民の家族である。

この市場は、この国の王子直轄の市場であり、貴族、平民差別なく利用できるのだ。

王子の部下たちによる管理も徹底されており、店主たちが身分による差別を行うことはなかった。

先ほどの親子の両親が、店主との値段交渉に夢中になっている間に手を放された女の子が1人でウロチョロし始めていた。

ソフィアは、女の子の両親の代わりに女の子を見守っている。

そこへ、馬車が一台が走って来た。

女の子は、目の前を飛んだチョウを追いかけて馬車の前に飛び出してしまった。

ソフィアは、女の子に向かって駆け寄り、馬車から女の子を守るように抱き抱えた。

「ヒヒーン、ブルブル」

ソフィアは、背中に馬の鳴き声を聞いた。

馬車の従者は、ソフィアたちの元に駆けつけ、激しく叱責を始めた。

「そんなに言わずとも良い。子供は、国の未来を創る宝だ。そして、その子供を守り育む者も、また宝だ。民がいてこその王族であることを忘れてはならぬ」

馬車の中から、若い男性の声がした。

「し、しかし、万が一、王子様にお怪我等がございましたら如何なされていたのでしょうか?
 この様なことが2度と無いように、きつく申しつけませんと」

従者の言葉から、周りにいた者たちは、馬車の主がこの国の王子であることを理解した。

そして、ソフィアと女の子は、厳罰に処されるだろうと誰もが思っている。

女の子の母親は、地面に顔をつけて嗚咽をあげている。

その時、馬車の扉が開き、1人の若者が姿を現した。

この国の王子、レオン・ワイン・ウイングである。

その場にいた者たちは、全員地面にひれ伏す。

「お前の忠義は良く分かっている。だが、この様に私は怪我ひとつしてはいない。だから、この話はこれで終わりにしろ。さあ、そなたたちも行くがよい」

女の子は、大声で泣きながら両親の元に走って行く。

ソフィアは、腰が抜けて立ち上がれなかった。

「どうした、立てぬのか?」

「も、申し訳ありません、こ、腰が抜けました」

ソフィアは、王子を前にして、本当に腰が抜けることがあるのだと場違いなことを考えていた。

「あっ」

王子は、ソフィアの手を取り、ソフィアを優しく立たせると、肩を抱き、ソフィアを道の脇まで連れていく。

そして、沿道の店主に椅子を準備させて、そこにソフィアを座らせた。

「少し休め。店主も、椅子を借りるが良いな?」

ソフィアと店主は、慌てて首を縦に振った。

王子は、馬車に乗り込むと、何事もなかったようにその場を走り去った。

王子の馬車が見えなくなると、市場は再び賑わいと活気を取り戻した。

「どうぞ」

先ほどの女の子が、花を一輪ソフィアに差し出した。

その後ろで、女の子の両親が何度も何度もお礼を言っている。

ソフィアは、女の子の頭を優しく撫でてあげた。

ソフィアは、女の子たちと別れると、椅子を借りた店主に礼を言い、再び市場の入り口近くの木陰に向かった。

ソフィアは、いつ帰るか分からないランボを待ちながら、市場を行き交う人たちを眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...